第28話 因縁
文字数 5,265文字
ワトソン重工の日本支社ビル内・入り口大ホール
2025年3月某日 午前11時23分頃
ヘルムートは中年男性の執拗な攻撃を最低限な動きで軽くかわしていた。
12年前の大ボリバル共和国の首都、リベルタドル市で初めて転生した大統領と対峙して以来、訓練と鍛錬で自分の戦闘技術を極限まで高めていた。
あの時、闇の評議会の決定で行われた
ヘルムートはこの死臭のする新しい
「何故捕まらん、何故だ!」
と中年男性は
あれこれ約8分、中年男性の攻撃をかわし、反撃に転じていなかった。
「貴様!!闇の評議会戦闘員め!!逃げるな!!」
と怒りを表しながら中年男性が
ヘルムートは無言でかわすのを止めて、中年男性に対して答えた。
「逃げてない。
中年男性はそれを聞いて、更に怒りを増幅させた。
「殺してやる!!貴様を殺して、食ってやる!!」
と
ヘルムートは相手を逆上させることで油断を誘い、体当たりしてくる宙に浮いた
中年男性の
元大統領は痛みを感じ、大きな悲鳴を上げた。
「12年前、お前の国でやるはずだったことを今終わらせる。覚悟しろ、生ごみの
ヘルムートは軽蔑の籠った口調で大統領に言った。
「貴様、舐めるな!!我は強い
と中年男性。
「転生しても品格を得なかったな。」
とヘルムートは皮肉った。
「我は世界の王者になる者!!!貴様を殺す!!」
「下品な世界の王者はごめんだね。」
と更にヘルムートは挑発した。
先ほど切られた
ヘルムートが思ったのは、この中年男性の再生能力は数倍改良されていると見ても間違いない。
ワトソン重工のジャブロー研究所でどんな実験が行われているのか見に行く必要がある。
どんな内容であれ、世界のため、破壊しなければならないとも思った。
大統領と呼ばれていた中年男性は焦っていた。治療も改良手術も受けたはずなのに、この闇の評議会の一戦闘員を捕まえることができない。そう考えているうちに奥の手を使うことを思いついた。
「我が
と
入り口ホールとビル内にいる彼の系統の者たち全員にその命令は届いたが、誰も動かなかった。
誰も彼が今いる場所を見向きもしなかった。
「我の命令だ!!集まれ!!」
と再度叫んだ。
彼の
「何故だ!!何故誰も答えてくれん!!」
と怒鳴った。
中年男性はそこにいる全員の思考を覗いた、単純なものしか見えなかった。
「何故だ、
確かに中年男性はそこにいる全員を転化させていた、田森元首相、小島や田原を含む歴然の猛者たち、
男性は後ろへ飛んでヘルムートから距離を取った。その近くで戦っていた
「貴様、我はお前の
捕まった男性隊員は軽蔑な眼差しで中年男性を見て、銀コーティングされたサバイバルナイフ、自分を捕まっている
「貴様!!
と怒りで怒鳴った。
「
と東南アジア系男性隊員は大統領に向かって、反抗的に答えた。
「貴様!!何故だ!!何故言うことを聞かんのだ!!」
「教えてやろう、薄汚いお前は最初から会社の利益のための実験体だったんだ。」
と軽蔑を表しながら、隊員は話した。
「貴様!!」
怒りで表情を歪みながら、中年男性は
「お前はただのピエロ、お前はただ利用されて、捨てられる運命の者だ!」
隊員は笑いながら大統領を罵った。
大統領は朝に見た夢を思い出した、あの影の男に言われたこと。
「貴様!!」
と隊員に対して怒鳴り、3本の
「
ともう1本の
全てのやり取りを見ていたヘルムート、素早く大統領の後ろに立ち、斜め上からロングソードを振り下ろした。
間一髪で大統領はそれを避け、怒りの目でヘルムートを睨んだ。
「今すぐ引導を渡してやる、自称世界の王者。」
ヘルムートは真剣な口調で大統領に言った。
「闇の評議会の戦闘員にやられてたまるか!」
と大統領は叫んだ。
叫び終わったところでヘルムートの義手の拳が彼の鼻にクリーンヒットした。
反動で頭が後ろへ反り、今度は後ろから後頭部に膝蹴りが当たった。
また頭は前へ反り、顎にヘルムートの右アッパーがさく裂した。
体ごと後ろへ飛ばされた中年男性は今度は上から胸辺りに宙返り蹴りが当たった。
Vの字に体が折られた大統領は地面に落ちた。
素早くヘルムートは両手で
大統領の裂けた口から血が溢れだし、ヘルムートから顔にパンチの連打をくらった。
中年男性は手で顔を庇おうとしたが、ヘルムートの攻撃は激化した。
右腕が文字通りもぎ取られた上、左腕は数か所の骨が折られた。
大統領は信じられなかった、自分がこんなにもあっけなくやられることが。
「田森よ、小島よ、我を助けろ。」
と
それと同時、男は田森の思考を覗いた。そこで感じたのは恐怖だった、迫ってきている
信長の
小島の思考も覗いた、そこで予想外なものを感じた。それは純粋で明確な自分への「軽蔑」だった。
本来小島は
「死ね、ゴミの王。」
と頭の中に響いた。
「私の頭を覗くな、外道め。」
も更に届いた。
大統領は打ち砕かれたと感じた。夢で言われたことは全部本当だった。
中年男性の上で馬乗りとなったヘルムートは休むことなく殴っていた。男の顔は変形していた。
このまま男は全て暗くなっていくと感じた。
そこで一つの声が頭の中に響いた。
「世界の王者とやら、これはお前の真の実力か?、余との約束を忘れたか?」
夢で見た存在からのメッセージだった。中年男性は覚醒した。
ヘルムートは胸ぐらを掴まれて、体ごと遠くへ投げられ、壁にぶつかった。
大統領と呼ばれていた中年男性は仁王立ちしていた。急速再生で怪我、腫れなどが治り、
新しい
「よくもやってくれた評議会の虫め。」
と怒りの籠った
ヘルムートはゆっくりと立ち上がり、中年男性を見た。
「少しマシになったな、ごみの
と挑発した。
「我はごみの
中年男性は名乗った。
「では、ビクトル・ウゴ・ごみ卿、喧嘩再開と行こうぜ。」
とヘルムートはまた挑発した。
2人はぶつかり合った。
「逃げるのか?評議会の犬め!」
とビクトル・ウゴ卿と名乗った
「まさか。ごみ相手に逃げるわけない。」
とヘルムートは皮肉った。
ビクトル・ウゴ卿は触手テンタクル牙ファングを口の中に引込めた。そして彼独自の能力を発動した。それは【
大きく裂けた口から巨大な蛸の足と頭が一緒になったようなものが
ヘルムートは飲み込まれた瞬間に
ビクトル・ウゴ卿の
ビクトル・ウゴ卿は一度怯んだが、また別の独自の
それは【
また口から大きなサーベルタイガーのような鋭い複数の牙が生え、ヘルムートの義手を噛んだ。
ヘルムートはビクトル・ウゴ卿の眉間を思い切り殴った。その隙に義手を引込めて、顎を蹴った。
両者はまた距離を取り、お互いを睨みあった。
「芸当はそれだけか?」
とヘルムートはまた挑発した。
ビクトル・ウゴ卿は
「恐怖したな、評議会の虫けらめ。」
「お前にか?寝言は寝てから言えよ、ごみ卿。」
「来いよ、虫けら、我の糧になれ!」
「なるかよ。覚悟しろ、ごみ卿。」
ヘルムートが自分の
霧と化したヘルムートは
ビクトル・ウゴ卿は自分の一気に膨らんだ腹部を見て、唖然とし、恐怖に駆られた。
「
とヘルムートは念じた。
ヘルムートは胃の中で実体化し、ビクトル・ウゴ卿の体の中を爆発したかの如くに突き破り、死臭をする肉片に変えた。
血と死臭する汚物まみれとなったヘルムートは先までビクトル・ウゴ卿がいたところに立っていた。
周りに死臭する肉片、内臓と汚物が散乱していた。
ビクトル・ウゴ卿の上唇から上残っていた頭を見た。その残り物の頭の目から恐怖、これから訪れる死へ恐怖をヘルムートは感じ取った。
両手でそれを掴み、持ち上げた。その頭の目が大粒の涙を流していた。
「ご慈悲を、ご慈悲を。」
と弱い
ヘルムートは軽蔑の目でその頭を見て、力いっぱい込めて、両手で一気にそれを潰した。
ビクトル・ウゴ卿は潰されるまでの瞬間に
「やはりお前は負けた。期待した余は馬鹿だった。外道は転生しても、外道のままだ。地獄で永遠に焼かれるが良い。そして先に死ぬことを味わえるお前を呪うぞ、生まれ変われないように。」
ビクトル・ウゴ卿は恐怖と悲しみに打ちのめされた。転生前の人生、転生後の人生でも、ずっと裸の王様だった。絶望と悲しみに溺れているところ、突然一瞬の激痛を感じ、何も見えなくなった。
ヘルムートが12年前に任された任務がたった今、完了した。
彼は手を拭き、弥生と田森が戦っているところへ歩き出した。
「任務完了。」
と一人でつぶやいた。
小島、田森そしてビクトル・ウゴ卿と名乗っていた中年男性の元大統領の眷族たちが頭の中に感じていた不快感は消えた。全員自由になった。
小島は入り口ホールにいる
「後3分でこちらの荷物を回収する。完了次第、全員退却。一般戦闘員は除外。」
「アイアイサー。」
と残った16名全員返答した。
250人の戦闘員の中、30名は
その中今回の戦いで13名が犠牲となり、1人は敵側に寝返った。
部隊の残り26名はワトソン重工の本社を警備していた。
最後の2人は南米のプエルー共和国出身の兄弟で、人が出払った警視庁へ侵入させていた。
「ペドロ君、パブロ君、任務はどうだ?」
と
「侵入成功、小島隊長。」
と長兄のペドロは応答した。
「小うるさいハエ数匹を素早くそして隠密に処理しました。」
と弟のパブロは報告した。
「お願いした隊員候補を拾ったか?」
と小島は確認した。
「はい、隊長。
と長兄ペドロは報告した。
「脱出して、合流地点へ向かえ。警視庁にいる
と小島は命令した。
「アイアイサー。」
と兄弟揃って応答した。
弟のパブロは怪我で意識を失っていた植田緑元分析官を担いでいた。
地下にいる厄介な
シェルター行きのエレベーターを守っていた
小島はあの兄弟をスカウトして良かったと思った。一般人にしてオーラが禍々しく、おそらくスカウトしなければ連続殺人鬼になっていたのだろうと確信した。
「ほぼ完了だね。良かった。」
と静かにつぶやいた。
悲しい出来事の連続の後、小島に笑顔が戻った。