第5話    遺体

文字数 1,768文字

リベルタドル市、大ボリバル共和国の首都・2012年12月31日 21時40分頃
ミラコスタ宮殿

先ほど届いた偉大なる指導者の遺体が目の前にあった。
この国の副大統領はそれをまっすぐ見ていた、軽蔑な眼差しで。
大統領の遺体がベットに置かれていた、眠るように。

その周り、官僚や大臣が集まっていた、昨年の中旬に癌が見つかってから遅かれ早かれこの結末を覚悟していた。覚悟というより楽しみにしていた者もいた。
医療大国のキューバ人民共和国での必死の癌治療が功を奏するなく、痛みでもがき苦しみながら息絶えたと聞いてた。

「いい様だ。」

副大統領が考えていた。

目の前にいる遺体が偉大なるこの国家の元首の遺体であり、また圧倒的な投票数で大統領の任期を延長したばっかりだった。圧倒的な投票数といっても、不正を働かしての勝利であった。

今こんなクズの極みみたいな壮大ゴミ野郎に死なれても困る。大統領に反対している勢力が選挙不正を訴え、合衆国を含む強力な国家の注意を引いていた。
副大統領は思った、今となって大嫌いなこいつのカリスマ性に縋るのは癪だ。可能なら燃やして、灰をゴミに出したいとさえ思っていた。

「どうしますか、副大統領閣下?」

首相が聞いてきた。

「どうするもこうするもない。我が偉大なる解放者ボリバルの意思を引き継ぐ南米一の大国の偉大なる大統領閣下には少なくても後半年ぐらい生きてもらわないと困る。」

と冷たく答えた。

「承知しました。」

首相が返事した。

「官邸報道官を今すぐここに呼べ。」

副大統領が命令した。

「お呼びでしょうか、副大統領閣下。」

30代後半の官邸報道官がすぐ前に出てきた。

「全国民に向けて、今夜は私が演説を行う、偉大なる大統領閣下が見ての通り、体を悪くしている。回復するまで、私は代理で実務を行う。原稿を今すぐ作れ、一刻を争う。」

「はい、仰せの通り副大統領閣下。」

若い官邸報道官が答えて、部屋から大急ぎで出て行った。

副大統領は怒っていた。ずっと大統領の下で働いていた、汚い仕事もした、こいつの下の世話まで、若い女性、男性、熟女、子供など用意もした。そして自分の手でそれを全て葬ってきた。
癌が見つかり、こいつはもう長くないと分かった時、自分の屋敷で声が枯れるまで大笑いをした。

副大統領は自分自身は地獄行きだろうなと思っていたが、このクズは自分より遥かに酷い地獄行きであることは先ず間違いない。

自制心もなく、極度のサディスト、良心の欠片もなく、病的なまでの嘘つき、尊大で自己中心的、悪意の塊の意地汚いな軍人崩れだが、偉大なるカリスマ性と天才的な演説力を持って生まれていた。

「くそ野郎め、地獄へ落ちろ。」

副大統領は遺体を見ながらつぶやいた。

無能(バカ)を装うのは楽じゃなかった。あんまりにも有能だったら、こいつに粛清されていたと見ても間違いない。裏で有能な官僚や軍人、政治家、こいつに妬まれて葬られてきた。

今ベットに横たわっている遺体は生きていた時は平気で嘘を付き、騙し、たらい回し、裏切り、人々を痛めつけるのは日常茶飯事の生活を送っていた。
国民からしたら自分はこいつの金魚のふんみたいに映っているのは分かっていた。そして馬鹿(ロバ )と揶揄られていることも知っていた。副大統領はそれはそれでいいと思った。

今後6ヶ月、自分の政権の地盤を築き上げることにしなければならない。石油もたっぷりあるし、強豪国の一部が石油狙いで自分を援護することも約束されている。全て大統領がいなくなったおかげで自分の手に治めることとなった。

「報道官の原稿はまだか?」

隣に立っていた初老の官僚に聞いた。

「直ちに確認します。」と返事した。

すっかり外は暗くなり、年が変わる前に全国民に向けて夜の特別演説になりそうと副大統領は思った、そして再びベットにある遺体に目を向けて、心の中で罵った。
その時だった、偉大なるこの大ボリバル共和国の大統領閣下の遺体が目を開けた。

夜になったため、ミラコスタ地区のリベルタドル市歴史博物館近辺を歩いていたヘルムートの頭に(マスター )よりの(テレパス )が届いた。

「我が忠実なしもべ、ヘルムートよ、大統領の転生が始まった。」

頭の中に(マスター )の声が響いた。

「はあ、我が(マスター )、今すぐに阻止します。」

と答えた。

「阻止するでない、転生終わる前に滅亡せよ。」

(マスター )が命令した。

ヘルムートは焦った、相当厄介なことになった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ヘルムート・フォン・ブランケンブルク

闇の評議会一戦闘員。ドイツ人。

吸血鬼の長寿者《エルダー 》。

評議会で唯一、主《マスター 》級殺しをできると言われている。

小島純次

ワトソン重工の実動部隊、牙《ファング 》小隊(プラトーン 》の長。

あだ名は紅《レッド 》の生存者《サバイバー 》の小島。

どんな過酷で地獄のような任務でも必ず無傷で生き残る凄腕の傭兵。

元フランス軍外人部隊少佐。日本人、東北地方出身。

田森喜男

日本国元首相。石川県選出の元国会議員。日本人。

モデルは某失言の多い元首相。

国益第一の愛国者だったが、ワトソン重工に騙され、

南米人の怪物を日本へ入国する手伝いをするはめとなり、裏切り者になる。

黒岩弥生

弥助とあのお方の妹の娘で日本系統吸血鬼の長寿者《エルダー》

公安部第五課の理事官、階級は警視。黒人と日本人のハーフ。

うねりのある黒髪が特徴。

大ボリバル共和国・元大統領

数百年ぶりに吸血鬼の主《マスター》へ転生した極悪非道な人間。大ボリバル人

本名はビクトル・ウゴ・リバス・チャベス。
モデルは某ベネズエラ元大統領。

ウィルヘルミナ・“ミナ”・ハーカー

ブラム・ストーカの小説「吸血鬼ドラキュラ」のヒロイン。イギリス人。

吸血鬼。1888年に転化。

作品の世界でアーカード卿(元ドラキュラ伯爵)の眷族で凄腕の戦闘員。

中山新一

イギリス人吸血鬼の主《マスター 》ルスヴン卿とあのお方の子孫の子供。

ハーフ。イギリス名:アーサー・シンイチ・ルスヴン。

公安部第五課の理事官、階級は警視。

1910年生まれ。半吸血鬼。

田原一豊

ワトソン重工の実動部隊、牙《ファング 》小隊《プラトーン 》の副官。

元フランス軍外人部隊の大尉。日本人、小島の幼馴染で同じく東北地方出身。

植田緑

元警視庁分析官。日本人。田森のスパイ。

本人は知らないが、戦いの才能がある。本作悪のマドンナ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み