第18話 悲劇の来訪
文字数 3,228文字
2012年12月31日 23時25分頃
中心部より5キロメートル、スクレ市境周辺
ヘリコプターとの合流地点
小島は明るくなった夜空を見ていた。
自分の目が明らかに夜を明るく捉えていた。これは転化の恩恵と自分で納得した。
今日起こったこと、全ては預言通りになったので、改めて
預言の中でも核攻撃について書かれており、おそらくはその通りになるだろうと思っていた。
大統領は専用の血入りタンクに入れられて、今は損傷を受けた体をゆっくりと再生していた。
闇の評議会の凄腕戦闘員にこっぴどくやられていたため、大統領は深い眠りに入った。
避難用の巨大HC.6ヘリコプター2機が着陸し、4人の隊員はタンクを中へ運んでいた。
残りの隊員は6台のストライカー装甲車に爆発装置を付けたり、合流地点の周囲を警戒し散らばって注意深く警備をしていた。
小島は大統領が深い眠りについてたので全隊員に小瓶に入っている透明液体をすぐ飲むように命令した。これもワトソン重工のトップの指示だった。今夜飲んでいる分と昨日飲んだ分を含めてこれからずっと1日1回、飲まなければならないものであると厳重に命令されていた。その液体には味はないものの、感覚的に薬に思えて、好きではなかった。自分の分を飲んだら、昨夜、まだ転化前に予防として飲んだ分との違いはすぐにわかった。転化直後に頭の中に感じていた一種の軽い不快感の感覚がほぼ消えた。これから行くワトソン重工のジャブロー研究所の研究責任者の説明によると干渉を受けず、自分の考えは読まれないが、相手にそのことを悟らせない、相手の声(テレパス)による明確な命令がクリアに伝わる、相手には単調な思考しか読まれない、要約するとその透明液体は自分たちを大統領の支配能力から守る血清だった。
ジャブロー研究所の全研究員、警備員、民間事務員の
この時のため、この転生劇のため、ワトソン重工が数十年前から準備していたのは明白だった。
「それでは出発しましょう、皆さん。」
小島が隊員に声をかけた。
全員はヘリコプターに乗り始めたところ、突然近くの林から
隊長である小島は正直に驚いていた。
合流地点に向かう途中の道で
「皆さん、撃ちなさい。」
小島が隊員に命令した。
「全員、
副官の田原の怒号が聞こえた。
全隊員が一斉に撃ち始めた。大群の先頭にいた
民間人、警察官、軍人など入り交じり、自分たちのいる場所を目指して、襲ってきた。
小島が
小島が育った日本の東北地方の伝承の中に
彼は推測した、
「田原君、ちょっと、あれは私が討ち取るよ。」
と言いながら、小島は狙いを定め、何発か撃った後、赤いドレスの女性
避難用のヘリコプターに全員が乗って、チヌークHC.6の機体後部ドアが閉められ、離陸を始めた。
キャビンドア部とその対面の脱出用ハッチ部、機体後部のカーゴランプ上に設置してあったブローニングM2重機関銃に隊員が配置され、自分たち目掛けに集まってくる
ヘリコプター2機はジャブロー研究所への進路を取った。
約15分後、ジャブロー研究所方面に飛んでいたところ、小島はある違和感を感じて、真剣な表情で隊員に命令した。
「何かにつかまりなさい!」
と命じた。
全員が命令に従った直後に熱い核爆風がヘリコプター2機に直撃した。
幸いある程度距離を稼いだため、大きな揺れで終わったが、自分たちが離れたリベルタドル市首都圏のあったところに核爆発の巨大な2つのキノコ雲が立っていた。
リベルタドル市 大ボリバル共和国首都
2012年12月31日 23時30分頃
リベルタドル市-ボリバル・スクレ空港間の高速道路
ヘルムートは大急いで空港方面の高速道路でパトロールカーを飛ばしていた。
驚いたことに高速道路は空いてた。首都圏から逃げる市民で溢れかえると思ってたが、そうではなかった。
皆、
片手で運転するのは意外に難しく、苦戦していた。それでも連続的に近距離瞬間移動を使うよりは楽だった。あの系統能力が便利な分、使い過ぎるとすぐ
高速道路を運転していると先に大勢の影が見えた。高速道路を歩いて、自分目掛けに迫って来てる。
発生して一時間以内にリベルタドル市首都圏に感染が広がったと思った。
このまま前から迫ってくる
考えているうちに、大きなエンジンの騒音と強烈な光に照らされ、車を止めて、上空を見た。
ボリバル解放空軍、1機の攻撃ヘリコプター、ロシア製Mi-24が高速道路上に着陸した。
大きな横ドアが開いて、見覚えのある顔が下りて来た。
東欧出身の合衆国在住の
このイギリス人女戦士と20世紀初めから数回衝突したことがあった。あの
「お久しぶり、ヘルムートさん。第一次湾岸戦争の時以来ですね。」
いたずらっぽい笑顔を浮かびながら、ミナは言った。
「何故ここに?」
ヘルムートが聞いた。
「闇の評議会の要請であなたを迎えに来た。急いでこれに乗って、
ミナが真剣な表情でヘルムートに伝えた。
「でも
ヘルムートは質問した。
「自分でも気が付いたと思うけど、全員は助けられないの。あの
ミナが答えた。
「わかった。」
と言いながら、ヘルムートがヘリコプターに乗った。
そして攻撃ヘリコプターはボリバル・スクレ空港方面へ飛んで行った。
15分後、闇の評議会が手配したロシアの潜水艦から発射された核弾頭入りミサイル2機がリベルタドル市首都圏上空で爆発し、残ってた
後の歴史がこの悲劇をリベルタドル市大晦日の大悲劇と呼ぶこととなる。