第26話 警視監対警備責任者
文字数 2,217文字
ワトソン重工の日本支社ビル内・入り口大ホール
2025年3月某日 午前11時20分頃
森成利は小橋を一方的に押し、圧倒していた。
「降参しろ、殺したくない。」
と森。
「断る。命をくれたものたちへの恩義がある。」
小橋が答えた。
「手加減はできん。」
と言いながら森は小橋の日本刀を切った。
体が切られる寸前に小橋が後ろへ飛んで、森から距離を稼いだ。
「刀を切った。降参しろ。」
再度森は小橋へ促した。
「絶対に嫌だ。この命はワトソン重工の栄光のために捧る。」
小橋は明確に降参しないことを表明した後、サバイバルナイフをホルダーから出して、
また構えた。
「頑固者、最後の警告だ、降参しろ。」
「私はワトソン重工に命をもらった者、この命はワトソン重工のために使う。」
森は構えた、ワトソン重工のセキュリティ責任者に対して一礼をした。
本気で命をかける者に対して敬の表しだった。
「許せ。」
とつぶやき、猛スピードで切りかかった。
小橋の右手が地面に落ちた、サバイバルナイフとともに。
彼は人工的に造られた
全ては田森元首相の人工的転化をスムーズに行うため。小橋はその捨て駒だった。本人もそれを理解していたが、余命1カ月末期がんの患者だった自分が、実験のおかげで10年間生き延びていた。
森は彼のオーラで
そのために、敵とはいえ、殺したくなかった。
小橋は落とされた右手の傷口から血が溢れるのを見て、悲鳴を上げた。
森はまた彼に対して、振り向いて、構えた。
小橋はズボンの左ポケットから無針注射器を取り出した。そして自分の首に当てて、打った。
この注射器は小島から渡されたものだった。
「打つ手なしの時以外、使わないでね。」
と小島から言われていた。
敵に対して今は打つ手なかった。信長の配下に降参もしたくなった、小島とワトソン重工への恩義と忠義を果たしたかった。
中身について小島から聞いた。ワトソン重工のジャブロー研究所で造られた試験的血清。
彼のような
血清の効果は一時的なもので、急激と強制的に能力が与えられるため、効果が切れると体が燃えて、滅びることになる。
小橋は感じた、自分の体が熱くなり、筋肉が一気に増えて、切られた手がすぐに再生された。
目が赤くなり、
体全体が大きくなり、一気に2.5メートルの巨漢となった。
小橋は何かしゃべろうとしたが、裂けた口から出るのは唸り声のみだった。
「何てことだ。」
森がつぶやいた。
即席
森は間一髪で攻撃をかわし、後ろへ回った。
小橋はすぐに振り向き、今度
森は日本刀で彼の攻撃をかわし、2本を切った。
切られた
小橋の上半身が非常に大きくなり、四肢動物のようになった。背中からも鋭い針のようなものが生えてきた。
彼の赤い目に狂気が宿り、額から2本の大きな角が伸びてきた。
小橋には理性、人間性、思考もなかった。彼には攻撃性の本能と血肉への飢えしかなかった。
森は近くに戦っていた者たち、敵味方関係なしに対して叫んだ。
「注意しろ、逃げろ。」
何人か振り向いて、
人間性を失った小橋が小競り合いしているグループへ方向転換し、襲いかかってきた。
それを見た数人、戦いを止め、逃げ始めた。
森は急いで移動し、また彼の前に立った。
「頑固者め、葬ってやる。」
手りゅう弾を取り出し、襲いかかろうとする野獣の口めがけに投げた。
小橋は
口の中でそれが爆発し、首から上、全てなくなった。
頭を失った野獣は床に倒れた。
森は倒れている野獣のところへ行き、遺体を見た。
「かわいそうに。」
と哀れみを感じながらつぶやいた。
その時だった、なくなったはずの頭がゆっくりと再生し始めた。
小橋の体はゆっくりと立ち上がった。頭は中途半端に再生された、
人や動物とも言えない、奇妙なものになった。
小さい一つの赤い目、2本の
小橋だった何者が肉の裂け目のような口から野獣のようにお雄たけびを上げた。
そこには脳が既になかった。血清の効果で肉体だけが勝手に動いていた。
今度は野獣の動きが鈍く、立ち上がるのがやっとだった。
森は哀れみの目で小橋だったものを見て、悲しみの感じ取れる声で彼に話した。
「今、楽にしてやる。」
森は信長の系統独自の
握っていた日本刀は炎に覆われ、炎そのものとなった。
森は凄まじいスピードで野獣を細かく切り始めた。
炎の剣で切られた野獣の肉片の再生能力が追いつかず、炭化した。
炭化したのち、血清の効果が切れ、灰となった。
森は灰となっていく炭化した肉片に手を合わせた。
田原と隊員仲間を失った悲しみを感じながら、小島は弥生と田森が戦っているところへ移動している最中に小橋が滅ぼされたことに気づいた。
彼は仲間ではなかった、ワトソン重工の偉大な目的のための使い捨ての動物実験体で試作品、そして欠陥品でもあった。
敵の一人も殺すことなく、信長の系統の
「試験で造られた出来損ない種はやはり使えないね。血清を持たせても、何てざまだ。」
と吐き捨てた。