第16話 宮殿からの避難
文字数 3,741文字
2012年12月31日 22時45分頃
ミラコスタ宮殿
小島はストライカー装甲車から下りた。
宮殿の庭で6台が止まり、隊員全員が下りて、宮殿内に入る準備をしていた。
宮殿の大きな玄関から
問題は
隊員全員はワトソン重工技術部が作った特殊アサルトスーツを着用し、同じくワトソン重工の武器部門がHSプロダクト社のVHS-2をベースに作った最新のアサルトライフルのVHS-Xも抱えていた。
「それでは皆さん、入りましょう。」
小島が全員に向けて大きな声で命令した。
「隊長に続け!」
副官の田原が怒号した。
小島は日本の高校卒業後、劣悪な環境であった家庭から逃げるように出ていき、陸上自衛隊に入隊した。3年で基礎を学んだ後、自ら除隊し、フランス軍外人部隊に入隊した。世界一過酷と言われる軍隊の中で頭角を現し、異例な速さ、そして異例の抜擢で少佐まで上り詰めた。
6年後、また自ら除隊し、ワトソン重工の子会社で表向き戦地警備をしているワトソン・シールド社に入社し、傭兵人生を歩み出した。怒涛の日々を過ごし、外人部隊で部下だった田原を含む20名を率いて、後の
ワトソン重工の拡大につれ、不都合の状況が現れ始め、それを鎮火するため、上層部が小島を筆頭に私設軍隊を作る決定をしたが、その中、小島に課された課題はエリート戦闘部隊を作ることだった。
副官となった田原と世界中を飛び回り、各国の特殊部隊、テロ組織、民兵団の選りすぐりの戦闘員をスカウトした。国、国籍、宗教、性別、民族、など関係なく、戦闘プロフェッショナルのエリート戦闘部隊を集めた。その隊長になった小島は、
瓦礫と化しつつある宮殿内に残ってた
頑丈な床は割れていたし、下まで落ちかねない状態だったが、吹っ飛んだ天井と壁の一部からも涼しい夜風が吹いてた。
そして隣の部屋との壁が先まであったところに大統領の遺体が落ちていた。胴体は酷い火傷をしており、右手と両足がなく、顔の左半分が火傷を負っており、片目もなかったし、銀の手りゅう弾の影響で体が再生しておらず、弱まる一方だった。
「大統領閣下、私、小島純次と申します。ワトソン重工の上層部の命により、救出に参りました。」
弱まっている大統領に声をかけた。
「もっと近寄れ。」
大統領が小さな声でつぶやいた。
「はい。」
小島が答えた途端に、大統領の口が開き、4本の触手のような舌が出て来た。
1本は小島の首を刺し、血を吸い始めた、もう1本は田原の口に入り、同じく血を吸い始めた。残りの2本は近くにいた、チェチェン人女性隊員とレバノン人男性隊員の首や太ももを刺して、同じことを始めた。
残りの隊員は一斉銃を大統領に向けたが、小島が手話で
【銃口向けるな、下せ。】
と命令した。
何人か恐怖の顔を浮かべたが、全員が命令に従った。やがって更に3本の触手のような舌が出て来て、その近くに居た隊員を襲い始めた。
小島は血を抜けれるのを感じながら、意識が遠くなると感じていた。刺されたところが熱い鉄が肌に当てられた時のように痛む。周りが暗くなって行くのを感じて、寒くなった。
「これが死か。」
と頭の中に思った。
小島は突然何もかも見えなくなってしまい、意識を失った。
そして急に意識がまた戻った。目を開けて、周りを見たら、夜と夜空が非常に明るく見えた。
少し暑くて重いと感じていた特殊アサルトスーツに関して何もかも感じなくなってしまい、力が漲るのも感じた、それ以外に今まで感じたことのない要求、欲望が強烈に全身に圧し掛かった。
それは
田原とチェチェン人女性隊員に目をやった、2人とも意識を取り戻しており、小島を見た、もう一人のレバノン人も意識を取り戻し、落ち着きなく周りを見ていた。
「ひざまずけ。」
頭の中に声が響いた。
4人は大統領を見て、片膝をついた。
「我を持ち上げ、座らせろ。」
再度頭の中に声が響いた。
「仰せの通り、我が
4人全員、一斉に答えた。
4人大統領を持ち上げ、座らせた。先より少し火傷が治癒したように見えた。
大統領は触手のような舌がを振り下ろして、立ったままでいる隊員を餌食し始めた。
その繰り返しの動作となり、血を吸い終われば、彼らはすぐに膝を着いた。
隊員の1人、赤道ギニア人の男性が近づいてくる触手のような舌に恐怖を感じて、アサルトライフルで自分の頭を撃った。
もう一人の中国人男性隊員は血を吸われた後、数秒で虚ろな目と灰色の肌となり、唸りながら立ち上がり、
「出来損ないを殺せ。」
全員の頭に声が響いた。
近くに居たベトナム人女性の隊員、中国人男性隊員の頭を撃ち抜いた。
大統領は約10分で隊員全員を餌食にし、小島と田原を含めて70名が転化した。
終わった頃、血を吸った影響で足がある程度再生を始めた、右手がまだ伸びきってなかったが、
恐らく再生が始まると思われた。なくなった片目は再生された。
「我の配下となった優秀な戦士たちよ、これからこの国の人々の血を与えよう。」
小島は片膝をついたまま、大統領に言った。
「我が
と報告した。
「何だと!」
怒りを顔に出しながら、大統領が
「ワトソン重工の上層部がこのような事態を想定し、私たちを我が
小島が説明した。
「我の国に核ミサイルを落とすとは何のことだ!!、許さんぞ、闇の評議会!!」
大統領が
「我が
小島が伝えた。
「我をどこへ連れて行く?教えろ。」
大統領が命令した。
「ジャブローにあるワトソン重工の特別研究所へ連れて行きます。ワトソン重工の上層部が我が
小島が報告した。
「ならば連れて行くがよい。」
大統領が命令した。
大統領は先頭車両に特別に作ってあった血満タンのタンクに入れられた。
各車両のストライカー装甲車の中にあった、大量の血袋を隊員たちが飲み始めた。
小島は驚いた、口を開いたら、触手のような舌が3本出て来た。副官の田原とチェチェン人女性隊員が2本で他の隊員は1本だった。
「触手《テンタクル)
小島がつぶやいた。
「まんまではないでしょうか。」
副官の田原はツッコミを入れた。
「
小島は蝋人形のような笑顔で答えた。
もうどんなチョコレートに対しても食欲が湧かないのに気付いて、小島は少し悲しくなった。
ヘルムートは解放者ボリバル広場から少し離れたところに現れた。
2階が爆発で飛ばされたのを見て、急いでここから脱出しなければならないと思った。
市内は屍(アンデット)だらけになっていた。
担いでたロングソードを抜いて、すれ違い様に
自分は宿泊していたミラコスタ地区の堺にある一流ホテルの前まで戻り、入る前に中から出て行く見覚えのある顔を見た。
ヘルムートの朝食となった小麦色の健康的な肌をした若い女性だった、彼女は左片手に包帯を巻いていた。夕方にヘルムートがナイフで軽く手のひらを切り、彼女の血を少しいただいた。それから手当をし、家に帰るように何度も提案したが、彼女は頑なに拒否し、ヘルムートの帰りをずっと待つと言言い張った。
最初会った時、あんなに怖がってたのに、ヘルムートがミラコスタ地区へ出発するまでずっと彼と一緒に過ごし、抱きしめ、セックスをし、甘えてた。
彼女の名前はヴァネッサだった。彼女はヘルムートを見て、目が輝き、先まで感じていた恐怖を一瞬で忘れた。
「来てくれたのね。」
彼女は笑顔で言った。
その時だった、ホテルのベールボーイの恰好をした
彼女が叫んだ。
1、2、3、4、5秒後、彼女の肌は灰色と目が虚ろとなった。
「許せ。」
とつぶやきながら、ヘルムートが彼女の首を切り落とした。
ヘルムートは近くにあった、放置されたリベルタドル市警察のパトロールカーに乗って、