第6話:ケータイがない時代もあったそうです

文字数 1,512文字

「お久しぶりです」
「こちらこそ。担当にならない時はならないもんだね」
「策は巡らしていたんですが」
「陰謀的な?」
「行きますよ的なアピールとか、念を送るとか」
「ぼくのスマホの番号知ってるよね」
「確認の電話してますから。でも、あれはステーションのスマホですよ」
「知ってますよ。でも、トイレとかで自分のスマホに番号を登録できるよね」
「今日はなんかぐいぐい来ますね。それ明らかに就業規則違反ですから」
「品行方正だね。そういうことはしないと」
「ノーコメントです」
「思わせぶりなことを」

 真夜中に光って消えた冬電話

「時に、昔はケータイもなかったんだよね」
「スマホだけだったんですか」
「そういう年寄りいじめはやめて」
「はい、お客様にもガラケーをやめれないとか、スマホ持ってても使いこなせない方は少なくないです」
「でしょうね。なぜだと思う?」
「ええっと、テクノロジーの進歩に追いつけないとか?」
「そう思う人は少なくないかもだけど、もっとシンプルにスマホなんか要らないから」
「へー」
「うっすい反応ありがと。年寄りはずっとスマホなしで不便を感じずに生きて来たから。スマホって便利でしょ? 便利だろおい!って、押しつけがましい機能の詰め合わせなんか面倒なだけだから。もうこれ以上便利になりたくない、お腹いっぱいって人は一定いるんじゃないかな」
「進歩しすぎたと?」
「だね。ガラケーの終わり頃かスマホの始めくらいでよかったんだじゃないかと。写メとか言ってた時代かな」
「写メですか、チェキとは違いますよね」
「若さマウントに聞こえるなぁ」

 ケータイを握りしめ待つ渋谷の冬

「でも、ケータイはすごい進歩だったよ。想像つかないでしょ」
「いえいえ、スマホの電池が切れた状態がずっと続くんですよね。恐怖です」
「うんうん。スマホで電子決済できるからって現金持たない人がいるとか、どんだけって」
「そんな人いるかなぁ。都市伝説じゃないですか?」
「それならいいんだけど。この間の地震でネットに頼る危険性に気づいてくれたかな」
「BCP的な?」
「そうね。個人にも事業継続計画ってあってもいいかもね。テレビは水や持ち出しのことだけで、避けるべきことは言わないね」
「忖度でしょうか」
「臆病なだけだよ」

 冬だから少し炎上温まる

「ケータイのない時代のデートは基本やきもきしながら待つものだったんだよ。何時間も待つこともあった」
「そっか、電話って家の電話しかなかったんですね。メールもなかったんですよね。きっついなぁ」
「だから、当時の若い子はケータイを欲しがって、サラリーマンは逆に会社に縛られるのが嫌だとか嘯いて、持ちたがらない人もいたよ」
「嘯いてって嘘をつくって意味じゃないですよね?」
「違います。今の言葉だと、なんちゃってってニュアンスかな」
「はあ。会社から配布されるスマホは束縛されてる気分になりますね」
「そのためのものだからね。だから勤務時間外は電源切っていいと思うよ」
「理屈はそうなんでしょうけど」
「若い人がそんなこと言っててどうすんの。世の中良くならないよ」
「焚きつけないでください。闘うより順応する方が楽ですから」
「むむ。社会的な問題に関心ないの?」
「知識がないとバカにされ、意見があると生意気だって思われるんですよね」
「あー、わかる。男ってホントダメだよね。老いも若きも」

 寒雀目線の高さに留まりぬ

「えっと雀は一羽? 数羽?」
「数羽です。だから一羽ずつは入れ替わってる」
「人慣れしてるんですね」
「そう。ふっくらした冬の雀と通じ合ってる気がしたって感じ」
「雀は複数の方がかわいらしいですね。でも、文脈がわかるような、イマイチわかんないような」
「ああ、なんか降りて来たんで」






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