羽賀太陽⑧『正面突破』
文字数 1,595文字
高橋宅を出発して約30分後、羽賀太陽はTSゲームカンパニー本社ビルの表に立っていた。もちろん、横には日向も。
空を突き破りそうなほど巨大で冷徹なビルを見上げながら、太陽は想像する。
昨日、緑もここに立ったのだろう。そして、この冷たく巨大なビルを見上げながら、手が届かない相手、顔さえ見えない不気味な敵のように思ったに違いない。
それでも、太陽の表情には迷いなど存在しなかった。ただ、 緑を救い出すだけだ。
「日向さん、行きましょう」
ビルの入り口に向かって歩き出す。
CEO室にいる藤堂が、監視カメラで自分たちの行動を覗いていることは、太陽もわかっている。だから、正面突破とは大胆すぎるとも思う。
でも、自分にはそれしかできないから仕方ないと覚悟していた。
それに、横には頼りになる協力者も一緒にいてくれる。なによりもありがたいし、心強くもある。
結局、皆の力を借りなければ何もできないが、 緑を救い出せるならそれでもいいと、太陽は腹をくくっていた。
太陽と日向がロビーに入っていくと、 案の定奥から黒服の男たちが出てきた。
やはり、待ち構えていたのか。余裕綽々にみえるから悔しい。
「太陽様、エレベーターは危険です。 階段で行きましょう」
日向が的確な指示を出してくれる。
一体、この人は何者なのだろう、と太陽は不思議でならない。
ただの執事とは思えない。やけに肝が座っているし、 動きも機敏で、本当に自衛隊の経験があるのではないかと思えてくる。
頼りがいがあるから、太陽は素直に従い、左側にある階段入り口のドアに駆け込む。
日向の靴音が後を追ってくる。
更に、ドアの開閉と複数の足音で、黒服たちが入ってきたのもわかる。
文字通り追われて、太陽は階段を駆け上がっていく。
その後からついてくる日向が、
「太陽様、CEO室は最上階です」
と叫ぶ。
どうして知っているのだろうと考えて、太陽はやっとあの1時間の意味に合点がいった。
太陽は階段を2F、3F、4Fと駆け上がり、日向が5F、6F、7Fとつき合ってくれる。
正直なところ、強そうな日向が後ろについてくれているから、太陽は前だけを意識して進むことができる。時間的だけでなく、精神的にも楽だった。
それでも、先はまだまだ長い。いくら若いとはいえ、太陽は荒い息を吐きながら、手すりにつかまるようにして上がっていく。
もちろん、後から日向と黒服たちもついてくる。
追われる立場として、8F、9F、10Fと上りながら、太陽はなにか違和感を覚え始めていた。とても大事なことのような気がするのに、考える余裕がない。脳は酸素不足だし、足は痛くて悲鳴を上げていた。破裂しそうな肺も苦しい。
やっとのこと、太陽は最上階の踊り場に到着した。
慌ててドアを開け、廊下に飛び出したものの、膝についた両手で何とか体重とバランスを支えながら、荒い息を整えるので精一杯だった。
何百段という階段を駆け上ってきたのだから当然だ、と 一旦は思うものの、そんなことも言っていられないと、自分を叱咤する。
後方から、日向の声が追いかけてくる。
「太陽様、左の突き当たりがCEO室です」
さすがの日向も途切れ途切れの声を絞り出す。
反射的に太陽が廊下左側を確認すると、突き当たりのドアに 貼り付けられた『代表取締役CEO室』のプレートが、キラキラ輝いている。
「もうすぐ、緑に会えるんだ」
そう呟いた太陽は、湧き上がる力を感じた。最後の体力を振り絞り走り出す。
「緑、すぐに助けるから」
心中でそう叫びながら。
しかし、逸 る心と現実の距離感が、あまりにも違いすぎる。自分の体なのに、太陽はまるでスローモーションのように思えてならない。
もっと早く、一歩でも先にと頭の中で叫びながら。
やっと代表取締役CEO室にたどり着いた太陽は、ドアを開け、飛び込んだ。
「緑ー」
と叫びながら。
空を突き破りそうなほど巨大で冷徹なビルを見上げながら、太陽は想像する。
昨日、緑もここに立ったのだろう。そして、この冷たく巨大なビルを見上げながら、手が届かない相手、顔さえ見えない不気味な敵のように思ったに違いない。
それでも、太陽の表情には迷いなど存在しなかった。ただ、 緑を救い出すだけだ。
「日向さん、行きましょう」
ビルの入り口に向かって歩き出す。
CEO室にいる藤堂が、監視カメラで自分たちの行動を覗いていることは、太陽もわかっている。だから、正面突破とは大胆すぎるとも思う。
でも、自分にはそれしかできないから仕方ないと覚悟していた。
それに、横には頼りになる協力者も一緒にいてくれる。なによりもありがたいし、心強くもある。
結局、皆の力を借りなければ何もできないが、 緑を救い出せるならそれでもいいと、太陽は腹をくくっていた。
太陽と日向がロビーに入っていくと、 案の定奥から黒服の男たちが出てきた。
やはり、待ち構えていたのか。余裕綽々にみえるから悔しい。
「太陽様、エレベーターは危険です。 階段で行きましょう」
日向が的確な指示を出してくれる。
一体、この人は何者なのだろう、と太陽は不思議でならない。
ただの執事とは思えない。やけに肝が座っているし、 動きも機敏で、本当に自衛隊の経験があるのではないかと思えてくる。
頼りがいがあるから、太陽は素直に従い、左側にある階段入り口のドアに駆け込む。
日向の靴音が後を追ってくる。
更に、ドアの開閉と複数の足音で、黒服たちが入ってきたのもわかる。
文字通り追われて、太陽は階段を駆け上がっていく。
その後からついてくる日向が、
「太陽様、CEO室は最上階です」
と叫ぶ。
どうして知っているのだろうと考えて、太陽はやっとあの1時間の意味に合点がいった。
太陽は階段を2F、3F、4Fと駆け上がり、日向が5F、6F、7Fとつき合ってくれる。
正直なところ、強そうな日向が後ろについてくれているから、太陽は前だけを意識して進むことができる。時間的だけでなく、精神的にも楽だった。
それでも、先はまだまだ長い。いくら若いとはいえ、太陽は荒い息を吐きながら、手すりにつかまるようにして上がっていく。
もちろん、後から日向と黒服たちもついてくる。
追われる立場として、8F、9F、10Fと上りながら、太陽はなにか違和感を覚え始めていた。とても大事なことのような気がするのに、考える余裕がない。脳は酸素不足だし、足は痛くて悲鳴を上げていた。破裂しそうな肺も苦しい。
やっとのこと、太陽は最上階の踊り場に到着した。
慌ててドアを開け、廊下に飛び出したものの、膝についた両手で何とか体重とバランスを支えながら、荒い息を整えるので精一杯だった。
何百段という階段を駆け上ってきたのだから当然だ、と 一旦は思うものの、そんなことも言っていられないと、自分を叱咤する。
後方から、日向の声が追いかけてくる。
「太陽様、左の突き当たりがCEO室です」
さすがの日向も途切れ途切れの声を絞り出す。
反射的に太陽が廊下左側を確認すると、突き当たりのドアに 貼り付けられた『代表取締役CEO室』のプレートが、キラキラ輝いている。
「もうすぐ、緑に会えるんだ」
そう呟いた太陽は、湧き上がる力を感じた。最後の体力を振り絞り走り出す。
「緑、すぐに助けるから」
心中でそう叫びながら。
しかし、
もっと早く、一歩でも先にと頭の中で叫びながら。
やっと代表取締役CEO室にたどり着いた太陽は、ドアを開け、飛び込んだ。
「緑ー」
と叫びながら。