男の子と女の子Ⅰ

文字数 864文字

 小さな町を見下ろす小高い丘の上にその木はありました。
 それはとても古い木で、もう百年はそうやってそこに立っているのではないかと言われています。
 丘のふもとには、さびれた大きなお屋敷があります。
 昔庭師をしていたという男が住み着いたのを最後に、そこに住む人はありません。
 きっちり手入れされていた庭も今ではすっかり荒れ放題。
 子どもたちは、お化け屋敷とうわさして、誰も近づく人はありませんでした。

「ね? ここなら絶対みつからないよ」

 女の子が言いました。

「本当にやるの?」

 隣で、男の子が不安そうに言いました。

「何よ。まさかあんたもここにおばけがでるなんて信じているの?」

「そうじゃないけどさ……」

 男の子はもごもごと言ってうつむきます。

「この子はもともとここで拾ったんだもん。ここがこの子のうちなんだよ」

 女の子の腕の中で、子猫がにゃーっと鳴きました。
 数日前、この屋敷の荒れた庭でみつけた子猫です。
 女の子が家に連れ帰ると、母親にこっぴどく叱られて、飼うのを反対されたのです。

 女の子は、隣に住む仲良しの男の子に、猫を飼ってくれるように頼みましたが、その子の母親にも、もといた場所に返してくるように言われてしまいました。
 そこで女の子は男の子に、誰も寄りつかないこの屋敷で、こっそり子猫を育てようと提案したのでした。

「でもさぁ……」

 男の子がしぶっていると、猫が女の子の腕の中から飛び降りて、屋敷の中に入っていってしまいました。

「あ、待って!」

 女の子は、猫を追いかけて屋敷の中に飛び込んでいきました。
 男の子もあわてて後を追いかけます。

 中に入って、二人は不思議な感覚にとらわれました。

「ねえ?」

「うん」

 二人は顔を見合わせます。

「前にもここ来たことがない?」

「君も?」

 二人は手をつなぎ、奥へと入っていきます。
 子猫は、リビングの長椅子の上にいました。
 女の子と男の子は、ぎゅっと手を握りあいます。

「二人だけの秘密よ」

「うん」

 二人はなぜか今まで以上に絆が深まった気がして、つないだ手の温もりにお互いうれしくなりました。
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