老婦人と青年Ⅳ
文字数 786文字
やがて老婦人は亡くなりました。
老婦人が亡くなった途端、誰も訪れることのなかったお屋敷に、たくさんの人たちが集まってきました。
一体どこから湧き出してきたのか。
すべて、老婦人の親戚縁者と名乗る人たちばかりでした。
老婦人は、自分の住んだ屋敷も愛した庭も、すべて青年のものになることを望んでいましたが、親戚の人たちは、自分こそが老婦人の財産をもらう権利があると主張しました。そして、青年はお金目当てに老婦人に近づいたにちがいない、と言いました。
お手伝いさんもここぞとばかりに、青年のことをあることないこと吹聴し、親戚縁者に取り入ろうとしました。
青年は、何も言わず、屋敷を後にしました。
そして、夢の記憶をたどり、丘の上を目指しました。
そこには、とても古い木が、ぽつんと一本立っています。
青年は、町を見下ろして、丘を吹き抜ける風に吹かれていました。
いつのまにか、青年の傍らには少女がいました。
「ママなんて嫌い」
そう言って、ぐすんぐすんと少女は泣きます。
青年は優しく尋ねます。
「ママに叱られちゃったのかい?」
「だって猫飼っちゃいけないって言うんだもん。生き物はすぐ死ぬからだめだって」
言っているうちにまた悲しくなって、少女は顔をぐしゃぐしゃにして泣きました。
やがて日が暮れて夜になり、小さく見える家々の一つ一つの窓に灯りがともります。
その光景をじっと眺める少女に、青年は言いました。
「この小さな家の一つ一つに、灯りをともす人たちが住んでいる……。君が帰る場所にもきっと今頃灯りがともっているはず。だからもうお帰り」
「ねえ、また会える? ここに来る?」
青年は、やさしく微笑んでうなずきます。
「約束よ!」
少女は、振り返りながら手を振って、走り去ります。
夜の闇に溶け込んで消える少女の後ろ姿に向かって、青年は言いました。
「必ず会えるよ。いつかまた……」
老婦人が亡くなった途端、誰も訪れることのなかったお屋敷に、たくさんの人たちが集まってきました。
一体どこから湧き出してきたのか。
すべて、老婦人の親戚縁者と名乗る人たちばかりでした。
老婦人は、自分の住んだ屋敷も愛した庭も、すべて青年のものになることを望んでいましたが、親戚の人たちは、自分こそが老婦人の財産をもらう権利があると主張しました。そして、青年はお金目当てに老婦人に近づいたにちがいない、と言いました。
お手伝いさんもここぞとばかりに、青年のことをあることないこと吹聴し、親戚縁者に取り入ろうとしました。
青年は、何も言わず、屋敷を後にしました。
そして、夢の記憶をたどり、丘の上を目指しました。
そこには、とても古い木が、ぽつんと一本立っています。
青年は、町を見下ろして、丘を吹き抜ける風に吹かれていました。
いつのまにか、青年の傍らには少女がいました。
「ママなんて嫌い」
そう言って、ぐすんぐすんと少女は泣きます。
青年は優しく尋ねます。
「ママに叱られちゃったのかい?」
「だって猫飼っちゃいけないって言うんだもん。生き物はすぐ死ぬからだめだって」
言っているうちにまた悲しくなって、少女は顔をぐしゃぐしゃにして泣きました。
やがて日が暮れて夜になり、小さく見える家々の一つ一つの窓に灯りがともります。
その光景をじっと眺める少女に、青年は言いました。
「この小さな家の一つ一つに、灯りをともす人たちが住んでいる……。君が帰る場所にもきっと今頃灯りがともっているはず。だからもうお帰り」
「ねえ、また会える? ここに来る?」
青年は、やさしく微笑んでうなずきます。
「約束よ!」
少女は、振り返りながら手を振って、走り去ります。
夜の闇に溶け込んで消える少女の後ろ姿に向かって、青年は言いました。
「必ず会えるよ。いつかまた……」