第4章 第3話
文字数 1,208文字
その時だった。
「うぐっ…」
突然その男性が胸を押さえて苦しみだす。
そして一瞬にして思い出した、そうだ、彼はあの時の…
「大丈夫ですかっ、大丈夫ですかっ」
胸を押さえたまま前向きに倒れこむ。湯飛沫が上がる。
即座に体を起こし、外にゆっくり抱え出し、仰向けに寝かせる。
男性は苦しさに顔を歪め、深く目を閉じ、やがて胸の上下動が止まる。
思い出せ。あの時、翔が何をしていたかを。思い出せ。あの時から俺が変わったことを。
「誰かぁーーーーー、助けて下さい、人が倒れましたぁーーー誰かぁーー」
脱衣所に誰かいることを願って俺は叫ぶ。
それからどうする? そうだ、心臓マッサージだ。遠い昔に支店の研修でやったこと、そしてあの時翔がやっていた事を思い出しながら、彼の胸に両手を乗せ、ぐっと体重をかける。
確か強く押しすぎると肋骨が損傷するので、だが弱すぎると効果がないので、恐る恐るマッサージを開始する。
「誰かいませんか、誰か来てくださいっ」
叫びながらマッサージを続ける。そう言えば翔は途中で人工呼吸もしていた。正直やり方を知らない。が、何もしないよりは生還の確率は高い筈だ。
マッサージを中止し、彼の口に自分の口を覆う。もう迷いは無い。息を吹き込む。上手く息が入らない。口腔から肺に俺が吹き込んだ空気が届いていないのだ。
どうすればいい? 顎の角度を変えてみる。気道を直線にするイメージだ。再び息を吹き込む。肺が膨らむのを確認する。上手くいった!
その時だった。
「お、おま… 何してんだ…」
顔を上げるとそこには…
「お、おま… 何してんだ…」
バスタオルを胸に巻いたクイーンが仁王立ちしている。
「…とにかく、急いで救急車呼んでくれ。それと、AEDを持ってきてくれ!」
「救急車と、何だって?」
「AEDだ。エーイーディー、宿の人に聞け!」
返事もせずに彼女は飛び出していく。俺はまた心臓マッサージに戻る。
どれ程時間が経っただろう。十分以上は経ったはずだ。何をしているんだアイツは?
心臓マッサージと人工呼吸を繰り返しながら、俺は次第に不安になっていく。このままではこの人を救えない。早く、早く来てくれ、不安が焦りに変わり始めた頃、ガシャーンとドアを乱暴に開ける音がする。
「持ってきたぞっ」
「よし。お前、俺に代わって心臓マッサージを続けろ」
「お、おう… こ、これでいいのか?」
俺がやっていた通りに彼女は腕を伸ばし、彼の胸を両手で押さえながら上下動する。
「それでいい」
赤いAEDの箱を開け電源ボタンを押すと、あの機械の音声が指示を出し始める。遅れて宿の人達が雪崩れ込んでくる。
音声の指示通りにパッドを彼の胸に貼り付ける。宿の人に救急車の手配は、と聞くと直ぐに来ると言う。機械の音声があの時と同じ声音で
「電気ショックが必要です。体から離れてください」
皆一斉に飛び下がる、一名を除いて。
「もういい、下がれ」
「でも」
「早く!」
「うぐっ…」
突然その男性が胸を押さえて苦しみだす。
そして一瞬にして思い出した、そうだ、彼はあの時の…
「大丈夫ですかっ、大丈夫ですかっ」
胸を押さえたまま前向きに倒れこむ。湯飛沫が上がる。
即座に体を起こし、外にゆっくり抱え出し、仰向けに寝かせる。
男性は苦しさに顔を歪め、深く目を閉じ、やがて胸の上下動が止まる。
思い出せ。あの時、翔が何をしていたかを。思い出せ。あの時から俺が変わったことを。
「誰かぁーーーーー、助けて下さい、人が倒れましたぁーーー誰かぁーー」
脱衣所に誰かいることを願って俺は叫ぶ。
それからどうする? そうだ、心臓マッサージだ。遠い昔に支店の研修でやったこと、そしてあの時翔がやっていた事を思い出しながら、彼の胸に両手を乗せ、ぐっと体重をかける。
確か強く押しすぎると肋骨が損傷するので、だが弱すぎると効果がないので、恐る恐るマッサージを開始する。
「誰かいませんか、誰か来てくださいっ」
叫びながらマッサージを続ける。そう言えば翔は途中で人工呼吸もしていた。正直やり方を知らない。が、何もしないよりは生還の確率は高い筈だ。
マッサージを中止し、彼の口に自分の口を覆う。もう迷いは無い。息を吹き込む。上手く息が入らない。口腔から肺に俺が吹き込んだ空気が届いていないのだ。
どうすればいい? 顎の角度を変えてみる。気道を直線にするイメージだ。再び息を吹き込む。肺が膨らむのを確認する。上手くいった!
その時だった。
「お、おま… 何してんだ…」
顔を上げるとそこには…
「お、おま… 何してんだ…」
バスタオルを胸に巻いたクイーンが仁王立ちしている。
「…とにかく、急いで救急車呼んでくれ。それと、AEDを持ってきてくれ!」
「救急車と、何だって?」
「AEDだ。エーイーディー、宿の人に聞け!」
返事もせずに彼女は飛び出していく。俺はまた心臓マッサージに戻る。
どれ程時間が経っただろう。十分以上は経ったはずだ。何をしているんだアイツは?
心臓マッサージと人工呼吸を繰り返しながら、俺は次第に不安になっていく。このままではこの人を救えない。早く、早く来てくれ、不安が焦りに変わり始めた頃、ガシャーンとドアを乱暴に開ける音がする。
「持ってきたぞっ」
「よし。お前、俺に代わって心臓マッサージを続けろ」
「お、おう… こ、これでいいのか?」
俺がやっていた通りに彼女は腕を伸ばし、彼の胸を両手で押さえながら上下動する。
「それでいい」
赤いAEDの箱を開け電源ボタンを押すと、あの機械の音声が指示を出し始める。遅れて宿の人達が雪崩れ込んでくる。
音声の指示通りにパッドを彼の胸に貼り付ける。宿の人に救急車の手配は、と聞くと直ぐに来ると言う。機械の音声があの時と同じ声音で
「電気ショックが必要です。体から離れてください」
皆一斉に飛び下がる、一名を除いて。
「もういい、下がれ」
「でも」
「早く!」