二十三

文字数 847文字

 数日後、ショウは調布駅前の雑居ビル三階にある「ショットバー18」にユキナを呼び出した。珍しくショウが先に店で待っていた。
「何だよ、お前の方が先に来て待ってるなんて、珍しいじゃねえかよ、空から槍でも降ってくるんじゃねえか?」
「悪いな、ユキナ、今日はお前に話したいことがあってな」
 ユキナが体を仰け反らせた。
「ちょっと待った、ショウ、アタシも覚悟はしてんけど、先に言ってくれ、良い話か?それとも悪い話か?」
 ショウが苦笑した。
「良い話でもあり、悪い話でもある」
「なんだよ、それ、どうせ、アタシにこの間の合鍵、やっぱ返せ、とか言うんじゃないのか?」
「何で俺がそんなこと言うんだ?」
「何だ、違うのかよ、じゃあ、話って何だ?」
 ショウが頷いた。
「来年、仕事に就こうと思う」
 ユキナが驚いて、思わずむせた。
「おおっ、そ、そうか、いいんじゃねえか、で、何やんの?」
 ショウがユキナを見つめた。
「絶対に、笑うなよ」
「笑わねえから、言ってみろよ」
「春から、警察学校に行くことにした」
 ユキナは一瞬表情に困り、再びイメージを頭の中で巡らせた。
「お前が警察官?」
 ショウの背中を叩いて、声をあげて笑った。
「笑わないって、言っただろう」
「悪りぃ、悪りぃ、ごめん、何か急に嬉しくなっちゃって、ショウが警察官だなんて、夢にも思わなかったから、アタシ、全力で応援すっぞ!」
 ショウが急に真顔になった。
「理由は聞かないのか?」
「あた棒よ、ショウ、お前の気持ちはわかってる。アタシも一緒に探してやるからさ、お前の大切なもの」
 ショウの胸に熱いものが込み上げてきた。
「ユキナ・・・・・・お前、今日はウチに泊まってくんだろう?」
「おおっ、誘ってんのか、このエロおやじ、今夜は寝かせねえからな、覚悟しろよ!」
 ショウはこの先に待ち受けるものを思った。しかし、今はこの目の前にいるユキナという存在が愛おしくてたまらなかった。

 店のジャズピアノが繊細な音を奏でていた。

      虫たちは明日を目指す 序章(了) 第二章「共食い」へ続く
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