1日目の邂逅4  大奮闘!?佐藤 勇太はビビりながらも妹を守りたい!

文字数 11,048文字

 部屋全体が黒く塗りつぶされたかと思うと僕らの足元が大きく揺れた。
 !?
 家が壊れる!?
 足場が崩れるのかと思うと逆に競り上がった!
 僕、ゆず、ミーラさん、タコとそれぞれの足場が競り上がっている。
 空気の抵抗なのか重力の影響なのか、周りは真っ黒だけど「上がっている」と感じる。
 人ははっきり見えていて黒の濃さが違っているので地面(?)の有無もわかる。
ど、どうするつもりだよ!?
 元の家の天井の高さよりはかなり上にいる気がする。
 元の家はどうなった?お母さんは!?
こ、こわーい。
 少しして上昇が止まった。僕とゆずの高さは同じで少し上の高さにミーラさんたちがいて僕らを見下す形になった。
この空間はねエ、「ローンチ・GG・虚構空間」といってねえ。
グォンネオンロオンという空間座標を操る技術とゴーム機構という空間の膨張技術を使ってコンピューターが設計通りに作り出した空間なんダ。
ここは君たちの家に重なって存在している。4人で家から虚構空間に入り込んだってところかナ。
君たちにはよく分からないだろうから「作り出された空間」ってことだけ分かれば十分だヨ。どうせ詳しく聞いても意味なくなるから……。
虚構空間??作り出された?さっきの踊りの時と何が違うんだよ!?
踊りのときの景色はねエ。光とか風とかあったでしょ?でもあれは本当は存在しないの。
宇宙科学の叡智がそこに光や風が存在するように錯覚させてくれてたんだヨ。
ないものをあるように錯覚させる。仮想空間、もっと言えば幻に近いかしラ。
仮想空間や幻で身体が炎に包まれても実際の身体は無事よ。そう錯覚してるだけだからねエ。
でも虚構空間は違うっ!
ここで炎に身を焼かれれば実際にやけて死ぬのサ!!
 先程までと違ってミーラさんの言葉の節々に冷たさがあるように感じる。
 表情も冷たく未開人を見るどころかまるで虫ケラでも見るかのように僕らを見下している。
「ローンチ・GG・虚構空間」は設計通りに作り変えれる虚構空間。この真っ黒な状態は一番最初のまだ何も手を加えてない状態なノ。
最初のこの状態を虚構空間のローンチ(起動)って言うの。これが特徴的でネ。それがそのまま名前の一部になったワ。
本当に強力な衝撃でなければ外の空間には影響を及ぼさないから様々なことに使われているノ。
プライベートなスペースから始まって娯楽、教育、実験、開発……そして戦争。
闇の遊戯を遊ぶにはピッタリってワケ。
この虚構空間は私のオルタナボールが設計して宇宙船の機能で作り出しているワ♡
そ、それでここでなにしようってんだよ!
 ミーラさんは残酷な笑みをして言った。
言ったでショ?本物の闇の遊戯を体験させてあげるって……♡
 ミーラさんが片手を上げて指パッチンをする。
 その瞬間、僕らの下から黒い何かが湧き上がってきた!
 液体のような粘土のような大量の黒い塊はとても速い速度で僕らの足元を通りながら周りに広がっていく……。
 そして周りに何かを形作るかのように固まっていった!
 続いて上空から光現れ、僕らや黒い塊を照らした。
 眩しい!?と思って目を瞑ったが眩しくはなかった。太陽のようにはっきりした光なのに眩しいという感覚がせず不思議な気分だ。
 ……ここまで一瞬の出来事だった。1分も経ってないと思う。
 僕が目を開けるとそこには古代ローマのコロッセオのようなコロシアムが広がっていた。
な、なんだよこれぇ……。
 僕らの目の前にはいわゆるコロシアムの舞台が広がっている。漫画でよく見るやつだ。石でできた円形のアレだ。上で戦って落ちたら負けってやつだ。
 僕らは選手の出場口のような場所にいる。周りには柱がいっぱいあって石でできているかのように見えた。
 でも一番驚いたのは……。

 ウオオオオオオオオオオ!ワアアアアアアア!

 歓声だ。
 出場口から身体を乗り出して外を見渡すとコロシアムの舞台の周りには更に壁があり、ぐるっと舞台を囲んでいる。
 そして壁の上には本当に広い観客席があって宇宙人(?)がひしめき合って舞台を観戦している。
 僕らのような人型から単眼の宇宙人まで様々だ。僕はこの声と存在感に圧倒された。
 とても偽物には見えない。本当にそこに何千?何万の観客がいるように感じる。
うっ……。あ、ああああ……。
お、おにいちゃん、こわいよぉ・・・。
ミ、ミーラさん、見てるんだろ!?
ここでなにしようってんだよ!説明しろよ!
 どこからか声が響く。
言ったろ?闇の遊戯を体験させてあげるって。
これは古代宇宙のコロッセオを再現した闇の遊戯だ。「超宇宙ナンバーワンギルティコロッセオグランデ ~血で血を洗う絶望の戦い~」という。
お、おにいちゃんみたいなネーミングセンスだよ・・・。
この闇の遊戯ではプレイヤーがコロッセオの戦士となってモンスターや他の戦士と殺し合うのさ!!
例えばオルタナボールにサーチさせてたからこの星の生物だって用意できるゾ!
 ミーラさんがそう言うとコロシアムの舞台の上に「巨大な虎」が降りてきた……!

 ウオオオオオオオオオオオオ!!

 歓声が上がる。
きゃああああああああああああ!!
うわっ!あぶない!
無理無理こんなの無理でしょ!?
釣れないこと言うなヨ?
こういうのも用意してあるんだぞ?
 ミーラさんがそう言うと今度は巨大な恐竜が落ちてきた!図鑑でしか見たことがないあの恐竜だ!

 ワアアアアアアアア!ワアアアアアア!

 再び歓声が上がる。一方でゆずがお尻をついてへたり込んでしまった。
 恐竜がこっちに向かってきたかと思うとぱっと消えて今度は舞台の上にドラゴンが降ってきた。
 空想のモンスターも出せるのか!?
いやあああああ!もうやだああああ!
おい!悪質な脅かしはやめろよ!ゆずが怖がってるだろ!
こんなの絶対やらないぞ!
 僕がゆずの前に立ってそう叫ぶと辺りの景色は真っ暗になり、最初の状態に戻った。
 ホッとしたのもつかの間、再び周りの黒が動き出して光が溢れる。

 今度はぼくらは洞窟の中のような場所にいた。
 天井がはっきりあって所々ロウソクのような光がある。人工の洞窟というか人の手が加わっている雰囲気がある。
じゃあこういうのは?
1000階層のダンジョンを潜って幻のお宝を取ってくる闇の遊戯「あなたと私の超々不思議なダンジョン」。食べ物は手に入るけど腐ってることもある。罠やモンスターもいるわ。
装備が手に入るからさっきのコロシアムよりは有情ヨ?
踏破まで大体200年かかる大迷宮だけどねエ!
 やらないよ!と僕が叫ぼうとすると更に空間が変わる。ドンドン変わっていく。
「トゥリアル戦場ボード サウザントウォー」。リアルな戦争を再現する闇の遊戯。君たちは兵士からスタートね。
「ファイナルグレートファイナルブレイク内なるファンタジー」ストーリー付きのロールプレイングゲームよ。難易度はベリーハードでどうゾ。
「配管工おじさんのデスカート」。カーレースの闇の遊戯ヨ。ミスってクラッシュしたら爆発するわ。
「スペースシップストライク 闇の遊戯エディション」召喚した宇宙船を弾いてモンスターを倒す闇の遊戯。今なら50オーブプレゼント。
どれも失敗したら死ぬから自分で選ぶ権利を上げるわヨ?
だからどれもやらないよ!
たくっ。わがままなクソガキ!
やらないなんて選択肢はねーんだよ!どの闇の遊戯で「死にたいか」選べせてやるって言ってるんダ!!
もうやめてください!怖いです!
おにいちゃんが失礼なこと言ったのは謝りますから!
ごめんなさい!
 ゆずの発言を聞いてミーラさんが沈黙する。
大体おかしいじゃないか!さっきは僕とミーラさんが勝負しててたのになんで僕とゆずが挑まなきゃいけないんだ!
僕とミーラさんが勝負するじゃないのか!?
おにいちゃん!これ以上怒らせたら・・・きゃっ!
 ゆずが喋ってる間に姿を消した。
 ゆ、ゆず!?
ゆず!?ゆずゆず!ゆずぅーーー!
おい!ゆずを返せ!!
 僕が焦って大声を出すと風景が最初の黒い状態に戻る。
 そして上からミーラさんとタコが姿を現した。
 タコがミーラさんに対してニュポニュポ言ってる。
 !!
 タコが触手でゆずを抱えている。
ゆーーーずーーー大丈夫かーーー!?
コラ!ゆずを離せ!卑怯者!
まったく。自分の立場が全然分かってないネ。このガキャ。
まっ、私も怒ってるのは我々の主(しゅ)を貶したあんたに対してなんダ。
だから私もこの子を巻き込んで怖がらせるのは少し可哀想だと思ったので上に上げたんだヨ。
ニュポー!ニュポポポ!!ニュポッ。
 タコがミーラさんに何か言ってるが僕には分からない。
 神を貶した僕をどうやって殺すか相談しているのかもしれない。
 ゆずはタコの身体にタコの触手でぐるぐる巻きにされて抱かれている。
 なんとか取り返さないと……。
じゃああんたの希望通り、私が闇の遊戯で相手をしてやるよ♡
さーてなにのゲームがいいかねえ。
おにいちゃん・・・。
わ、わかったよ!付き合ってやるからゆずには手を出すんじゃねーぞ!
じゃあこのゲームをやろう。「超スペースパイレーツボール ~君はこの極限状態に耐えれるか~」。単に「パイレーツボール」とも言う。
ふた手に分かれてボールをぶつけ合うゲームだヨォ。
それってドッジボールじゃ……。相手に当てたら勝ちでしょ?
シンプルなゲームだからこの星にも似たゲームがあるかもしれなイね。
だけどこのゲームはタイマンで遊ばれることが多いゲームなノ。少し変わってるでショ?
ドッジボールはあまり一人じゃやらないかもね。
元はとある宇宙海賊が商売敵に捕まったときにやらされた残酷なゲームが元でネ。
1度に10人の商売敵が四方から「好きなもの」を投げるから10セット終わったときに生きてたら見逃してやるって言われたんだ。
でも商売敵は見逃す気は全然なかったノ。「投げられたもの」はナイフから手斧まで殺す気満々の代物さ。ナイフ1つとっても宇宙海賊のナイフだからただのナイフじゃないよ。追尾機能付きで斬られたら意識がなくなるようなヤバイやつさ。
1度に10回、合計100回も生身の身体にそんなものを投げられて生きていられるわけない。希望を見せた上でのリンチだよ。
だけど、その宇宙海賊は最初の1回を避けきった。避けきるどころか一つのナイフをキャッチして反対に商売敵のキャプテンを突き刺したのサ♡
すごい海賊もいたもんだなあ。
その伝説が元で作られた遊びが宇宙海賊の間で流行って決闘で使われたり、単に娯楽として親しまれたノ。更に時間をかけて洗練されてスポーツになったものが「パイレーツボール」。
ルールは簡単。交互に5回ボールを投げ合う。投げる方は相手に当てれたら10点。投げられた方は避けてもいいけどキャッチできたら10点。そして投げ返して当てれたら10点。
投げ返したボールは最初に投げた人がキャッチしても点数は入らないしキャッチしてもそこで1セット終わり。大抵は避けるわ。
逆転用や同点用のルールもあるけど必要があれば説明するワ。
投げる回数が決まっててアウトとかはないんだね。ちょっとドッジボールとは違うかも。
ほとんど同じルールならオルタナボールが類似翻訳してくれるしネ。
こういう相手を許せないときや決闘したいときに短い時間でケリがつくから根強い人気がある遊びよ。
 ミーラさんが指パッチンをすると景色が変わる。
 今度は周りに観客がいてスポーツコートがある風景になった。
 ちょうどテニスくらいのスポーツコートで僕とミーラさんが対峙している。
説明の追加。その枠から出たら相手に10点だから。
わ、わかったよ!クソ!やってやるさ!
その代わりゆずに手を出すんじゃないぞ!
本来「パイレーツボール」は重いボール、熱いボール、曲がるボールといった数あるボールから好きなボールを選んで投げる遊び。
でも闇の遊戯では違う!ランダムに並べられた3つの武器の中から好きなものを投げてもらうヨ!!
ぶき!?
 ミーラさんがそう言うと僕の前に1つの手袋(?)が現れた。
ま、ままままってよ!危ないじゃん!普通にボールでやろうよ!
 ミーラさんは僕の言葉には耳を貸さず自分のグローブをはめた。
一回だけ練習させてやるからそのグローブを付けナ。
そいつは特殊素材でできていてそいつで刃物に触ってもまず傷つかない。手だけは守ってもらえるから勇気出して掴むことね。
 ミーラさんは手を掲げると手斧のようなものを出現させる。
 いやいやいや。危ないでしょ!?
この斧は当たっても身体は切れないヨ。安心して刺さってイイ。
だけど実体というか重さの実感はある。
わざわざこんな変わった斧で練習させてあげる理由は武器ってものは思ってるよりずっと重いってことを教えるためさ。
手が守られてるからって油断してたら……あっさり死ぬヨ!!
 そう言ってミーラさんは手斧を投げた!
 いーーーーやーーーー!無理でしょ!?
 ムリムリムリ!怖い!怖い!
 僕は思いっきり避けた!
あ、コラ!なに避けてんだ!?
避けるわ!!
ふう。じゃあこれネ。ボール。重いボール。今の斧くらいの重さがあるわ。えい。
 ミーラさんはそう言ったかと思うとボールを投げてきた。
 浮き球で優しい投げ方だ。
 これは流石に受け止めれるかも?
 ズシィ!!
 いいいいい!?とっても重い!
 僕はボールを抱えたまま倒れ込んだ!
 ボールは僕の身体から転がって隣に落ちた。これはキャッチ失敗だ。いやそれどころか今のが斧だったら……。
今のが斧だったら胸に刺さっていたわヨ♡
分かったわね?
 どうやら恐ろしいゲームに巻き込まれてしまったようだ!
 正直斧投げられた時点でちょっと「ちびっちゃった」し……やっぱ逃げようか……。
そんな危ないもの投げ合うなんてダメだよ!危険だよ!
おにいちゃんやめなよ!あぶないよ!
 タコに捕まっているゆずが僕を心配する。
 ゆずが捕まっているのに勝負から逃げる訳にはいかない。
 どれだけ怖くても……。
子供を人質にするような汚い大人になんて負けるもんか!俺は「英雄オブ英雄」になる男だぜ!
 僕がそう言うと目の前に3つの武器が並ぶ、ナイフ、バッド(?)、そして石だ。
先手はあげる。
 僕は迷わず石を選んだ。
 ゆずを怖がらせた相手で、下手したら僕を殺そうとしてる人だけど、僕には人に刃物を向ける勇気はない。
 勇気はないというかそんなことしたくない。ゲームでは容赦なく刃物を振りかざしていてもそういうバランス感覚は狂ってないつもりだ。
舐めてるノ?
俺はあんたみたいに平気で刃物を人に向けれる人間じゃないんだよ!!
神様のためだと言って平気で人を殺せる宇宙人と一緒にしないでほしい!
 僕はそう言って第一投を投げた!
 おぉ?僕はインドア派だけどそこまで運動音痴ではない。でも通信簿で「5」がつくようなスポーツマンでもない。
 その割には石には勢いがあり鋭く加速している!コントロールも抜群だ!
 もしかしたらあの石もただの石ではないのかもしれない。
 が……!
 ミーラさんは余裕でワンハンドキャッチした!
私は優秀な巫女になるために本当に努力した。
舞の技術だけでなくって身体を作るために子供の時から鍛えてきたし、礼儀や勉学も頑張ったんだよ。
そこまでやった理由は色々あるけド、簡潔に言えば、敬愛する主(しゅ)に一番近い場所で踊って主(しゅ)に見て欲しかったからサ。
だからこの程度じゃ当たってあげれないヨ。
・・・・・・・・・。
いくよ!!
 ミーラさんはそう言うと僕に向かって石を投げ返した!
 !!
 はっやっっ!!
 僕が投げた石よりずっと早い!グングン伸びてくる!というか見てる間に目の前に迫ってくる!!
 これ間に合わなくて頭貫ぬ……!
 ブゥン!
 石は僕の頭を貫く前に大きくカーブしてあらぬ方向に飛んでいった。
 僕は尻をついて座り込んでいた。多分またちょっと「ちびってる」。
おにいいちゃーーーーん!だいじょうぶうううううう!?
もうやめてえええ!
だ、大丈夫だよ!ゆず!当たってない!
この石は殺傷能力が低い代わりに頭に描いた通りに投げれるんだ。まだ使う気なら覚えておきナ。
そのことを知らなかっただろうから今回は当てないであげたよ。
 だからあんなにコントロールよかったのか。
 そしてミーラさんは自分の前に3つ並んだ武器の中からナイフを選んだ。
 ゴクリ。
こ……こここここい!
 ミーラさんは無言でナイフを投げた!
 うっわっ!ほんとに投げやがったこの女!
 巫女が殺傷していいってどんな宗教だよ!!
 あっ!
 ゆっくりだ!さっきの石に比べてだけどゆっくりだ!
 僕は思いっきり頭を抱えて避けた!
か、華麗に避けてやったぜ!!
ばーか!ばーか!
……いいけど、これで私の10点リードヨ。
 そして……お互いに武器を投げあった。
 僕は大体は石を投げて石がない時は当たっても死ななそうな武器を選んだ。ブーメランとかハリセンとか。ハリセンなんてなんで置いてあるのか意味が分からない。
 でもこのハリセンがすごくて投げたら巨大化してミーラさんを押し倒した。
 本人は無傷だが10点だ。他4回は全部受け止められてるからトータル40点献上してるけど。
 こっちの武器をキャッチしたミーラさんは何かと理由をつけて投げ返してはこなかった。

 逆にミーラさんは自分の番になると真面目に武器を投げた。僕は3投目までは避けきった。
 結構すごくない僕?
 でも4投目のナイフは避けたと思ったら追尾してきた。
 ミーラさんが「宇宙海賊の話覚えてる?」って言いながら投げなかったら思いっきり背中に刺さっていたかもしれない。
 ナイフは僕の腕をカスって地面に刺さった。これで10点。
 ゆずが悲鳴を上げたが僕は元気な姿をアピールする。少し「ちびった」ことは内緒だ。

 僕が5回投げ、ミーラさんが4回投げた時点で10対50点差で40点差だ。
あれ?これもう僕勝てなくない?
そうねー。後は私が投げて終わりだから最大で20点しか取れなイわ。
じゃー終わりか。僕の負けか。まあ怖かったけど10点取れた時はちょっとだけ楽しかったかな。
一応、逆転用のルールがあって負けてる方はポイントの倍率アップを要求できるノ。
2倍なら最大40点、3倍なら最大60点手に入るワ。
その代わりボールを受ける側だったら投げられるものが強力になるし、一度上げた倍率アップは戻せない。
多分闇の遊戯で3倍にしたら爆弾とか細菌兵器とか出てくるからオススメはしないわネ。
今でも死にかねないのに爆弾とか死ぬわ!
僕の負けでいいよ。倍率アップはしません!!
そう……。
じゃあ負けた代償を払ってもらうわね♡
……はい?
闇の遊戯は負けた方が代償を払うのヨ?闇の世界では「常識」でしょう?
はいいいいいい!?
そんなこと知らないし約束してないぞ!
っていうか!巫女が闇の世界に詳しいのってなんなの!?駄目でしょ!?
「知らない」は通らないわよ……?
遥か昔はなにを代償とするか事前に決めていたらしいけど、今は取り決めがなければコンピューターが戦績から決めてくれるしね。
えーっとどれどれ?オルタナボールくんなにがいいかしら?
あっそう。
よかったわね。腕一本ですって♡
 僕はミーラさんが喋り終わる前にコソコソと逃げ出した。
 とりあえずこのなんちゃらって空間は随分と丁寧に建物を再現しているようでコートの出入口に潜むことができた。
 しかし「腕一本」って。いやいやなにが「よかった」だよ。
 宇宙人って奴は頭の中ぶっ飛んでやがる。マジで。
 ………………。
 まあ対戦してみてミーラさんの動きはすごかったからな。
 祈るために努力したってのは本当なんだろうな。侮辱されてそれだけ怒ってるってことなんかなー。やっぱり言い過ぎちゃったかな。
んン?あいつどこいった??
まさか代償を払わずに逃げやがったカ!?
お互いに命を賭ける闇の遊戯で代償を払わずに逃げるなんて許されることじゃないゾ!
おにいちゃん・・・。うまく逃げて・・・。
はあ。しかたないネ。
出てきな!クソガキ!!出てこないとこっちの娘の首を折る!
こっちはその気になればコンピューターで探し出せるんだ!自分から出てきたら妹は無事に返してやるよ!
え・・・。
ニュポ!?
 クソ!あいつなんてこと言いやがるんだ!?
 本当に折らないだろうな!?
出てこないつもりか……?
出てこないってことでいいんだな!?
よし!タコ美!その娘の首を折れ!
あのガキに残酷な現実ってやつを見せつけてやりな!
ニュポ!?ニュポッ!ニュポッ!
 ヤバイ!行かないとタコにやられる!
 ……が僕は立ち止まった!
 タコが首をブンブン振って触手であいっちいけのような仕草をしているからだ。
なにぃ!折れないってェ!?
可哀想だってええ!?
悪いのはあのガキさ!おまえがやらないなら私が自分で切り落としてやるよ!
 ミーラさんはどこからか光状の剣のようなものを取り出してゆずとタコに近づいていく。
 あいつは本気だ!
 ゆずは泣きっぱなしだ!
 僕はもうなにも考えられず走り出した!
やめろおおおお!なんでそんな酷い事平気で言うんだよおお!
ゆずに手を出すなああああ!
 僕はそう言ってミーラさんの脚に抱きついた!
 ズル……ズル……!
 引きづられる。
 ダメだ!絶対ゆずの方に行かせないぞ!
言った通り出てきたじゃないかああ!
頼む!ゆずには手を出さないでくれ!な!な!
よし!いい度胸だ!見直したゾ♡
じゃあ……代償を払って……貰おうか!!
 あっ斬られる……。
 しゃーないか。ゆずが死ぬよりずっとマシ。
 片手なくなったら生活不便だなあ。それともそのまま死んじゃうのかな。
 漫画だと結構無事だけどリアルだとショック死するらしいじゃん。痛みや出血で。
 あーあ。こんな宇宙人に出会わなきゃよか……!
 !?
 斬られた!と思った瞬間僕の体が宙に浮いている!
 脚が何かで掴まれている感覚がある。
 そしてタコの胸板に飛び込んだ。
た・・・たこォ。
チッ!なにしてるノ!タコ美!
こいつに闇の遊戯の代償を……!引いては私たちの主(しゅ)を侮辱した罰を受けさせるんだよ!!
 ミーラさんが僕たちを睨んだ瞬間予想外のことが起こった!
いいいかげんにしろぉぉぉおおおおおおお!!
私の名前はタコ美じゃなくってキララだ!!
頭に血が上ったらいっつも昔のあだ名で呼ぶんだからっ!
こんな小さい子どもたちを怖がらせてどうするの!?
危ない刃物を子供に向けたり、子供の首を折るなんて言ってそんなの「リブレス」の巫女失格だよ!失格!大失格!
しゃ・・・・。
しゃべった……。
あっ、タコ美、おまえ勝手に喋って……!
 それもかなり可愛い声だ。本当に乙女で女の子だったのかタコ……。
刃物を向けたからなにサ!たとえ相手が子供でも主(しゅ)を侮辱した人間を見逃したらその方が巫女失格サ!
私だって本気で殺すつもりじゃない!でも罰は与えなきゃいけないんダ!!
それに……それに……悔しいじゃないのサ!
私たちの敬愛する主(しゅ)を侮辱されたんだよ!私がどれだけ神に尽くしてるか、タコ美!アンタは分かってるはずじゃないカ!!
そんなこと私は知ってるよ!子どもの時から一緒だからね!
でもこの子達は知らないでしょ!?
それも「リブレス」の信徒じゃないんだよ!
ちょっとの粗相なんて大人の余裕で許してあげようよ!
た、タコ……おまえぇ。
そ、そんな簡単に許せるわけないじゃないか!
私は……私は……神様のための巫女なんだぞ!邪魔しないでよ!!
上を見ろミーラ!主(しゅ)の青空を見ろミーラ!それでも気持ちを抑えられないなら次は私が相手だ!
もう見てるだけなんてできない!!
それで……勝っても負けても子供をいじめるミーラなんて絶好なんだからね!
ぜ、絶好だなんて言わないでよ……。私、キララがいなかったラ……。
だって……だって……神様になんて言ったらいいか。神様を悪く言った相手を見逃すなんて。
ミーラ。「リブレス」の教義を思い出して。
ゆーたくんはゆずちゃんをずっと守ろうとしてたよ。ゆずちゃんはずっとゆーたくんを心配してたよ。
「心から家族を愛するものには」?
で……出来る限りの敬愛を……持テ。「心から家族を愛するものには出来る限りの敬愛を持て」。
でも……でも……だって……私だって……。
私が責められるのは理不尽だヨ。おかしいよ。
うえええええン。
 僕たちの予想外なことにミーラさんが泣き出してしまった。
 怒られた子供のようでどこか納得してない子供のようで余程悔しかったのだろうか。
 タコが続ける。
やりすぎたの!!子どもたちを見てご覧よ!どれだけ恐怖に怯える顔をしているか!
 ミーラさんが泣きながらゆずの顔を見る。ゆずは先程よりは落ち着いたがまだ泣いている。
 続いて僕……の顔ではなく僕の股間を見た。
 ああ、薄々気づいてたよ。もう「ちびった」レベルじゃないことは。
ゆずちゃんいっぱい怖がってたもんネ。
やりすぎちゃったのかナ……私。でも私、私……。
ミーラおねえさん、泣かないで・・・。
私、すごく怖かったけど、おにいちゃんがずっと守ってくれたし、おにいちゃんも悪かったから、そんな怒ってないっていうか。
もう誰も泣かずに仲直りがいいな。
うう。ごめんね、ゆずちゃん。私何度も怖がらせて……何度も……。
 ミーラさんは泣き崩れながら謝った。
ミーラさん。実は僕も謝りたいんだ。
謝るってちょっと恥ずかしいんだけどさ。
僕、ミーラさんと「パイレーツボール」で勝負するまでミーラさんが神様にお祈りすることにそこまで本気だったって思ってなかったんだ。
美しい踊りを見せてくれたのにさ。全然分かってなかった。踊りが好きってくらいに受け取っててなんのための踊りかまで考えてなかった。
すごく努力してたんだね。
打ち解けたつもりでいて調子に乗って神様のこと悪く言っちゃったんだ。
ごめんなさい。
ミーラーーー。言うまでもないかもしれないけど教義には……。
うう。教義には「誠意を持って謝罪する相手には寛容の心を持て」とあるワ。
分かったわ。私も子供相手に脅かすようなこといっぱいしてごめんなさい。
怒りに任せて教義に沿った行動が取れてなかったなんて、キララの言う通り、私は巫女失格だわ……。
ふう……よし!じゃあ一段落ってことでいいかな?
二人には怖い思いをさせてしまって申し訳ないけど、ミーラも本気で殺すつもりはなかったんだ。脅かして自分の怒りを知ってほしかったんだと思う。
投げてた武器も物体は斬れても肉体は傷つけないものだったんだ。闇の遊戯の代償も終わったらすぐ治すつもりだったみたい。
宇宙人の科学力だと手足千切れたくらいだと簡単に治せるから、宇宙人の中には手足くらい問題ないって考える人も結構いるんだ。
それでも思う所あるかもしれないけど、なんとか許してあげてほしい。
お願いします。ぺこり。
はーい!ゆるしまーす!
 よく見ると僕の腕はナイフで斬りつけられたはずだけど服だけが斬れていて腕は無事だった。
 それにしても手足がちぎれても平気だなんて宇宙人はすごいな。僕は絶対斬られたくないぞ。
 絶対痛いし!
僕も悪かったしね。ゆずが許すなら僕が言うことはないさ。
うう……。
うん。よし……じゃあ帰りましょう!
お詫びに帰りは特別仕様で綺麗な景色を見せたげる♡
 ミーラさんがそう言うと周りの風景が黒い塗りつぶしに戻った。
 そして4人の前に大きな穴が空いていて中から光が漏れている。
 「じゃ行くわよ。」とミーラさんが穴の中に飛び込んだ。
 僕とゆずは顔を見合わせてから思いっきって飛び込んだ。
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登場人物紹介

名前:佐藤 勇太
通称「ゆーた」。中学2年生。本編の主人公。
いわゆる中二病でなにごとも自分なりにカッコイイ呼び方で呼ぼうとする。考え方も中二病で偉大な正義や犠牲ある勝利に憧れているが、自分だけはズルをしても許されると考えている。
素直な気持ちを伝えることは恥ずかしくてできないが、家族のことは大好きである。

名前:佐藤 優澄(ゆずみ)
通称「ゆず」。小学5年生。
兄とは異なりしっかり者の女の子である。ゆーたが中二病ネーミングをすると「それは○○だよ、おにいちゃん!」と訂正してくれる。
まだ幼いため怖がりで人見知りな一面もある。

名前:ミーラ・シャーマリード・コットン・ゆるゆる
通称「ミーラ」。ふわふわ系宇宙人。羊のような角とふわふわな毛玉が特徴な宇宙人である。
ゆーたとゆずが出会った宇宙人の一人である。普段は優しく余裕を持ったおねーさんの立ち振舞をしているが、怒ると何をするかわからない。
宇宙宗教「リブレス」の信徒で神への祈りとして華麗な舞を舞うことができる。

名前:雲母(きらら)
通称「タコ」。タコ型宇宙人。まるで地球のタコのような見た目の宇宙人である。
ゆーたとゆずが出会った宇宙人の一人である。見た目に反して乙女でとっても優しい。
宇宙宗教「リブレス」の信徒でミーラの親友。

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