新たなる力~アラタナルチカラ~

文字数 2,366文字

バババババババ……

空に一つの光点が見える――。
それは、RONが一般に使用している無人偵察機(ドローン)の光である。
もっともそれは可視光線ではない。人の目に見えるモノではなく、センサーが発する不可視の光線である。
しかし、それを桃華のTRAははっきりとパッシブセンサーでとらえていた。
その光線にかからぬように姿勢を低くして移動していく。
そうして進んでいくと巨大な倉庫群が目前に現れた。

「目標発見――。探索に入ります」

桃華は独り言のようにそうつぶやくと、倉庫群の一つへと慎重に、かつ素早く接近する。
その手に持ったワイヤーのような物体の先をその倉庫の窓にかざす。

「ここじゃない――」

一つ目の倉庫は目標ではなかった。
桃華はその場でもたもたすることもなく、素早くその場を離れて次の倉庫の窓へと近づく。
そして、再び同じような行動をとると――、

「ここでもない――」

そう独り言のようにつぶやいた。
そうして、倉庫群を慎重に探索していった桃華は、6件目にしてやっと目標を発見する。

「目標発見――。RONの新型兵器か――」

桃華は倉庫の表へと移動しその扉を開ける。倉庫には鍵もなくあっさりと開いた。
そして、桃華は機体の腕を操作してその目標をつかみ取り、そのまま背中に設置されたバックパックへとしまい込んだ。

バババババ……

無人偵察機(ドローン)のローター音が近づいてくる。
桃華はパッシブセンサーで再び敵の索敵範囲を確認した。

「まずいね……」

無人偵察機が2機に増えている。それも、こちらの退路を塞ぐように展開していて、撤退時に見つかるのは必至だ。

「それなら仕方ないね――」

桃華の判断はあっさりしたものであった。
肩の対空リニアキャノンを旋回して目標を定める。

ドン!

衝撃波を伴って弾体が飛翔する。
そのまま、無人偵察機(ドローン)を貫通して粉砕した。

「あと一機――」

さらに対空リニアキャノンを旋回してその弾丸を放つ。
そのまま、ローター音は完全に失われ周りに静けさが戻った。

もっとも、その静けさは一時的なものであった。
倉庫群を中心にけたたましいサイレンが響き始める。
そして――、

「おっと――、三式神亀4両発見!」

桃華の目前に、脚の車輪で高速で走行してくる多脚戦車が現れる。

「ふむ?」

桃華は横に、姿勢を低くして走り抜けながら手にした40㎜小銃を発砲した。

バチン!!

その弾丸は、大きな炸裂音と共に展開された多脚戦車の不可視の防護壁によって防がれてしまった。

「もちろん想定内だよ!」

さらに弾丸を無差別に発砲しながら倉庫群のを走りぬける桃華のTRA。
なぜか、敵はその砲を撃ってはこない。

「――まあ、”神楯”展開中は砲を撃てないもんね。三式神亀は――」

四両の三式神亀のうちの一両がその”神楯”を解除し砲撃耐性に入る。
桃華はそれを見逃さなかった。

「ほい!! させないよ!!」

ドン!!!

すさまじい衝撃波を伴って、桃華のTRAの左肩に設置された砲から弾丸が飛ぶ。
そのまま、”神楯”を解除していた神亀の装甲を貫徹して爆砕してしまう。

「90式電磁速射砲――、なかなかの威力だね」

そうして、機体内でほくそ笑んでいると、突然の警告音が耳を劈き桃華は顔をしかめた。

「後方?! 神亀!
周り込まれたのか――」

それは、倉庫群の間を縫うように接近してきた二両の神亀による警告音であった。

「まあ――、そうだよね。正面から来たのは陽動だよね。
そして、こっちが本命と――」

桃華はうっすらと笑いながら、その右肩に設置された棒状の機物に手を添える。

ガキン!

桃華のTRAの背中に縦に設置されていた棒状の機物は、それを支えるハンガーによって持ち上げられ肩に担ぐ形になる。
桃華はTRAの手でその機物の柄を握り腕の力を前方に向かってかけた。

ガキ!!

その瞬間ハンガーが二つに割れて、その割れたハンガーを鞘とした一振りの日本刀の刀身が姿を現した。

「補助ボーテック機関――起動」

桃華は淡々とそれだけを呟く。その刀身に光が宿った。

「ふ!!」

気合の声と共に桃華はTRAを走らせる。そのまま神亀の脇へと近接した桃華はその手の刀を振りぬいた。

ガキン!!!!

神亀の装甲がまるで、豆腐を切るかのように綺麗に切断される。
さらにもう一両――。

バチン!

次の一両は”神楯”を張って防御してきた。しかし、

「それは効かないよ!!」

まさにその言葉通りに神亀の装甲が両断される。

「さて――、この機剣”フツノミタマ”の錆になりたいのはどいつかな?」

桃華はそう言ってTRA内でほくそ笑んだ。


◆◇◆


「ご苦労様――モモ」

藤原は桃華の労をねぎらう。

「別に? こんなシミュレーション程度では疲れたりしないわよ」

――そう、先ほどまでの戦闘は、コンピューターによって生み出された架空の戦場による演習戦闘だったのである。

「しかし、あんなに三式神亀ばっかり出して。今RONは四式へと更新中でしょ?
現実の戦闘とは食い違ってくるんじゃない?」

「まあ、そうだろうね。
でも、今回は桃華の新型TRA”TRA92C”のデータ取りも兼ねてるからね。
武装も、おそらく戦場で一番使われるであろうセッティングにしてあるし」

「機剣”フツノミタマ”か――、本当にシミュレーションみたいな威力なの?」

「それに関しては保証するよ。機槍”アメノヌボコ”の完全上位互換だって話だ」

その藤原の言葉に、少しため息をついて桃華は言った。

「その新兵器を振るう相手は、ほぼ間違いなくRONになるんだよね?」

「そうだね――。本格的な戦争が始まってるからね」

藤原は少し苦し気な表情になって頷く。
桃華は藤原の心を察して言った。

「トシ――、大丈夫?」

「ああ、大丈夫。軍人が戦争を怖がるわけにはいかないからね」

「辛かったら私に言ってね?」

桃華の優し気な微笑みが藤原の心を癒す。

「大丈夫――。心配しないでモモ」

藤原はそれだけを言うと、桃華の頭を優しく撫でるのだった。
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登場人物紹介

小柄な中学生くらいの見た目の少女。

人工的に合成された遺伝子による人造人間であり、肉体年齢的にはもう中学生程だが、実年齢はまだ9歳に過ぎない(本編第一話の時期)。

その身体能力は極めて高く、強化義体によるサイボーグでもないのに、それと同等の運動能力を発揮できる一種の超人である。

その能力の高さは、知能に関しても同等であり、大学レベルの論文なら一瞬にして理解できる知能を有する。

その能力に裏打ちされた性格は極めて尊大であり、自身を『天才』だと言ってはばからない、多少他人を見下しがちな悪癖を持つ。

しかし、そんな彼女の本質は極めて純真で、他人を思いやる気持ちに満ちた、本来は戦争行為など行えない優しい性格をしている。

すぐに他人の気持ちを察知できる頭脳の持ち主なので、必要な時は決して他人を不快にさせる言動はしない。

それほど純粋な性格に育ったのは、育ての親である研究者たちに、大切に育てられたことが大きく影響している。

なにより、平和な日常を守ることを使命だと考え、テロリズムには自身のできうる限りの苛烈な暴力で制圧を行う。

日本陸上国防軍・二等陸佐である優男。通称『おじさん』。

第8特務施設大隊の大隊長であり、桃華の後見人にして直轄の指揮官でもある。

そこそこ整った顔立ちのイケメンだが、多少くたびれた雰囲気があり周囲には昼行燈で通っている。

国に奉仕することを第一とする典型的な軍人ではあるが、政府の行った闇の部分には思うところがあるようで、自分をその手先の『悪人』だと思っている節がある。

海外の生まれであり、そこで戦争に巻き込まれ家族全員を失っている。

その時に救ってくれた日本国防軍のとある人物(現在は国防軍の高官)の推薦で国防軍に入ることとなった。

このため、心の中では戦争やテロリズムを憎悪しており、それを引き起こそうとする人物に対しては、容赦しない苛烈な部分を持つ。

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