火を統べる機神~ヒヲスベルキシン~
文字数 2,081文字
ギガフロートⅧの航空機発着場に『特設大型輸送機』が到着していた。
それは、日本の本島からギガフロートⅧへ、TRAを輸送するための専用輸送機であり、そこに今回乗せられていたのは――。
「なんか異様にデカくない?」
輸送機から運び出されてくるホロカバーのかかった人型の物体を見て桃華はそうつぶやく。
藤原はそんな桃華の言葉を聞き流しつつ、手にしたTRA仕様書を熱心に眺めていた。
「ちょっと聞いてるの?! おじさん!!
無視すんなハゲ!!」
「まだハゲてないから……」
少し指で自分の髪を触りつつ桃華の罵声に答える藤原。
仕様書の数値を十分確認してから、大きなため息をついた。
「こりゃまた――、技術開発部は何考えてるんだろうね」
「ん?」
桃華がぴょんぴょんジャンプしつつ、なんとか藤原の手にしている仕様書を盗み見ようとしている。
その姿のあまりの愛らしさに、周囲のオヤジたちがほっこりとした表情で桃華を眺めている。
「う~~ん。試作機の試験運用って聞いたから、標準型のほうかと思ったらこっちか――」
その藤原のなんとも微妙な表情に、桃華は何やら嫌な予感を感じた。
「どういう事よおじさん?
標準型じゃない?」
そう聞いてくる桃華に、藤原は初めて気づいたかのようなそぶりで答えた。
「ん?
ああ――、現在試験運用が始まっている新型TRA『戦術機装義体・TRA-X』は、今まで外部に晒されていた重力波フロートを内部に埋め込んだ、第二世代型TRAの基盤となる機体なんだが――」
「これってソレじゃないの?」
「――まあね。ソレのさらに実験機というか――。ピーキーにした機体というか――」
「何それ、わけわかんない」
頭の上に黒いモヤモヤを浮かべつつそう言う桃華に、藤原は頭を掻いて苦笑いしつつ答える。
「TRA-XX・ホムスビ――。それがこの機体の名称だよ――」
「おむすび?」
「いや、食べられないから――」
桃華の本気の勘違いに、藤原はツッコミを入れた。
「
「初めからそっちの名前にすればいいのに、紛らわしい」
「まあ技術開発部の『お遊び』だろ多分。ワザとだね――」
「むう」
桃華はふくれっ面で目前のTRAを眺める。
「まあ、どんな機体なのかは見ればわかると思う。多分――」
「見ていいの?」
「うん、もともと桃華へのプレゼントらしいし」
そう言って藤原は作業員たちに合図を送る。作業員たちは手際よくTRAを覆っていたカバーをとって見せた。
「!!!!」
その姿を見て桃華は驚きの表情をした。
「これは――」
寝そべった状態のそれは、一見すると巨大な二本の砲を持った戦車にも見える。
今までのTRAとは明らかに違う箱状の太い四肢、武骨でどちらかというと横に広い分厚い装甲に鎧われた胴体。
おそらく90式よりも大きく性能の高いセンサー類が詰まっているであろう、横に広いセンサーヘッド。
――そして何より目立つのは。
「何アレ――肩に、ドでかい砲が二本?」
桃華のその言葉に藤原は頷く。
「155㎜ドランダーカノンだそうな」
「ドランダーカノン――」
「ドランダーっていうのはドイツの科学者の名前だけど……」
藤原が説明する前に桃華は口を開く。
「重力波レールキャノン――……
――の理論を生んだ科学者」
「……さすがモモよくご存じで」
「ふ~~ん。だから、一見すると210㎜以上の口径がありそうな砲なのに155㎜なんだね」
桃華は妙に納得したような言葉を発する。
「――っということは、これって中枢のボーテック機関以外に、補助ボーテック機関も内蔵?」
「みたいだね。中枢1に補助1の二つだ」
「だからこんなずんぐりしてるのか。
――って、よく見るともしかしてあの分厚そうな装甲はハリボテ?」
「はははは……。
よくわかったね、試験用の軽量樹脂装甲なんだそうな」
「――」
「あ、でも、運動性能は90式より1.4倍ほどいいそうだから――」
「信じられないんですけど」
「はは――」
藤原は桃華の刺すような視線を受けて苦笑いをした。
「とまあ――、こいつで、来週の演習を行うことになるんだが……」
その藤原の言葉に桃華は大きなため息をつく。
「いいけどね、もう。
実験動物――、モルモット扱いは慣れてるし」
桃華はそうつぶやいた後、少し苦しげな表情になる。
「それにあたしは、少しでも強くならなきゃ。もっともっと――。
そのためなら、実験動物扱いだろうが、兵器扱いだろうが構わない」
「……」
その桃華の言葉を黙って聞く藤原。
(モモ……まだ2か月前のコト引きずってるんだな。
救えなかったたくさんの命の事を――)
そのまま藤原は、桃華の頭を撫でた。
「なによ」
少し膨れて藤原を見上げる桃華。
「不甲斐なくてすまんな、大人なのに――。
モモに重荷ばかり背負わせて」
「私は優秀だからいいのよ。
大人とか子供とか関係ない」
「それでもだよ」
藤原は心の中で再びの決意をする。
今は桃華の戦いを見ているしかない自分だが、いつか自分も桃華の隣に立てる存在になろうと。
――その日から1週間後、桃華たちはその年で最も苛烈な戦いを経験することになる。