三 代表取締役副頭取
文字数 565文字
元副頭取・篠田白虎は亡くなっていた。橋本慶賀の話の通りだった。
篠田は、橋本が不良債権の一部をバミューダの会社に飛ばすのを承認した数年後、健康問題を理由に帝都銀行を辞め、妻と二人で故郷に近い千葉・外房の海辺に引っ込んだ。最寄り駅は無人駅だった。そこで静養を兼ねて半年ほど暮らした後、自宅で倒れ、逝った。
探偵は、地元自治体が発行する広報誌のバックナンバーの訃報欄に、篠田の名が記載されているのを突きとめ、依頼人にそのことを報告した。依頼人は今回も、約束の時間ぴったりに事務所に現れた。
「在職中の篠田は、今でいうパワハラの塊のような男でした。一見豪快で、懐の深い大人物のように振舞うので初めての人はよく騙されるのですが、気に入らない部下はとことんいじめ抜き、それを見せしめに恐怖政治を敷くのです。精神を病んで銀行を去った部下も多くありました。
かつての行員たちの中には、篠田こそがA級戦犯の筆頭だと言う者も多く、わたくしもそのような考えを持っています。橋本の飛ばしを了承していたのが篠田だという話も、さもありなんと納得できます。醜い体型は見るからに不健康でしたから、早い死期にも特段の驚きはありませんが、彼の懺悔が聞けないのはとても残念に思います」
――ちゃんと地獄に堕ちているとよいのですが――
そう言って、依頼人は薄く笑った。
篠田は、橋本が不良債権の一部をバミューダの会社に飛ばすのを承認した数年後、健康問題を理由に帝都銀行を辞め、妻と二人で故郷に近い千葉・外房の海辺に引っ込んだ。最寄り駅は無人駅だった。そこで静養を兼ねて半年ほど暮らした後、自宅で倒れ、逝った。
探偵は、地元自治体が発行する広報誌のバックナンバーの訃報欄に、篠田の名が記載されているのを突きとめ、依頼人にそのことを報告した。依頼人は今回も、約束の時間ぴったりに事務所に現れた。
「在職中の篠田は、今でいうパワハラの塊のような男でした。一見豪快で、懐の深い大人物のように振舞うので初めての人はよく騙されるのですが、気に入らない部下はとことんいじめ抜き、それを見せしめに恐怖政治を敷くのです。精神を病んで銀行を去った部下も多くありました。
かつての行員たちの中には、篠田こそがA級戦犯の筆頭だと言う者も多く、わたくしもそのような考えを持っています。橋本の飛ばしを了承していたのが篠田だという話も、さもありなんと納得できます。醜い体型は見るからに不健康でしたから、早い死期にも特段の驚きはありませんが、彼の懺悔が聞けないのはとても残念に思います」
――ちゃんと地獄に堕ちているとよいのですが――
そう言って、依頼人は薄く笑った。