第4話『探訪! 賑やかなフェイタウン!』

文字数 2,097文字




――フェイタウン



 ルーシーとジーニアスは、多くの市民で賑わう繁華街に足を踏み入れる。


 木箱を載せた荷馬車が通り、そのすぐ横を多くの市民が行き交っていた。


 行き交う人の多さに、この街の住人であるルーシーも驚く。



「あれ? 今日はずいぶんと人が多い……。ジーニアスさん、ごめんなさい。普段はここまで多くなくて、絶好の近道なんだけど――」



「構わない。むしろこれは素晴らしいものだ。興味深い調査対象で溢れている」



「なら、この繁華街を探索する?」


「いいのか?」


「もちろん! あなたはフェイタウンの一員になるのよ。この繁華街は、生活する上で欠かせない場所。どこに なにがあるのかを把握していれば、衣・食で困ることはないわ」


「臨時補給所は、多いに越したことはない。繁華街は、その世界の文化や生活水準を把握するのに適している。加えてこのエリアは、魔法関連の情報も収集できるかもしれない」


「帰還人の男の人って、みんな魔法やら剣に興味があるのね」


「では他の帰還人も同じように、不確定要素――いや、魔法の調査を?」


「調査……というよりも、こう、なんというか。自分の持つ力、ギフトに興味津々なの」


「質問に質問を重ねて、すまない。ギフトというのは、贈呈品という意味合いではなく、なにか別の?」


「ええそう。ギフトっていうのは、その人が持つ先天的な魔法のことよ。逆に、魔法関連の勉強や修行による習得。または潜在的な覚醒による魔法習得できるものを、スキルっていうの。 スキルは汎用性が高いけど、デメリットとして効果時間が短かったりするわね。そのスキルの上位カテゴリーに位置するのが、ギフトよ」


「上位? ではスキルと比べて効果時間が長く、その性能も長けていると?」


「ええそうよ。例えば『千里眼』『全属性魔法』『万能薬学知識』『超感覚』『全武器術』がギフト系。スキルなら『火属性魔法』『水属性魔法』『風属性魔法』『医術』『薬学』『鍛冶屋職人スキル』『棒術』『剣術』『弓術』『隠密術』などなどね」


「なるほど。とても分かりやすい説明だった。ギフトには、なにかデメリットはあるのか?」


「えーとねぇ、たしか……ギフトは複数取得はできなくて。一生変更することができないこと。あと、後の取得ができない点。あとはギフトの高レート連続使用は不可。だいたいこんな感じかな」


「そのデメリットを差し引いても、メリットの方が多大だ。それを一個人で所有すれば、争いが絶えないのでは?」


「そのために鬼兎騎士団が各所に駐在しているの。ほら! あそこで警備している人たち! とても綺麗な人たちだけど、怒らせるとオーガみたいに おっかないわよ~」


 ルーシーはそう言いながら、人差し指を立て、手を頭の横に付けてオーガのモノマネをする。見ようによっては、鬼兎騎士団が着用している、兎を模っした兜にも見えなくもない。

 
 ジーニアスは彼女のボディ・ランゲージには触れず「なるほど。留意します」と告げ、鬼兎騎士団について尋ねる。


「それは魔法対処を専門とした自警組織?」


「自警や治安維持を目的とした騎士団。異世界の言い方で表せば、軍隊の役割も兼ねているわ」


「なるほど。軍隊と警察機能を総一化したのか」


「まぁこの島ならではね。さすがに、セイマン帝国やミスリィレ同盟の大国では、こういった融通は無理でしょうけど」


「セイマン帝国は人間(ヒューマン)を基軸とした、この世界一の超大国。そしてミスリィレ同盟は、続いて第二位。ドワーフやエルフ、グラスランナーなどの亜人種からなる連合国。どちらもその性質上、軍隊と警察機能は分けたほうが無難と考えます」


「やっぱりそうよね。ああ、そうそう! 話は戻るけど、魔法関連のお店 見てく? ああ、でもその前に――ジーニアスさん、お腹 ()いてない? まずは腹ごしらえでもしましょうか!」


「簡単で構わない。摂取対象の推奨、及び判断は、君に一任する」


「じゃあ美味しいお店を探しましょう! 将軍閣下殿」


「将軍? 私はそのような階級では――」


「冗談よ、冗談。だって『君に一任する』って言い回し、なんだか軍人さんみたいだった」


「今のは私の真似か?」


「あ……ごめんなさい、もしかして不愉快だった?」


「いや、冗談やユーモアという文化は、我々の会話で使用されることは、ほぼない。先の会話に交えた共感動作は、とても面白い事例だった。ぜひこれからも、私との会話に添えてもらえると助かる。円滑なコミュニケーションを実践するため、それらの使い方を学習する必要がある」


「ジーニアスさんが元いた異世界って――」


 ルーシーは、ジーニアスのいた世界に興味を持ち、それについて訪ねようとする。

 しかしルーシーは、抱いた好奇心を押し留める。彼の記憶が混濁しているのを思い出したのだ。いたずらに刺激するのは良くないと、ルーシーは笑顔を取り繕い「ごめんなさい! なんでもないわ」と誤魔化す。


 そして、再びジーニアスの手を取ると、出店へ案内する。


「さぁジーニアスさん、一緒に出店探訪しましょう! おいしいおいしい朝ご飯、期待しててね!」




 見返りに垣間見れたルーシーの笑顔はあまりに純粋で、一際眩しいものだった。




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