第20話 奪還
文字数 1,474文字
横嶋の下に小舟が付くと、船の中から大きな声が響いてきた。吾美艦長の解放を知った乗員達が抗戦しているのだろうか。
「見ろ、非常用の縄ばしごが降りている。海賊が逃げるために下ろしたのかもしれんが、私はあそこから乗り込む」
「海賊が下ろしたのであれば、あの上には奴らが居ると言うこと。危険です、吾美艦長」
「大丈夫、任せなさい。駄目だと思ったら海に落ちるからすぐに救出にきて」
大きい猫目が自信たっぷりに二人を見る。
「志吹はここで待機。貴星、小舟を良い位置につけて」
吾美はどこからか奪ってきたのであろう、鞘に入った小刀を口にくわえて船の下に来ると、結んである縄はしごを掴んで登り始める。上から気がついた海賊がのぞき込み、吾美に向かって刀を振り回した。
相手の刀のほうが、長い。このまま吾美が上がっていっても、血祭りに上げられるだけであった。
生と死をかけた戦いに美貌など関係ない。
舷側から乗り出した男の刀が勢いよく登ってきた吾美の細い首元に振り下ろされる、かろうじて避けた吾美の黒髪の一部がはらはらと風に舞った。今の反動か、両足がはしごから外れて、彼女は腕だけでぶら下がっている。
男の刀が閃く。吾美の身体が揺れ、はしごを止める縄の一端が切れた。
はしごは1本の綱でかろうじてつなぎ止められている。固定が悪くなった梯子は吾美の身体を大きく揺らした。
「ひいっ」貴星が思わず悲鳴を上げて、目をつぶる。
「いや、貴星……、見てみろ、教官笑ってるぞ」
志吹の人差し指の方向。月に照らされた戦の女神は縄に掴まりながら、チラリと教え子に顔を向けて不敵な笑みを浮かべていた。
そのまま、のけぞるように身体を激しく揺らす。片側の固定が切れたことでむしろはしごの自由度は高くなった。身体を揺らすことで、縄の振幅がでる。
吾美は船べりに足から突っ込むと、膝を曲げて思い切り蹴った。
縄は船から離れる方向に半円形の大きな弧を描いて空を切る。
海賊が船に固定された縄を断ち切ろうと刀を振り上げた、その時。
反動で今度は縄が大きく船側に近づいた。そして身体を丸めた彼女は、これしかない、という瞬間に縄から手を離した。
満月を背にして空中で一回転する、その姿はまるで翼を持った黒髪の女豹。
吾美は軽やかに甲板に飛び乗る。と、同時に海賊が叫びながら海に落ちていった。
背中を蹴った吾美の長い素足が月にきらめいている。
「吾美艦長!」
船の中からも歓声があがる。
にやりと微笑んで、小刀を持った片手を上げた吾美は船に飛び降りた。
そして、金属のぶつかり合う音、そして叫びがさらに激しくなった。
右腕が折れている志吹と、上がっても足手まといだと言うことがわかっている貴星は、横嶋を見上げながら小舟でじっと待っている。
そこかしこに、船から放り出された男達の作る水しぶきが上がった。船に上がってこようとする男達は志吹が撃退する。
「さすが吾美教官 、名前の通りの御活躍です」
次々と上がる水しぶきを見ながら貴星がつぶやいた。
二人が心配する必要は何ひとつないようだった。
しばらくして、船の上からするすると縄が降りてきた。先端に輪っかが作られている。
「制圧完了よ。それを身体に通しなさい。こちらで引っ張り上げるから」
船ばたから、笑みを浮かべた吾美が大きく手を振る。
教え子二人組は、恩師に頭を下げた。
「ありがとうございます」
まず手負いの志吹が船の上に引き上げられていく。
それを見ながら、貴星がつぶやいた。
「吾美教官、あんなに強くて、あんなに格好いいんじゃあ、並の男では満足できないだろうなあ」
「見ろ、非常用の縄ばしごが降りている。海賊が逃げるために下ろしたのかもしれんが、私はあそこから乗り込む」
「海賊が下ろしたのであれば、あの上には奴らが居ると言うこと。危険です、吾美艦長」
「大丈夫、任せなさい。駄目だと思ったら海に落ちるからすぐに救出にきて」
大きい猫目が自信たっぷりに二人を見る。
「志吹はここで待機。貴星、小舟を良い位置につけて」
吾美はどこからか奪ってきたのであろう、鞘に入った小刀を口にくわえて船の下に来ると、結んである縄はしごを掴んで登り始める。上から気がついた海賊がのぞき込み、吾美に向かって刀を振り回した。
相手の刀のほうが、長い。このまま吾美が上がっていっても、血祭りに上げられるだけであった。
生と死をかけた戦いに美貌など関係ない。
舷側から乗り出した男の刀が勢いよく登ってきた吾美の細い首元に振り下ろされる、かろうじて避けた吾美の黒髪の一部がはらはらと風に舞った。今の反動か、両足がはしごから外れて、彼女は腕だけでぶら下がっている。
男の刀が閃く。吾美の身体が揺れ、はしごを止める縄の一端が切れた。
はしごは1本の綱でかろうじてつなぎ止められている。固定が悪くなった梯子は吾美の身体を大きく揺らした。
「ひいっ」貴星が思わず悲鳴を上げて、目をつぶる。
「いや、貴星……、見てみろ、教官笑ってるぞ」
志吹の人差し指の方向。月に照らされた戦の女神は縄に掴まりながら、チラリと教え子に顔を向けて不敵な笑みを浮かべていた。
そのまま、のけぞるように身体を激しく揺らす。片側の固定が切れたことでむしろはしごの自由度は高くなった。身体を揺らすことで、縄の振幅がでる。
吾美は船べりに足から突っ込むと、膝を曲げて思い切り蹴った。
縄は船から離れる方向に半円形の大きな弧を描いて空を切る。
海賊が船に固定された縄を断ち切ろうと刀を振り上げた、その時。
反動で今度は縄が大きく船側に近づいた。そして身体を丸めた彼女は、これしかない、という瞬間に縄から手を離した。
満月を背にして空中で一回転する、その姿はまるで翼を持った黒髪の女豹。
吾美は軽やかに甲板に飛び乗る。と、同時に海賊が叫びながら海に落ちていった。
背中を蹴った吾美の長い素足が月にきらめいている。
「吾美艦長!」
船の中からも歓声があがる。
にやりと微笑んで、小刀を持った片手を上げた吾美は船に飛び降りた。
そして、金属のぶつかり合う音、そして叫びがさらに激しくなった。
右腕が折れている志吹と、上がっても足手まといだと言うことがわかっている貴星は、横嶋を見上げながら小舟でじっと待っている。
そこかしこに、船から放り出された男達の作る水しぶきが上がった。船に上がってこようとする男達は志吹が撃退する。
「さすが
次々と上がる水しぶきを見ながら貴星がつぶやいた。
二人が心配する必要は何ひとつないようだった。
しばらくして、船の上からするすると縄が降りてきた。先端に輪っかが作られている。
「制圧完了よ。それを身体に通しなさい。こちらで引っ張り上げるから」
船ばたから、笑みを浮かべた吾美が大きく手を振る。
教え子二人組は、恩師に頭を下げた。
「ありがとうございます」
まず手負いの志吹が船の上に引き上げられていく。
それを見ながら、貴星がつぶやいた。
「吾美教官、あんなに強くて、あんなに格好いいんじゃあ、並の男では満足できないだろうなあ」