インドネシアに行ったトカゲ

文字数 1,493文字

 やあ。僕、トカゲです。生まれてからずっと、原田さんの家の庭でお世話になっています。
 ちっちゃい僕ですが、大きな夢があります。それは、インドネシアというところに行くことです。窓をちょろちょろしていたとき、ちらっと見えたんです。四角い箱の。あ、テレビっていうんですか?初めて知りました。
 そこに映っていた大きなコモドオオトカゲ。あの人、僕の憧れなんです。いずれ僕もあんなに大きくなれるといいなって、思ってました。
 チャンスはどこにでも転がっているのですね。それとも、神様が僕にチャンスをくれたのでしょうか。原田さんのご主人が出張でインドネシアへ行くことになりました。インドネシアには、コモドオオトカゲがいます。だから、もちろん僕もこっそりついていきます。そのために、僕は毎日しがみつきの練習をしてきたんですから。
 出発当日、ご主人の手荷物に運良く紛れ込むことに成功しました。あとは飛行機が何時間もかけて僕らを運んでくれます。
 しかし、思った以上の長旅でした。それもこれも、コモドオオトカゲに会うためです。原田さんのご主人とも、空港でお別れです。
 僕は、原田さんとお別れしたあと、色々な場所を探しまわりました。そして、ついに大きくて、いかつい体のコモドオオトカゲを見つけることができたのです。
 確かにここは、僕らみたいなトカゲが住むには絶好の場所です。きれいな海に近いし、自然をそのまま残したようなところ。こんな楽園が、この世にあったなんて!
 そのままのんびりと、日向ぼっこしようとしていたら、僕の上に大きな影が落ちました。
「おい、ぼうず、何してやがる」
 コモドオオトカゲです。僕は、体についた砂や埃を手で払い、恭しく挨拶をしました。
「コモドオオトカゲ様。あなたにお会いしたくて、はるばる日本から来ました。お会いできて光栄です」
 コモドオオトカゲ氏は少し困った顔をしました。
「丁寧な挨拶をしてもらって悪いんだが、俺はお前を食べるぞ。空腹なんだ」
「何ですと」
 僕は困ってしまいました。はるばる会いにきたというのに、僕を食べるって?
「他にえさはあるじゃないですか。葉っぱや花のみつ……」
 僕が話し始めると、コモドオオトカゲ氏はうっとうしそうに首を振りました。
「そんなもの、食ったうちに入らない。もうえさも少なくなってきたんだよ。仲間もみんな、空腹で死んだ」
 僕は、考えました。小さな頭で考えて、考えて、答えを出しました。
「僕を逃がしてくれませんか」
「なんだって?」
 コモドオオトカゲ氏はぎろりと僕を睨みました。
「僕はこれから日本に帰ります。そこで爬虫類を守る自然保護団体に入りましょう。そして、インドネシアの自然を守ることに、一役かいますよ」
「そんなことができるのか?ちっこいただのトカゲのくせに!」
「確かに僕はただのトカゲです。でも、やってみなくちゃわからないじゃないですか!」
 僕が大声を出すと、さっきは、鼻で笑ったコモドオオトカゲ氏も、驚いたようでした。
「ほう、言うね。まあ、お前一匹食ったところで、腹の足しにもならねぇだろうし、逃がしてやろう。その代わり、約束が果たせなかったら、俺が日本へ行って、お前を食ってやるからな」
 そう言うと、コモドオオトカゲ氏は、僕を解放し、その場から立ち去っていきました。
 それから僕はというと、いまだインドネシアで迷っています。これではいつまで経ってもコモドオオトカゲ氏との約束が果たせません。そしたら僕は食べられてしまいます。
 もし、どなたかインドネシアから日本へ帰る方がいたら、僕を手荷物に入れてくれませんか? 僕はいつでも、空港で待っていますから。
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