からっぽのリュック

文字数 1,272文字

 明日は僕の誕生日だ。僕は明日が待ちきれなくって、今日はいつもより遅くの十時にベッドに入った。本当はまだ起きていたかったんだけど、お母さんが「いい子にしないと誕生日プレゼントはなしよ!」って言うんだもん。大人はひきょうだ。
 布団に入ってしばらくすると、僕はもう夢の中にいた。なんで『夢の中にいる』ってわかるのか、だって?何となく体がふわふわしてるし、ここは僕の部屋じゃない。何もない白い空間だ。それに、今目の前に去年死んだおじいちゃんがいる。こんなの、現実じゃありえない。
「洋司かい? 大きくなったなぁ。」
「うん」
 おじいちゃんはどこから取り出したのか、五つのリュックサックをどっさり置いた。
「洋司、明日誕生日じゃないか。わしも何かプレゼントしたくてな。この中から好きなものを選びなさい。」
「好きなものって、全部リュックだよ。そりゃあ、色は全部違うけど」
「色だけじゃあない。中身も違うんだよ。」
 そう言って、おじいちゃんはリュックを開けた。
 赤いリュックにはたくさんのおかし、青いリュックには欲しかったウルトライダーの変身セット、黄色いリュックには絵の具と画用紙、緑のリュックには水筒と遊園地の入場券が入っていた。
ただ、最後の白のリュックだけ、何も入っていない。
「おじいちゃん、白には何も入ってないけど、なんで?」
 僕が聞くと、おじいちゃんはニヤニヤと笑った。
「それにはな、『夢』が入っている」
『夢』? どういうことだろう。確かにここは夢の中。なのに、『夢』が入ってる?
「夜に見る『夢』じゃなくて、これは『将来の夢』だよ」
 説明してもらったけど、よくわからない。
でも、僕は考えた。明日は僕の誕生日だ。ということは、みんなからいっぱいプレゼンをいっぱいもらう。だったら、空の方がいいんじゃない?
「白が欲しい!」
「白かい? ほほう」
 おじいちゃんはなんだか上機嫌だ。僕が白いリュックを選んだからだろうか。
「ほら。おめでとう」
 白いリュックを受け取ると、おじいちゃんはゆっくりと消えていった。僕は空の白いリュックをじっと見つめた。
 翌朝。日曜日だったので、昼過ぎに僕は起きた。
「よっくん、お誕生日おめでとう!」
 リビングに行くと、お母さんとお父さんが祝ってくれた。
「ありがとう!」
「それでプレゼントなんだけどな」
 テーブルの下に頭をつっこみ、ごそごそと袋を取り出した。
「開けてもいい?」
 お父さんから受け取った袋を、返事も聞かずさっそくごそごそ開けてみる。
中にはサッカーボールが入っていた。僕はサッカーなんて興味なかったんだけど、せっかくもらったんだ。ちょっと練習してみようかな。
その日から、僕はサッカー少年になった。毎日友達と一緒に放課後はサッカー三昧。少年サッカーにも入った。いつの間にか、僕の夢は『サッカー選手になること』になっていた。
それから十年経った。今になって、時折思い出す。僕が夢の中でおじいちゃんからもらった、白いリュック。『将来の夢』が入ってるって言ってた。
実物はないけれど、今、僕の白いリュックは、夢であふれている。
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