第4話 何ひとつ解らぬ

文字数 2,230文字

※シーズン1と同様、セリフや情景描写にはここの作者のアレンジが加えられています。

台本に忠実ではありませんので、ご了承ください。

第1幕 第1場
夜。ここは中世のドイツです。

一人の老いた科学者が、憂いを帯びた表情で座っています。そして机には、膨大な量の羊皮紙が置かれています。


突然、顔を上げるファウスト。

虚無を示す一つの言葉から、物語が始まります。


Rien(何ひとつ解らぬ)!
脇目も振らず研究に捧げてきた自分の人生を後悔するファウスト。

目の前にある論文の山が虚しく感じられます。

これだけ研究に没頭してきたのに、創造主からは何の慰めの言葉も届いて来ぬ。

私には何も見えぬ。私には何も解らぬ!

嘆いているうちに、夜が明けてきました。


ファウストは一旦窓を開けようとしますが、すぐにためらいます。朝の空気を吸ったところで、心が晴れることはないのですから。

こうしてまた一日が輝きだす。

でも私はむしろ、暗い夜の中にいたい。夜が私から逃げるのであれば、むしろ追いかけてやろう

絶望のあまり、自殺するつもりのファウスト。水晶の小瓶に毒薬を注ぎます。


しかしそこに口を付けようとした瞬間、外から女たちの楽しそうな歌声が聞こえてくるのです。

のんびり屋の娘さん、まだ眠っているのね

もうお日さまが輝いているわ 金色のコートを着て

もう鳥が歌っているわ 陽気な歌を

花は日の光に開き

すべての自然が愛に目覚めるわ

生命の輝きを讃える歌です。

だけど歌が楽しそうであればあるほど、ファウストは落ち込みます。他人の幸せは、自分を惨めにするばかり。

……人の幸福なんてむなしい。あっちへ行ってしまえ!
再び毒をあおろうとするファウスト。

しかしまたもや、外から楽しそうな歌声が聞こえてきます。今度は農夫たちの歌です

夜明けの畑がおれたちを呼んでいる
天気は上々

畑も美しい

神様に感謝しよう!

力強く男らしい歌い方が、ますますファウストを追い詰めます。
苦悩するファウストの姿を動画でご覧下さい。

(前回の動画の続きです。ホムンクルスの遺骸を助手たちが片付けるところから始まります。)

農夫たちの歌は神様をたたえていましたが、ファウストは皮肉に笑います。
……神か。


神が私に何をしてくれるというのだ?

年老いた私に、愛や若さや信仰心を返してくれるというのか?

何も得るものがないまま、年を取ってしまったと感じるファウスト。彼は次第に怒りを感じ、自分がこれまで大切にしてきたものを呪い始めます。
呪われよ、幸福

呪われよ、科学


祈りも信仰も消えうせよ!

ファウストの怒りはどんどん激しくなり、その勢いは止まりません。


オーケストラの音量も激しくなっていきます。

そんな中、彼はついに叫ぶのです。

悪魔よ、私の元へ来い!!
第2場
不気味な声が響いたのは、この時です!
オレはここにいるぜ~
ぎょっとし、思わずのけぞるファウスト。

まさか本当に悪魔が現れるとは思っていなかったのです。

メフィストフェレスはそんなファウストを見て、満足気に笑います。

何で驚くんだ?

オレを呼び出したのは、お前だろう

剣を腰に 羽根を帽子に

膨れた財布 立派なマント


どうだ、悪魔っていうのはカッコいいだろう?

はいっ、ここ注目! オペラ『ファウスト』では、悪魔メフィストの洒脱さ、カッコ良さは外せないポイントとなっています。

この点も「フランス製」ならではと言えるのかもね

ファウストに畳み掛けるメフィスト。
何で黙ってんだよ?

もしかして、オレ様が怖いのかい?

……そんなわけ、なかろう
じゃ、オレ様の力を疑ってんのかい?
うむ。そんなところだ
じゃ、試してみるがいい
うるさい。とっとと去れ!
ふぃー(呆れた声)。それがあんたの感謝の仕方ですかい。

悪魔を呼び出しておいて、今度は追い返すとはね

では聞くが、お前は私に何をしてくれるのだ?
何でもいいぜ~。

あんたの欲しいモノは金か?

富などあったって何をすれば良いのだ
よろしい。名誉か?
それ以上のものだ
権力?
違う! 私が求めるのは、それらをすべて含んでいるものだ。


私は青春が欲しいのだ!

そうです。ファウストが心から求めているのは、若さです!

オーケストラの音量が大きく、かつ明るくなっていきます。

私は快楽が欲しい。若い恋人が欲しい。

私に彼女たちの愛撫を!

私に彼女たちの熱情を!

おいおい、何だよ。ファウストって、ただのエロ親父だったのかよー
いや〜、ここ、考えさせられるポイントだと思うよ?


サバ君にとって、人生で一番大切なものは何?

オレ?

オレはクラスで一番モテる男になりたい

ほら〜。同じことを言ってるじゃん(笑)
その人の年齢によって、答えは変わってきちゃいそうだね
悪魔の誘導により、狂ったように本音を吐き出すファウスト。

これまで学者として禁欲的に生きてきただけに、いったんその魅力に取りつかれてしまえばもう情欲の塊となってしまうのです。

私にみなぎる力を!

強力な本能と、野性的な情熱を!


熱烈な若さよ

私にお前の熱情を

私にお前の陶酔を

私にお前の喜びを

は~い、はいはい(喜)。非常によろしい。

ぜんぶオレ様が叶えてやるぜ

だが私は、代わりに何を差し出せば良いのだ?
ほとんど何も必要ない。

この世ではオレ様があんたに仕える。

あの世ではあんたがオレ様に仕える。それだけだ

ひえ~。

これって悪魔に魂を売り渡すかどうかっていう話?

あの世では悪魔の手下になるのか。

オレだったらやめとくな。

考えろ、ファウスト

それじゃ、お話が終わっちゃうってば(笑)。

次回、メフィストがファウストを口説き落とすシーンになります!

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