第16話 愛の囁き、そして拒絶
文字数 1,857文字
マルトはいなくなってしまいましたが、今度はマルグリートとファウストが木立ちの下に戻ってきます。
ニヤリと笑い、両腕を広げるメフィスト。
二人が恋に落ちるよう、全力で呪いをかけます。
二人の懸念はごもっとも。
何せ戯曲『ファウスト』の魅力的なシーンを抜粋してオペラが作られているため、物語全体から見ると「あれ?」な部分が目につくのです。実際、後半は大事な部分の説明が抜け落ちています。
昔からオペラ『ファウスト』に寄せられてきた厳しい批評も、一つにはこの点に端を発しているのでしょう。
けれども、それぞれのシーンに当てられたグノーの音楽の美しいこと!
オペラ作品として傑作と言われる理由はそこにあります。
ここは若い男の愛の囁きと、それを喜びながらも拒絶する乙女の様子を存分に堪能しましょうよ。
古い作品の鑑賞の際には、しばしばこの手の割り切りも必要。本筋よりも細部を重視する作品は今でもあるしね
第11場
嬉しそうにしながらも、マルグリートはファウストの体を押しのけます。
そして傍らに屈み込み、一本のヒナギクの花(=マルグリート)を摘み取るのです。
花びらをちぎり、つぶやくマルグリート。
マルグリートは花びらを空に放り上げ、ファウストも大喜び。
ぎゅっと抱き合う二人。
声を揃えて「永遠に」と叫びます。
ところがここで、不気味なティンパニの音がクレッシェンドしていきます。
マルグリートが「これはいけない」と気づいたのです。
慌ててファウストから離れるマルグリート。
苦悩を見せつつも、マルグリートの願いに応えて引き下がるファウスト。
逃げ去るマルグリート。
ファウストの声がその背中を追います。
マルグリートは敷居のところで振り返り、ファウストにキスを送ります。
恋人たちの葛藤を表す音楽が素晴らしいです。
こちらの動画のマルグリートは、「シーズン1」でも何度か引用させて頂いたアンジェラ・ゲオルギューさん(今をときめく大スターです!)。今回の内容は、9分30秒ぐらいまでです。
潔く立ち去ろうとしたファウストですが、その行く手にメフィストが立ちはだかります。