第16話 愛の囁き、そして拒絶

文字数 1,857文字

マルトはいなくなってしまいましたが、今度はマルグリートとファウストが木立ちの下に戻ってきます。


ニヤリと笑い、両腕を広げるメフィスト。

二人が恋に落ちるよう、全力で呪いをかけます。

甘い語らいを邪魔せんようにしなければ。

おお夜よ、お前の陰を彼らの上に広げてやれ!

愛よ、彼らの魂に後悔させるな!


そしてお前たち、ほのかに香る花たちよ

この呪われた手のもとに花開くのだ!

大いなる悪魔の誘惑、という感じですね。でもマルグリートはそんなに簡単に落ちる子じゃありません。


というわけで少々まだるっこしいですが、この後も恋の駆け引きが続きますよ~

う~ん、ロマンチックだけど……


ちょっといい?

なかなか物語が前に進まないね?

おれもそんな気がしてた。

寄り道ばっかりで、物語の本筋が置き去りじゃん

あの二人がくっついてハッピーエンド、っていうわけじゃないんでしょ?
舞台はそろそろ折り返し地点なのに、後半は大丈夫なのかよ、おい
二人の懸念はごもっとも。


何せ戯曲『ファウスト』の魅力的なシーンを抜粋してオペラが作られているため、物語全体から見ると「あれ?」な部分が目につくのです。実際、後半は大事な部分の説明が抜け落ちています。

昔からオペラ『ファウスト』に寄せられてきた厳しい批評も、一つにはこの点に端を発しているのでしょう。

けれども、それぞれのシーンに当てられたグノーの音楽の美しいこと!

オペラ作品として傑作と言われる理由はそこにあります。


ここは若い男の愛の囁きと、それを喜びながらも拒絶する乙女の様子を存分に堪能しましょうよ。

古い作品の鑑賞の際には、しばしばこの手の割り切りも必要。本筋よりも細部を重視する作品は今でもあるしね

第11場
もう遅いですわ。さようなら
待ってください。

お願いだから、あなたの顔を見つめさせてください。

この愛白い光の下で

夜の星影がまるで雲のように

あなたの美しさを包むのです!

おお沈黙よ! おお喜びよ! 言いようのない神秘よ!

酔わせるような気だるさよ!


……少し放っておいて

嬉しそうにしながらも、マルグリートはファウストの体を押しのけます。

そして傍らに屈み込み、一本のヒナギクの花(=マルグリート)を摘み取るのです。

何をするの?
簡単な占いよ
花びらをちぎり、つぶやくマルグリート。
愛してる……愛してない……

愛してる、いない、愛してる、いない……

……愛してる!!
マルグリートは花びらを空に放り上げ、ファウストも大喜び。
そう、この花を信じてください!
あ~、今、一枚ずつじゃなかったぞ!!
女の子はそういうところ、結構ずるいんだよ(笑)
これが神様のお告げであったように、私はあなたを愛しているのです

あなたにはその崇高で甘い言葉が分かりますか?


私たちは、ずっと新しい情熱を持ち続けましょう

私たちは、永遠の喜びに酔いしれるのです

ぎゅっと抱き合う二人。

声を揃えて「永遠に」と叫びます。

おお愛の夜よ、輝く夜よ!

おお優しい炎よ!

静かな幸福よ

私たち二つの魂に天国を注ぎたまえ

あなたを愛したい。あなたを大切にしたい

もう一度言ってください!


私はあなたのもの

あなたのためなら死んでもいい

ところがここで、不気味なティンパニの音がクレッシェンドしていきます。

マルグリートが「これはいけない」と気づいたのです。


慌ててファウストから離れるマルグリート。

行ってください
あなたから離れろなんて、むごい人だ
このマルグリートの心を壊さないで


私を本当に大切に思ってくれているなら、私の祈りに応えてください

行って……行って、今すぐに……!

苦悩を見せつつも、マルグリートの願いに応えて引き下がるファウスト。
穢れなき貞淑さよ

その力が打ち勝ちました。あなたに従いましょう。


でも、明日には……!

はい。明日の夜明けに。

明日なら、いつでも!

逃げ去るマルグリート。

ファウストの声がその背中を追います。

もう一言だけ。

甘い告白を繰り返してください。

あなたは私を愛していると……!

マルグリートは敷居のところで振り返り、ファウストにキスを送ります。
天の至福だ……

ああ、行こう

恋人たちの葛藤を表す音楽が素晴らしいです。

こちらの動画のマルグリートは、「シーズン1」でも何度か引用させて頂いたアンジェラ・ゲオルギューさん(今をときめく大スターです!)。今回の内容は、9分30秒ぐらいまでです。

潔く立ち去ろうとしたファウストですが、その行く手にメフィストが立ちはだかります。
……
げげっ。

出たよ、こいつ

まあ、簡単に引き下がる奴じゃねえよな
この恋が悪魔の導きであること……。

悲劇となってしまう理由はそこにあるんです

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色