第7話 黄金の子牛は

文字数 1,090文字

しんみりしてしまったその場の空気。

ヴァグネルが必死に取り繕います。

さあ友よ。つまらぬ心配などやめよう。

このうまいワインに涙など混ぜないぞ

飲もう! 乾杯しよう!

陽気に歌おう! おれたちなりに楽しもう!

怖いものなしを装う若者たち。

ヴァグネルが挑発するように、陽気な歌を歌います(「ネズミの歌」)。

勇敢というよりは臆病なネズミが

美しいというよりは醜いネズミが

穴倉の奥に住んでいた

古い樽の下には一匹の猫が……

すると、その挑発に乗るかのように現れた人物がいます。
第3場
オレも仲間に加えてくれ~
人々は思わず口をつぐみます。

この異様な雰囲気は何でしょう?


ワグネルが歌をやめてしまったので、メフィストはニヤニヤしながら彼の元へ。

まずはその曲を仕上げなされ

オレ様も何曲か歌ってやるぜ~

(何だよ、人の邪魔をして)

一曲で十分だ。良い出来だったらな!

もちろんベストを尽くしますよ。皆さんを退屈させないよう
オーケストラが煽情的な前奏を始めます。ここから悪魔メフィストによる有名な歌が始まります。

「黄金の子牛は神様方の征服者」という歌です。

黄金の子牛はずっと立ってるぞ

崇め奉られてるぞ

その力は世界の隅々まで!

この汚らわしい偶像を祝うために

王も民衆も一緒になって、この台座の周りで

狂気のダンスを踊るのだ

そして悪魔がダンスをリードするのだ

(合唱)そして悪魔がダンスをリードするのだ
金の子牛は神々の征服者

その栄光の中に 傲慢なモンスターは天国を罵る

おお、奇妙な狂気よな

人間どもがその足元に押し寄せるのを見てるぞ

剣を手に、血や泥にまみれてる

金貨がギラギラと燃える

そして悪魔がダンスをリードするのだ

(合唱)そして悪魔がダンスをリードするのだ
何だこりゃ。

奇怪な歌だな

歌詞はメチャクチャだけど、リズミカルで思わず聞き入ってしまうね。

人間がいつの間にか悪魔に乗せられていく感じがする

金の子牛というのは、邪教のシンボルとして旧約聖書に登場するものだそうです。

実際に古代世界では、牛を信仰の対象とすることが多くありました。

19世紀の人々にとっては、聖なるキリスト教世界に対立する概念だったんだろうね

魔法で人々をたぶらかすメフィスト。

人気の歌については動画がたくさんありますが、この「Le veau d'or(黄金の子牛は)」もそう。良かったらフランス語で検索してみてください。

奇抜な演出の動画もありますが、まずはオリジナルの雰囲気に近いこちらをどうぞ。

古い映像ですが、こちらはメフィストの歌がとにかく素晴らしいです。

戦後最高とうたわれたブルガリアのバス歌手、故ニコライ・ギャウロフさん。邪悪さぶっちぎりの歌を、ぜひご堪能下さい!

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