第19話 教会で対決

文字数 1,562文字

第3場
教会に入ってきて、祭壇前にひざまずくマルグリート。


いつもの教会という設定ですが、重厚なパイプオルガンの音色は立派な大聖堂を思わせます。ここは神聖な祈りの場なのです。

主よ。つつましいしもべにお許しください。

御身の前にひざまずくことを!

真剣に祈るマルグリートですが、彼女の身に降ってくるのはなぜか恐ろしい悪魔の声。
だめだ。

お前に祈りは許されぬ!

さあ悪霊どもよ、集まるのだ!

恐怖でこやつを打ち倒せ!

集まってきた悪霊たちが、彼女に呼びかけます。
(おどろおどろしく)

マルグリート!

(はっと顔を上げ)

誰が私を呼んでいるの?

(またもや、おどろおどろしく)

マルグリート!

(恐怖に震えあがり)

よろめくわ、死にそうだわ!

善なる神様、慈悲深い神様!

私はもう罰せられる時なのですか?

過去を思い出すがいい。

天使の翼に守られながら、この教会で主を讃え崇めていた時のことを!

お前が清らかな祈りを口にしていた時のことを!

そして心の中に、母の口づけと神を同時に抱きしめていた時のことを!

あの叫びを聞け! 地獄がお前を呼んでいるのだ。

お前に付きまとう地獄なのだ!

永遠の後悔、永遠の苦悩、永遠の夜の地獄なのだ!

神様!

あの陰から私に話しかける声は何なのですか?


全能の神よ

どんな暗い闇が私の上に降りて来たのですか?

またパイプオルガンの音。

そこに今度は聖職者たちの歌が混じります。

主の一日が明け初むる時

天の十字架は輝き

世界は滅びに至るであろう

ああ、あの敬虔な歌はもっと恐ろしい
無駄だ! 神はお前にお許しを与えることはない。

天はお前のために明けることはない

さらば愛の夜よ 陶酔に満ちた日々よ

不幸なお前、地獄に堕ちるのだ!

マルグリートは押しつぶされそうになりながら、必死に祈ります。

これは悪魔に対する反撃です。

主よ、不幸な心の祈りを聞き届けたまえ!


御身の光の一筋が、彼らの上に降り注ぎますように!

マルグリートが祈るこの部分↑のメロディーは、フィナーレを飾るラストの曲でも繰り返されます。
けれど、悪魔の方も負けてはいません。

最後の一撃です!

マルグリート、呪われよ!
ああー(絶叫)!
マルグリートは力尽き、敷石の上に倒れてしまいます。
激しい歌だね〜。

これはほとんど戦だよ。それも悪魔とマルグリートの一騎打ち!

彼女にばっかり戦わせて、ファウストの野郎は何やってんだ?
ホントだよね〜。でも妊娠した挙げ句に捨てられた女性は、たった一人で現実に立ち向かわなくちゃいけない。

これは一種の暗喩だよね

これじゃマルグリートが可哀想……。

彼女は宝石の誘惑に負けたかもしれないけど、そんなに悪いことをしたとは思えないよ

婚前交渉をここまで悪とするのは、この時代ならではのことかもね。でも現実に起こる問題は、今も昔も変わりはありません
悪魔のささやきと、敬虔な祈りとがぶつかり合うこちらのシーン。メフィストの不気味な相貌と歌声を、厳かなオルガンの音が引きたてます。

ここは教会音楽が得意だったグノーの本領発揮! 聖と悪との対決を、ぜひ音楽でお聴きください。

悪魔も教会の中に入れるんだな?
このシーンでは、マルグリートもまた内なる悪魔と戦っていると見ることができるよね
マルグリートのような清楚な女性の中にも悪魔がいるの?
誰の中にもいるよね。

そして子育てに悩み、追い詰められた親が耳にしてしまう悪魔の声って、どんな感じだと思う?

え〜わかんないよ
「この子さえいなければ!」ってやつだよ
ええ!?
ええ!?
そう。彼女は取り返しのつかない過ちを犯してしまうんだ……


前にマルグリートは、死んだ妹の話をしていたよね? それほど世話好きで優しい心の持ち主でも、あまりの困難を前にすると正常な判断ができなくなるんでしょう

だけどその事件が起こる前に、もう一人の登場人物が戻って来ます。

皆さま、この人を覚えていらっしゃいますか?

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