第84話 日々新たなり

文字数 522文字

 ある人は、生きていることは日々少しづつでも進化、と言うか、
変化していることだと言う。よく言うわ。限られた日々を限られた時間も
知らずに生きている老いの身には進化などあろう筈はない。老化の他ない。
 しかし、生きている証に白髪が日進月歩で増えてゆく。私は毛染めを
しないから、白髪の勢いをつぶさに捉えている。白髪だけでない爪も
驚くほど伸びる。シミも増える。背中も丸くなる。なるほどこれを進化すると
言うのかと、笑っている。
 時は春。日は朝と続けたいが、葉桜のこの頃になるとふるさとの野や山に
竹の子、わらび、ふきが、溢れる。毎年狩に行くのだが、
今年は気持ちだけで身体がノーサンキュウと言っている。
 捨てる神も救う神もある。竹の子、ふき、木の芽と山の幸がどっさり届いた。
 炊飯器は三合しか炊けないが、春の香たっぷりの田舎寿司を作った。
 卵とじにしたり、和え物にして息子の家や友達にふるまった。

 六根は清浄。夢や希望は食べる他にない。
 少しでいいから、おいしいと思えるものを食べたい。

 思いは故郷の春の山野を駆け巡る。
 淡雪より淡く消えた、青春の日がふと蘇る。
 故郷に残る最後の友の訃報が届いた。葬儀の後だった。
 あの日の友も青年も皆んな死んでしまった。
  



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