第二話

文字数 8,524文字

 私立英雄学園東京本校。それは、一言で表すなら「壮大」であった。
 世間一般的に広さの基準として示される東京ドームを引き合いに出すなら、その広さは五十個分を優に越えるほどの、人工島である。
 周りからいくつかの橋を架けられ、そこが学園間のアクセスになっている。
 まさに、学園都市。
 ありとあらゆるものがこの英雄学園の中で完結し、学園外、すなわち島の外に出なくとも何不自由のない生活を送ることが可能な、今までの常識を軽く覆すような理想郷。
 様々な国に英雄を育成する学び舎、「私立英雄学園」があり、国はあまたの資金をここに投じて国力を上げている。
 実際、ここを卒業した英雄たちは国の平和を守るためや、未曽有の危険にさらされている地に赴いて活躍するためなど、文字通りヒーローとして活躍する。
 そしてこれはとても下世話な話にはなるが……高給取りは確実。人によってはそれ目当てでここに来ることもある。
 ……以上、下世話な話を挟みつつ、学園案内パンフを読み解いた内容。
 院が横を見ると、そこには新天地に瞳を爛々に輝かせた礼安がいた。つい数時間前、仙台市の慣れ親しんだ土地を離れた際の涙やら鼻水やらでぐずぐずになった顔はどこへやら。
「すごいね院ちゃん、おっきいね!」
「貴女、それがこの間中学を卒業した人間の話す言葉ですの……?」
 能天気な礼安に胃を痛めつつも、院は彼女を連れて校内へと進んでいく。

 様々なものが広大な校内にて、木陰に隠れる不審な人間が一人。
 不審な人間にも、様々な種類がある。露出狂であったり、真っ黒な服に身を包んだ文字通りな人間であったり。
 しかし、この不審な人間は少し違う。
 学校敷地内を歩く女子に……特に、英雄の因子を持った女子に目をつけて涎を垂らしていた。金髪を腰辺りまで伸ばした、蛍光ピンクの作業服を腰まで脱ぎ、『LOVE WEAPONS』と書かれたTシャツを着ている「女子」である。
「いやあ……今日は新入生ちゃんが一堂に会する、入学前学生証交付の日……いや初々しさがたまりませんなあ……涎垂れてきた……下の」
 かなりハイレベルな美人顔のはずが、興奮によって歪みに歪んでいた。ひどい。

 道中、妙な寒気を感じながら、無事二人ともスマートフォン型の学生証(デバイス)を入手した。
「これで校内の買い物ができるらしいけど……」
「これでとりあえずなんか買ってみようよ!」
 はたから見ると、とても踏み込みづらい、二人だけの空間が出来上がっていた。包み隠さず表現するならば、百合である。
 しかし、そんなのお構いなし、な人間は少なからず存在する。特に、無知な女子を食い物にする浮ついた集団などが該当する。
「ねえねえそこの二人? もしよかったらここの土地勘無いだろうし、オレらがちょいと案内してあげよっか?」
「ついでにお茶でもシバいちゃお的な??」
 見た感じ怪しそうな二人についていきそうな礼安を後ろに控えさせ、警戒心をむき出しにする院。
「……別に結構でしてよ」
 しかしそんな院をよそに、浮ついた男二人は徐々に「増殖」し始める。比喩ではなく、本当に増殖し始めたのだ。まるで中学時代映像で見たような、アメーバのよう。アメーバは無性生殖によって繁殖するために、同じ見た目の者がわんさか増える。
 礼安と院を囲むように、数を一人ずつ増やす男二人。
「オレら、『武器≪ウエポン≫』科の二年。君ら一年……どころか新入生だよな? 先輩の言うことぐらい……聞いといたほうがよくないかい??」
 礼安はいまだに状況をよく理解しておらず、院はそんな礼安をかばいながらじっとりとした嫌な汗をかく。
 男二人は、だいぶ格好も性格も浮ついてはいるものの、確かな危うさを感じさせていた。実際、この二人には何人かの女子生徒が被害に遭っているのだろう。でなければ、ある程度人目がある中でこのように目立つ行動はできないはずである。
 院は男たちに抵抗するため、ズボンのポケットから聖遺物を取り出し、自らの「力」を開示しようとするも、一人の女子の手によって止められた。
 一瞬、院は礼安かと思ったものの、目に痛い蛍光色のネイルをしていたために、間違いなく別人であると確信した。こんな色のネイルはまずさせたことが無い。
 いつの間にか現れた謎の女子は、とても美しかった。
 眩しいほどの長い金髪に、まるで青空のように澄んだ瞳。「日焼け」という概念をどこかに捨て去ったほどの純白の肌に、目が痛くなるほどの蛍光色のつなぎ。総じて、「美人」であった。
 その女子は、いつの間にか礼安たちの側にいた。音もなく、気配もなかった。
「……お前……まさか帰ってきてたのか!?」
「僕が分かるようだねチャラ男諸君。ここは僕の顔を立ててもらおうかな? じゃなかったら、君ら僕が『教育する』、ってことになるけど」
 謎の女子は笑顔で男たち二人に対し、言い放った。刺すような殺意をむき出しにしながら、ではあったが。

 男二人が急いで逃げ出した後、礼安たちは学園都市内のファミリーレストランで、午後のティータイムとしゃれ込んでいた。
 しかし、明らかに先ほどの眉目秀麗な女子、という印象とは打って変わって……
「とっととととととりああえずお二人はどっどどどどうどどどうどどどういうお関係なのでしょうか! ってこんな初対面のどこの馬の骨とも知れない変態には教えられないということなのでしょうかお二人の花園というものがあるのでしょうか!!」
 いうならば、見た目は美人、中身はてんで残念、というのが素朴な印象であった。
「……とりあえず、落ち着いてくださいませんこと? 途中風の又三郎のようなものを感じましたし」
 先ほどのとても頼もしいような印象が吹き飛んで、どこか残念な顔をした院は、先ほど学生ウェイターがおいていったお冷を飲むよう、その女子に促す。
 そのお冷を一気飲みした後、一つ咳払いをすると語り始める。
「いやあ、何か惹かれるものを感じ取って覗きをやめ……ゲフンゲフン、即参上いたしました! エヴァ・クリストフ、十六歳! 『武器』科二年の、武器ちゃんと可愛い女の子が大好きな女です!!」
 いろいろと突っ込みたい院ではあったが、礼安はすぐにエヴァと打ち解けている様子であった。まず「助けてもらった」という大恩があったため、礼安にとってはそれだけで打ち解ける材料足りうるのだった。
「さっきはよくわかんない中でありがとう! 私瀧本礼安! 今年からここに入学するの、よろしくね!」
 両手でしっかりと握手する礼安に対し、鼻血を出しながら興奮している様子であったエヴァ。小声で「ありがとうございます」と何度もつぶやいていたため、院は静かに引きはがした。礼安は頬を膨らませ、多少不満げであった。
「……しかし、貴女がお父様推薦の『武器の匠≪ウエポンズ・マスタリー≫』だとは……意外でしたわ」
 『武器の匠』。それは、あらゆる武器に精通し、使いこなすことだけでなく手入れ、修理など様々なことが高水準で行える、世界でも数人しかいないプロフェッショナルである。
「おや、僕のことをご存じでしたか! ぶっちゃけ趣味が仕事になっちゃったパターンなんですけどね? この世に存在する武器ちゃんをお世話したい、って考えで仕事にしちゃって……世の中の英雄たちの為になりたい、だなんて思いは欠片たりともないわけなんですけども!」
 最早ここまでくると清々しかった。武器のプロフェッショナルであるエヴァは、変態でありオタクであった。先ほどの美人、というファースト・インプレッションを返してほしかった、と院は心の底から考えていた。
 しかし、その時であった。
 平和そのものだった学園都市内が、やけに騒がしい。見学に来ていた候補生、一般市民が一方に逃げ始めたのだ。
 何かあったのか、と礼安たちは外に出ると、学園都市と本州が繋がる橋のほうで黒煙が上がっていたのだ。
 礼安たちは居てもたってもいられず、その騒ぎのほうへと駆けていった。

 学園都市、橋入り口付近にて。
 エヴァが神妙な顔つきで、人が走り去っていく橋の中腹を指さす。
「あれ、なんだろうね」
 そこにいたのは、サソリのような見た目をした、半透明の生物であった。
 人間の体躯のおよそ五倍はあろうかという巨体に、そこから細長い六本程度の脚といえるものが生えている。尾はやたらに刺々しく、その巨体のさらに二倍ほどの長さを兼ね備えている。その尾からは、コンクリートを易々と溶かすほどの毒が滴り落ちており、途中に停められた自家用車のほとんどが、その毒によって見るも無残に溶かされている。
「あ、あんな巨体どこから出てきたのよ……」
「――あ、院ちゃんあれ見て!」
 礼安の指差すほうを見ると、どこかで見たことのある顔が映った。こんな時でもわけのわからない聖書(しかも紙袋に大量)を重たそうに、しかし必死に何とか逃げ惑う、あの宗教勧誘の女性がいたのだ。
「何でここにあの人がいるの!?」
「わかんない、多分見学に来たんじゃないかな!」
 お馬鹿、と軽く礼安の頭を小突く院。院は半ば仕方なくあの女性を保護すべく走ろうとした。しかし。
「院ちゃんは、ここで待ってて! 私、助けに行ってくる!」
 と、院を遥かに超える速さであの女性に向かっていったのだ。
 エヴァは大声で止めようとするも、すぐさま院が静止した。
「なんで? あの子一人だと危険だよ! 僕たちも出ないと……」
 院は静かに首を横に振る。エヴァがさらなる反論をしようとしたが、院はどこか諦めている表情であった。
「あの子は……礼安はいついかなる状況でも、自分以外の関係者が傷つく姿は死んでも見たくないって子ですわ……何より礼安は――私より『強い』子でしてよ」
 エヴァは何か胸騒ぎがして、礼安が向かったほうを見ると、そこにいたのは一人の『英雄』の背中であった。

 礼安が女性のもとにたどり着くと、女性はすぐさま二度見どころか三度見していた。一度目は「助けが来た」という安堵の表情、二三度目は「あの時こっ酷くぼったくろうとしていた少女が何でここに」という驚愕の表情であった。
 しかしそんな女性の心境なんて何のその、礼安は明るい表情で言ってのけたのであった。
「私が来たからにはもう大丈夫、安心していいよ」
 女性は、それまで自分が死んでしまうかもしれないという恐怖と戦っていたのだが、不思議と安心していたのだ。今までの面識なんて、たった一度しかないのにもかかわらず、であった。
 礼安は半透明な化け物と対峙する。
「……今までは、私はちょっと勇気のある一般人。……でも今は……違うの!」
 礼安は自らのポケットに入れていた、古びた剣の一部を加工したネックレスを手にし、額に近づけ念じ始めた。
(お願い、この私の思いに応えて、『アーサー・ペンドラゴン』)
 サソリの化け物は女性をかばう礼安目掛け、猛毒の尾で心臓を串刺しにしようと突き出す。
(私は、ちょっと欲張りだけど……『友達も、他人も、全部ひっくるめて助けたい』んだ)
 そんな礼安の思いに呼応して、古びた剣の一部は煌々と光り始める。
 化け物の狙いはその影響で逸れ、礼安と女性の側にあった高級外車に命中する。
 光が収まるのと同時に、礼安の手に握られていたのは、一枚のカード型のアイテムであった。
 まるでバスや電車の定期パスのように、小さく頼りないが、通常のソレと違うのは、デバイスに呼応し始めたのだ。
 礼安はそのアイテムを手に持った学園支給のデバイスにかざす。すると、
『認証、アーサー王伝説! 多くの騎士を束ねた、円卓の騎士の頂点に上り詰めるまでの、成り上がり物語≪シンデレラ・ストーリー≫!』
 急にゲームの説明のような、野太い男の声がそのデバイスから聞こえてきた。背後にへたり込んでいた女性は、呆気に取られる。
 礼安はそれをデバイスに本体側から挿入し、下腹部あたりにそのデバイスを当てる。すると、デバイスは高速で変形し、さながら変身ベルトのようになったのだ。
 デバイスの画面には、王冠のデザインがあしらわれていた。
『GAME START! Im a SUPER HERO!!』
「変身!!」
 デバイスの右側を押し込むと、割と喧しい音と共に、礼安の体に青を基調とした装甲が展開されていく。
 左肩を覆うような青のマントに、多少ポップにリデザインされた西洋の鎧、頭にはキュートな王冠が飾られている。そして右手には、かの有名なアーサー王の原初の剣である、カリバーンが握られていた。勿論、多少ポップにはなっているのだが。
「嘘、何で一年生にもなってない子が変身できるの!?」
「あの子は、元々英雄の因子持ちだったお父様の影響もあって、ここに来たんですの。昔から変身ベルト……もとい、『デバイスドライバー』はあの子の身近にあった、ってことですの」
 デバイスドライバー、英雄学園生徒に渡される、変身資格を持つものならだれでも変身できる、変身ベルト。
 英雄の聖遺物とその英雄に応じた因子継承者、その心の中にある願いや、先天性か後天性のコンプレックスをもとに生成された、ヒーローライセンスを認証、発現させることによって、英雄の因子を持った人間それぞれ、力の形に添った強化アーマーを具現化、装着することのできる唯一無二の変身ベルトである。
 礼安は、その場で手を握ったり開いたりして、自身のもう一つの姿を確認する。一つ息を吐くと、太陽のように笑って見せたのだ。
「さあ、張り切っていってみようか!」
 力を込めて、その場から跳躍する礼安。頑丈なはずの舗装された道が破片と化す。
 化け物は空中の礼安に目掛けて、尾を伸ばし一撃で仕留めようとする。
 しかし、礼安は尾の一撃を軽く受け止める。まるでその攻撃を予想していたかのように。
 着地し、尾を起点にハンマー投げの要領でぐるぐると振り回し、本州側のほうに思い切り投げ飛ばす。
 化け物は空中で受け身を取ることもできないまま、背のほうからコンクリートにたたきつけられたのだった。
「なかなかの力、まるで私じゃあないみたいだ」
 まるで無邪気な子供のように笑って見せると、疾駆する。
 雷光のごとく、突き抜けるスピード。瞬きする間に百メートルをかける。
 そしてその勢いのまま、電光石火の左ストレートを化け物に放つ。
 化け物はその一撃で爆散する。あとには何も残らず、あるのは今しがた生まれた、新たな英雄の姿のみであった。
「――――ふぅ、これで一応終わり、かな?」
 デバイスの中からカード型のアイテムを取り出す。すると、今まで着用していた装甲は光とともに消えていった。それと同時に表示された画面には「GAME CLEAR!」と書かれていた。

 化け物騒動があったその後。
 橋の修復のために、学園都市内から派遣された武器科の生徒何名かが修復作業を行っていた。
 幸いなことに人的被害はゼロ。変な宗教の勧誘者も無傷で、本州へと逃げ帰っていった。しかし礼儀礼節の心はあったのか、礼安に対してまるで神でも見たかのように、数えきれないほどの礼をして去っていったのだった。
 礼安は一躍時の人になりかけたが、院たちはその場をそそくさと立ち去った。入学前からあまり目立った行動をとりたくはなかった為であった。

「とりあえず、ここが私たちの寮。一応パンフレットにも載っていたけど、寮にしてはシャレにならない大きさだこと」
 一通りの学内での準備を整えた後、礼安たちはエヴァの案内により英雄学園の寮へとたどり着いていた。
 全五千部屋、そのすべてが3LDKはある二人部屋、かつそれぞれ一軒家となっており、卒業生によってはここで一生暮らすこともあるほどの豪華さを備えている。
 電気ガス水道代はもちろん、衣食に関しても無償で最高級のものを扱える。これも人にはよるが、英雄として戦えるまでの勉学を履修したうえで、世界最高峰の料理界やファッション業界で生きていく、なんてこともあるほど。
 衣食住全てにおいて日本の「最高峰」である。
「お、お二人僕の家のお隣さんじゃあないですか! 出会った縁もありますし、あとでバーベキューでもパァッとやりましょうよ!」
「バーベキュー!? 勿論いいよ! お肉たくさん食べよう!」
 子供のようにはしゃぐ礼安。そしてそんな礼安を諫めることを半分放棄し呆れる院。礼安の喜びを共に享受するエヴァ。三者三様の喜びの形がそこにあった。

 一通り自分の荷物を片付け終えた院は、部屋の様相をごみ屋敷にしそうな礼安を手伝いつつ、丸三時間が経過したころ。
 時刻は午後七時、日も落ち、静けさが辺りを包み始める夕食時であった。
 エヴァはバーベキューセットを自身の家から引っ張り出し、早速火の準備をし始めていた。引っ張り出してきた納屋の中は……目も当てられなかった。それは家の中も同様で、仙台の家での惨状を、累乗したようなものであったのだ。
 よくこんなところで生活できるものだ、と院が軽く引いた表情で目を細めていると、エヴァはそんな院の心情などくそくらえ、と言わんばかりに礼安顔負けの太陽のような笑顔で返してきたのだった。
 院は、どこか既視感を覚えた。そう、ペットショップで自身が生涯ついていく、そんな主人を爛々と輝く目で誘惑する子犬のようであったのだ。
「……なんか、負けましたわ」
 院は、犬派である。少々性格に難こそあれど、根が礼安同様良いため、どこかエヴァに子犬のような感覚を覚えてしまった瞬間である。
「え!? なぜでしょうか院さん!? 僕何か変なことでもしましたか!?」
「……気にしないでくださいまし、エヴァ『先輩』」
 そんな面食らったような院ではあったが、学年上敬うことを決めた瞬間であった。
 しかし、そんな礼安などつゆ知らず、バーベキューパーティーがいざ始まると、礼安はエヴァが焼く肉や野菜を口いっぱいに頬張り、これまた満面の笑みで喜ぶのであった。
 形容するなら、数日間の出張から帰ってきた主人を出迎える犬。
「――――礼安の笑顔は私が守りますわ」
 こんなほほえましいタイミングで、院は重大な決心をしたのだった。

 一通りのパーティーが終わった後、院は礼安と一緒に風呂に入るための準備を整えるため、一足先に自分たちの家に帰っていた。
 エヴァの家の屋上。
 ほかの寮……もとい一軒家の屋上はどこも風景はあまり変わりないものの、エヴァたちの家は、学園と本州を繋ぐ橋、観光客や生徒たちなど多くの人で栄える中心街などが何の邪魔もなくクリアに見えるため、多少の特別感がある。
 午後九時に差し掛かろうか、というゴールデンタイム。空には雲一つなく、一つ一つの星々やら月やらが輝き、主張する。
「いやあ、今日は貴女方との運命的な出会いを果たせて、僕感激しました! しかも、中々に明朗かつ可憐で……さながら二輪の白百合のようでした、ハイ!」
 エヴァと礼安は、屋上に備え付けられている椅子に腰かけながら、エヴァ宅の冷蔵庫(という名のいろいろなものがパンパンに詰まった四次元ポケット)の中から発掘された、奇跡的に無事な缶ジュースを飲んでいた。
「今日はありがとう、エヴァちゃん! お肉や野菜もおいしかったし、これで明日も頑張れそうだよ!」
「いえいえ、それはこちらの台詞にございます……最高の供給をありがとうございました」
 何のことだか分からない礼安は、ただただ首をかしげるだけであった。
 ぐい、と一つ伸びをすると、エヴァはにこやかに語り掛ける。
「しかし、あの後院さんにある程度話を聞きはしましたが……事実上英雄に変身するのが初めてで、あれだけ動けるのは大したものですよ、礼安さん!」
「私、元々お父さんとかの影響こそあったけど、プリキュアとか大好きだったんだ! 戦う女の子の……輝きっていうのかな、それに憧れてた部分は、少なからずあったんだ」
 礼安は、柔らかな笑みを絶やすことはしないままに、きらきらと輝く星空を眺めながらエヴァに語った。
「……私ね、自分の中に『英雄』の因子が眠ってるって聞いた時、内心嬉しかったんだ。私の目の前で、傷つく人をようやく本当の意味で助けてあげられる、って」
「礼安さん……」
 礼安は椅子から立ち上がり、楽しそうな学生や見学に来た一般市民を眺めながら、続けて語る。しかし今度は、一人に語り掛けるのではなく、この場にいない第三者に矢印が向かっているようであった。
「今はもう、お空の上にいる私のママも、『人のために、自分のために生きなさい』って小さい頃よく言ってくれてね、人の笑顔を見ることがとにかく大好きだったから、『自分のために、友達も、赤の他人も助ける』。それを何よりに生きてきたんだ!」
 エヴァは缶ジュースを静かに傾け、ふうと一息つく。
「――――礼安さんは、とってもいい人です。親御さんの言いつけをしっかりと、今も守り続ける、しばらくリアルで会ってこなかった『信念』と『覚悟』のある人です」
「……ふふっ、エヴァちゃんそんな言われてもなんも出ないよー!」
 そういって礼安はエヴァの肩口をぽん、と押す。エヴァはふっ、と笑って見せた。
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登場人物紹介

瀧本 礼安≪タキモト ライア≫

「誰かの『助けて』って声が聞こえたなら、そこに現れるのが私! 私たちが来たからにはもう大丈夫、安心していいよ!」

性別……女子

年齢……十五歳

年次……英雄学園入学前→『英雄≪ヒーロー≫』科・一年一組

血液型……AB型

髪型……水色セミロング

因子……『アーサー王伝説』よりアーサー・ペンドラゴン

欲の根源……『赤の他人も友達も、総じて守るため


 自他ともに認める、究極のお人よし。

 過去自分が受けた災難を他人に経験してほしくないために、困っている人に迷わず手を差し伸べることのできる、揺ぎ無い正義感の持ち主。学園から支給されたデバイスドライバーをほぼ初見で扱った、イレギュラー的存在でもある。

 それには多少なり理由があり、現トレジャーハンターでもある父親が元々英雄で、幼いころから触れていた点にある。

 彼女の中にある因子は、『アーサー王』。

 アーサー王自体が持つ高いポテンシャルと、礼安の持つ天性のバトルセンスによって、強さが上位のものとなる。使用武器は様々であり、その場に応じた多種多様な武器を持つ。

 彼女が戦う理由は、『赤の他人も友達も、総じて守るため』。

 お肉とゲームが大好き。それでいて栄養が大体一部に行くのと、動きやすい引き締まった体形をしているため、少なからず疎ましく思う人間はいる。本人曰く、『太らない体質』だそう。


※設定アイコンはイメージです

エヴァ・クリストフ

強い意志がある限り、『武器の匠』として仕事をするだけさ

性別……女子

年齢……十六歳

年次……『武器≪ウエポン≫』科・二年一組

血液型……AB型

髪型……金髪ロング

因子……刀鍛冶師・『村正

欲の根源……『???』


 この世界における、あらゆる武器のメンテナンスや製造が可能な『武器の匠』≪ウエポンズ・マスタリー≫。

 両親から継承し、若くしてプロ英雄たちの武器の面倒を見ている。そのため多くのプロ英雄たちは彼女に頭が上がらない。

 しかし同時にかなりの変態。この世に遍く存在する武器たちや、英雄の中でも女子や女性をこよなく愛しており(無論一般人含む)、所謂レズビアン。

 そのため、男がいるか、あるいは新たな扉を開きたくない女性は、こぞって彼女から距離をとる。本人はそろそろ変態気質を治そうとしているものの、一向に治る気配はない。何なら礼安たちの影響でもっと酷くなった。

 過去のトラウマから、男性と銃が大の苦手。彼女から語ってくれるときは、もう少し先になりそう。

 普段は非戦闘員であるが、親から受け継いだ『鍛冶屋の小槌』を使役し、辺りの無機物や有機物を武器として扱うことが可能。そのため、並の英雄よりも戦える。

 実はかなり頭脳指数が高く、作戦立案もできるほど。眉目秀麗さも合わせ、初見時の印象は普通ならとてもいい。普通なら。作中の女性キャラの中でも、屈指の『ナイスバディ』であり、主要キャラの中で一番『デカい』。僅差で次点は礼安。

 武器科でありながら、自分の開発した『デュアルムラマサ・Mark3』を用いて変身することが可能。厳密には英雄ではないため、変身時の掛け声が唯一異なる。

 アメリカンな大盛り料理、バーベキューが大好き。元々アメリカ出身のため、そういった豪快な食文化に慣れた結果。しかしそれよりも大好きなものは女子、女性を食べること。食人ではない。


※設定アイコンはイメージです

真来 院≪シンラ カコイ≫

「王の御前よ、道を開けなさい!!

性別……女子

年齢……十五歳

年次……英雄学園入学前→『英雄≪ヒーロー≫』科・一年一組

血液型……O型

髪型……クリムゾンレッドのショート

因子……『ギルガメッシュ叙事詩』よりギルガメッシュ王

欲の根源……『己の誇り(礼安や、礼安の好きな場所)を護るため


 礼安とは腐れ縁のようなもの――と言いながら、早十五年。長い間礼安の側に居続ける、礼安にとって大事な存在。

 日本を代表する真来財閥の長女で、次期当主として家を背負う人間でもある。お嬢様言葉が崩れたようなラフな口調をよくしている。まあだいたい礼安のせい。

 礼安をとりわけ大事に思っており、少々過保護な面が垣間見える。しかし律するときはきっちり決めるため、周りからの人望は礼安同様厚い。本人はお人よしではない、と語っているものの、礼安ほどではないにしてもお人よしであり、おせっかい焼きである。見ず知らずの人間に対してもかなりのおせっかい焼きであるが、礼安が関わるとお母さんのようになる。

 彼女の中にある因子は、『ギルガメッシュ』。

 まだ力を制御しきれはしないものの、入学前の生徒としては異例。弓を主に使い、トリッキーな戦いを得意とする。

 彼女が戦う理由は、『己の誇り(礼安や、礼安の好きな場所)を護るため』

 実は、礼安と院は幼馴染ではなく、家族関係にある。礼安と同様、亡くなった母親に対して尊敬の念を抱いている。今は礼安の精神の安寧を保つため、父である信一郎と共に礼安のメンタルケアを行っている。

 大分スレンダー体型であるため、礼安の『一部分』を時たま羨ましく思うときがある。礼安はそんなありのままの院を「可愛い!」と語るが、院はそんな礼安を見て「私の礼安は私なんかよりももっと可愛い!!」と親バカ(?)っぷりをいかんなく発揮する。

 甘いものが好きで、礼安とそこ辺りの好みが合わないことが悲しいらしい。


※設定アイコンはイメージです

天音 透≪アマネ トオル≫

「俺が、最強だ!!

性別……女子

年齢……十五歳

年次……英雄学園入試主席入学→『英雄≪ヒーロー≫』科・一年一組

血液型……AB型

髪型……黒ベースに黄色のメッシュの入ったショート

因子……『西遊記』より孫悟空

欲の根源……『特になし』→『自分で自分を守れない、弱い奴を従えて誰も傷つかない世を創る


 英雄学園の一般入試を勉学方面、実技方面両方でほぼ満点をたたき出し、主席として新入生生徒代表である生徒。入学前時点での強さは、礼安と同格であった。

 しかし、礼安と院両人が神奈川支部との一件を経て、圧倒的な強さを得た上に、学園長の実の娘であることが発覚してから、『恵まれた存在』として両人を敵視していた。

 埼玉県内のスラム街出身であり、自力で生きる術を身に着けているため、家事能力や自分より下の年齢の子供の世話はお手の物。実際、血縁関係こそないものの、『ホロコースト事件』により両親を失った子供たち数名を疑似的な家族として匿って世話していた。

 埼玉支部(特にそこの支部長である、コードネーム・グラトニー)とは並々ならぬ因縁があり、元々はある程度恵まれた家庭であった天音家を、グラトニー自身の逆恨みによって崩壊させられたため、最初は殺意混じりに敵対していた。

 『勝気少女』編で礼安やエヴァから『英雄』としての心構えを説かれ、グラトニーへの復讐をすることは変わらなかったが、生きて罪を償わせる選択を取った。その際、敵対視していた礼安と完全に和解し、協力し合って埼玉の平和を勝ち取った。

 主要キャラ内で最もスレンダーであり、圧倒的モデル体型。貧困生活を送っていたため、贅肉などは無く、一番『小さい』。一人称も『俺』。弟妹達を食って行かせるため、厳しい世を若い中で渡り歩いてきたため、肝はかなり据わっている。

 側近である『剣崎奈央≪ケンザキ ナオ≫』と『橘 立花≪タチバナ リッカ≫』とは、同じスラムで育った幼馴染。二人が武器科に移った後も、弟妹たちと共に食事したり、遊んだりしているらしい。

 埼玉での一件が片付いた後から、礼安に対しては尊敬の念とほんのちょっぴり好意的な目を向けている。

 院と同様甘いものが好き。埼玉支部との一件後、二人でスイーツ巡りをしたり、可愛いものを集めたりしているらしい。


※設定アイコンはイメージです

丙良 慎介≪ヘイラ シンスケ≫

「英雄の時間≪ヒーロータイム≫と、洒落こもうか」

性別……男子

年齢……十六歳

年次……英雄学園入試主席入学→『英雄≪ヒーロー≫』科・二年一組

血液型……AB型

髪型……ダークブラウンのベリーショート

因子……『ギリシャ神話』よりヘラクレス

欲の根源……『???


 英雄学園東京本校にて、座学実技共に好成績を収めた、そんな一握りの存在が持てる『仮免許』を持つ、英雄学園の中でもかなりのエリート。

 一般人からの認知度も、英雄の中での知名度も高く、さらに立ち居振る舞いに嫌な点が見つからない、好青年の極み。そのため、両性から人気がある。決め台詞内の『英雄の時間≪ヒーロータイム≫』は、今は亡き丙良の先輩の決め台詞であった。

 かつての一年生時代に、入学前の生徒が見学していた丙良の先輩との実習授業内において、神奈川支部の襲撃が発生。その時点の未熟な力ではヘリオをはじめとした面々には敵わず、丙良は深い傷を負った。さらに丙良が庇われた結果、丙良の先輩とその入学前の志望生徒二人が目の前で皆死亡。

 首席で入学したから、と言って世の中は甘くない、さらに自分が敵わない存在などごまんといることに辟易した丙良は、ふさぎ込んでしまった。誰かと深く関わることで、その誰かが亡くなった際の精神ダメージを、もろに食らうことを恐れた結果、後輩や先輩、同級生において、深く関わる存在は実に少なくなってしまった。現時点において、彼と同級生で深い関係にあるのは、エヴァと信玄(『大うつけ者』編時点)のみ。

 しかし、神奈川支部との一件の中で、狂気的なほどに勇敢な礼安、そしてその礼安のお目付け役である院との出会いで、保守的な考えが一部改まっていく。『大うつけ者』編時点において、後輩内において深い関係を築き上げたのは礼安、院、透の三人となった。

 彼の中にある因子は、『ヘラクレス』。主要キャラ内で、最も防御力が高いため、より堅実かつトリッキーな戦いを好む。礼安とは能力的に相性が悪いと思われがちだが、『砂鉄』を操る能力を用いれば電気と土は共存できる。

 好物はピザ。特に安定と値段重視のマルゲリータ。

 礼安たちの『微笑ましいやり取り』に、一切介入しないようにしている。


※設定アイコンはイメージです

瀧本 信一郎≪タキモト シンイチロウ≫

「只今より、怪人○○の処刑を執行する」

性別……男子

年齢……五十歳

年次(?)……『原初の英雄』→私財を投じ『英雄学園東京本校』設立、同タイミングで学園長就任

血液型……AB型

髪型……紫色のロングを後ろで雑に束ねた雑ポニーテール

因子……『???

欲の根源……『???


 世に『英雄≪ヒーロー≫』の概念を生みだした張本人であり、世界を股にかけ自分の気に入った変なもの……もとい聖遺物を収集するトレジャーハンターでもあり、英雄学園東京本校学園長をはじめとして、世界中に様々な分校を作り名誉学園長となった、日本を代表する『原初の英雄』。

 現役時代、その圧倒的強さから『処刑人≪スィーパー≫』とまで語られる男である。

 しかし、今はその尖った異名などどこへやら、子煩悩かつ常時柔らかな笑みを絶やさない、柔和な人物に。五十歳とは思えないほどにしわが存在せず、全てを知らない人が彼を見たら二十代と空見してしまうほど。

 学園生徒と分け隔てなく接しているものの、実の娘である礼安と院に関しては目に見えてデレデレ。尋常でないほどの学内通貨をお小遣いとして支給している。週一のペースで。

 今も、来たるべく災厄の可能性を鑑みて、修行は怠らないようにしているものの、現役時代よりは戦力ダウン。本人はそれを酷く恥じている様子である。

 その理由が、何より礼安と院の母であり、信一郎の妻を亡くしたことに起因している。もう大切な存在を亡くしてしまわないように、いざというタイミングで自分も動けるようにしているのだ。

 他の英雄と異なり、デバイスドライバーの祖たる『デバイスドライバー・シン』を用いて変身する。デバイスドライバーと比べるといわゆるプロトタイプに位置するモデルだが、実際の出力量はデバイスドライバーの百倍ほど。力の暴走などのリスクを完全に取り払ったがゆえに、ニュータイプでありながらパワーダウンしている。『シン』は現状、信一郎以外に扱える者は完全に存在しない。

 今まで、数多くの事件を単独で解決してきたのだが、日本中を震撼させた『とある事件』は何者かと共に戦い勝利したらしいが、その人物は不明。

 ちなみに、それほどの功績を残しておきながら、生徒たちにはまあまあなレベルでイジられている。特に、一昔前の学園ドラマの熱血教師を夢見るがゆえに、時代錯誤とも思えるシーンを実現させたいと、本人は試行錯誤している。しかし生徒たちは「そんなの今のご時世ありえねー」と白眼視。透もその一人である。しかしそのイジリを本人も仕方ないと容認しているため、特に問題はない。


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