第三十三話
文字数 8,193文字
無論、幼子にそんなことをさせられないため、礼安はその痛みを請け負った。怪人体となったグラトニーが、一切の情け容赦なく、礼安を蹂躙していたのだ。
顔面に何発も拳を叩きこみ、腹部には臓器はおろか骨も複雑骨折してしまいそうなほどの暴力を振るわれ。
しかしそれでも、「痛い」の一言も漏らすことなく、執念で立ち上がり続ける礼安に苛立ち、殺すつもりで拳を振るおうとしていたのだ。
しかし、それを透が即座に変身し、その拳を何とか受け止め、礼安を下がらせる。
「馬鹿野郎、何でこうなるまで黙って殴られ続けてんだよ!! 死んでもいいのかよ!!」
透が礼安に対し怒りを露わにすると、彼女は血だらけの状態であっても苦しい表情を見せることなく、ただ笑って見せたのだ。
「だって……あの子たちは天音ちゃんの大切な『家族』だから。それなら……私が傷つくことで万事解決するなら。私は喜んで……天音ちゃんの家族の代わりに傷つけられるよ。私の痛みなんて、大したことじゃあないしさ」
そのイカれた礼安の思考に、何も言い返すことが出来ずにいた。同じようにして、家族の皆を、身を挺して守り抜いた長男を目の当たりにしていたからだ。
そんな透を目の当たりにして。グラトニーは嘲笑っていた。先ほどまで自分の暴力への欲を満たしていたばかりに、実に気分良い様子であった。
「いやはや、エントランスでは楽しんでいただけたようでなにより。そこな滝本家のご令嬢が宣ったようなことをあの子供は言い放ちましてねえ。もとは貴女が月に返すはずの借金を返せなかったことが全てですが……そんな目も当てられない醜態をお教えするわけにはいかず。いやはや、実に悲しき物語ですねえ」
「お前が……お前みたいなド畜生が全てやったことだろうが!! 金にしか目のない、意地汚い下種野郎が!!!!」
そんな透の反抗的な態度に苛立ったグラトニーは、その場で捕らえられていた兄弟たちを殴りぬいたのだ。子供たちは頬に走る激痛に悶えながらも、力強く自分たちを守り続けてくれた姉を見習った影響か、一切泣かなかったのだ。
「実に不愉快です。債務者が債権者に逆らうのですか?」
「もとはお前が理不尽に水増ししていったことだろうが、このクソ野郎!!」
透が立ち上がろうとしたものの、グラトニーは弟と妹たちを守るべくかばっていた赤の首を乱暴に持ち、透にわざと見せるようにして仁王立ち。
「あーあ、貴女が反抗的な態度をとったことで……再び『あの時』のようになってしまう『妹』が増えてしまう」
その言葉を聞いてしまった瞬間、透は怒りを忘れ、青ざめ、へたり込んでしまう。
「や、止めてくれ……あ、ああああっ止めて下さい!! どうか、俺が悪かったからああぁぁァァッ!!」
その豹変した態度に疑問を抱いた礼安は、何とか体を起こしながら問い掛ける。
「い、一体どういうこと……? 天音ちゃんの家族は天音ちゃん含めの八人なんだよね?」
その礼安の言葉に、グラトニーは笑いをこらえることが出来ずに、紳士然とした態度はいずこへ、大きく下品に笑ったのだった。
「おやおや、この様子だとお仲間にも打ち明けていない様子! よろしい、では天音透がひた隠しにしていた、最悪の真実を打ち明けましょうねェ?? それが、彼女の知的欲求を満たすには十分な題材ですからァ!!」
「や、止めてくれええェェェェェッ!!」
透の慟哭もむなしく、グラトニーは薄笑いの状態で、高らかに宣言した。
「天音透にはァ!! 見殺し同然に目の前で死んでいった両親のほかに、『天音 明≪アマネ アキラ≫』という本当の妹が存在したのです!!」
『ホロコースト事件』が起こる、かなり前のこと。幼少期の透は、自身に出来た可愛らしい妹である明を、目に入れても痛くないといわんばかりにいたく可愛がっていた。その頃はまだスラム落ちしていなかったために、実に幸せそのもの、家庭は順風満帆。両親も、透も明も、その幸せがいつまでも続くものだと考えていた。
しかしある時、父親が何者かによって嵌められた結果、家を失い、多額の貯金も失い。結果としてスラム落ちした。その犯人こそ、グラトニーそのもの。
その嵌められた経緯は、実に自分勝手なものであった。
グラトニーがまだ『教会』を信仰する以前のこと、新規ビジネスを立ち上げようと天音家の父に融資の相談を持ち掛けたのだ。その頃のグラトニーは成金、というには素寒貧で、おまけに他人を欠片も信用していない。自分が上に立ち、誰かを見下すことしか考えない三下であった。
天音家の父は銀行マンであり、業界内でも敏腕の持ち主であった。互いに政党の利益の生まれる融資を何より望んでおり、次期支店長ともいわれた逸材であった。
しかし、その融資を願う内容が、あまりにもひどかった。新規ビジネスの内容としては、今存在するスラムの人々を馬車馬の如く働かせ、社会貢献させるとのこと。しかも、その結果生まれるのはただのやりがいのみ。明確な賃金すら払う気のない守銭奴そのものであった。
さらに人を人と考えていない異常思考の持ち主であり、それが人を奴隷化し自分の思うままの傀儡を作り上げる、そんな新たなビジネス……という名の新興宗教顔負けの洗脳行為を行おうとしていたのだ。
対等な人間など存在しない、全て自分よりも下の人間しかいない。それほどの思考を持っていたのにも拘らず、自分では何のアクションも行わない、真性の屑であったのだ。
(今存在する社会のゴミ。それらに経験を積ませ、箔を付けさせる。その後成長していく彼らから『お礼』としてまた多額の金を貰う。そしてこのビジネスが成し遂げられた際には……貴方にも相応の謝礼を渡しましょう。そして私の力であなたをさらに有名にすることも……やぶさかではありませんよ)
しかし、そのグラトニーの提案を、天音家の父は断ったのだ。
(人のことを皆、貴方の思い通りとなる傀儡と思わないでいただきたい。確かに利益の生まれる環境は望ましく、我が銀行としても誇りです。しかし、人のことをなんとも思っていないような外道に、貸す金などありません。お引き取り願います)
その天音父の正論に、理不尽にも腹を立てたグラトニーは、捨て台詞としてありとあらゆる罵倒をぶつけた上に、呪詛のようなものをぶつけたのだ。
(いつか見ていろ、お前のような下種には、しかるべき報いを食らわせてやる!!)
その時は聞く耳を持たなかった父であったが、数日後驚きのニュースが飛び込んできた。
それは、天音家の父が異なる銀行から多額の金を着服した、との情報。
どこに垂れ込んだのか、ただのガセネタを出版社にタレこみ、強制的にその座から引きずり落としにかかったのだ。その時からAIを用い、写真や情報を捏造したグラトニー。
天音父を、秘かながら疎ましく思っていた存在の多くを巻き込んだ、虚偽に塗れた一大旋風であった。
いくら虚偽の情報であったとしても、銀行としては金にまつわる疑惑の渦中にある人物を匿い続ける、リスクというものがあったのだ。結果、天音父は銀行から見捨てられ、これを勝機だと考えたグラトニーは、天音家の何から何まで、全てを奪ったのだ。
そこから年月が経ち、スラム街で細々と暮らしていた天音家はおろか、そこに住む多くの人を巻き込んだ、歴史上最悪の虐殺事件の再来といわれるほどの事件、『ホロコースト事件』が起きた。
それを起こした理由は、自身に恥をかかせた天音家を徹底的に潰すため。他は正直死のうともどうでもよかったのだ。だから体のいい理由として、最近噂として耳にしていた『レジスタンス』首謀の容疑をかけたのだ。物的証拠など一切なし、ただ復讐のために罪をでっち上げたのだ。
父と母は、透と明を絶対に生かすためにも、逃がす選択肢を取った。いわれのない罪を被せられようとも、それでも子供を守り抜く、親としての使命を取ったのだ。
透にとって、急な命のやり取りなど理解しがたかった。というよりは、分かるはずもないだろう。いきなり何者かによって不幸のどん底に叩き落され、さらにそのどん底の地盤すら砕け散りさらに落ちていく。その絶望は誰にでも理解できるものではないために、透の心は理解を拒んでいたのだ。
しかし、そんなものは「甘え」だ、とも言わんばかりに、目の前で嬲り殺されていく両親。その時の叫びたるや、未だに透の脳裏に焼き付いている。痛覚が全力で使命を果たしているのと同時に、自分の娘たちを絶対に守り通す、そんな親としての使命を果たすべく目の前の現実を、身をもって教えている瞬間であった。
肉が裂ける様子、鮮血が辺りに飛び散り、血だまり以外の場所の方が珍しく感じられる地獄そのもの。何としてでもこの絶望から遠ざかりたい、その考えは容易に打ち砕かれる。透と明はその教会関係者に捕らわれそうになったのだ。
しかし。明は透を守ろうと大人たちの前に立ちはだかったのだ。まだ年端もいかない子供だっただろうに、胸には恐怖や絶望しか無かっただろうに。
(お姉ちゃんは……私が守るよ!!)
自らを鼓舞するように、今なお増長していく恐怖心を抑え込むように。
それは『原初の英雄』、つまるところ最強の存在である彼の虜であった明は、勇敢にも、そして無謀にも、姉を守り抜く選択肢を取ったのだ。
結果、ほんの一瞬で明は殺害されてしまった。透の目の前で、マシンガンを無数に食らってしまい、文字通りの蜂の巣状態に。それ以来、トラウマが過ぎるようになってしまったのだ。
自分が弱かったから、自分の両親は目の前で拷問、惨殺されてしまった。
自分が弱かったから、何の罪も犯していないはずなのに平穏な暮らしを壊された。
自分が弱かったから、あのグラトニーに歯向かえなかった。
自分が弱かったから、自分が守るはずの妹が、目の前であっけなく殺された。
グラトニーは、逃げる透をわざと逃がしていた。それはトラウマを呼び起こし、相手が死にゆくまで、徹底的に全てを奪ってやろうと考えたためである。
逃げ果せた、あるいは逃がされた透は、家族への贖罪のため『最強』を志した。自分が弱かったのなら、自分が『最強』になればどんな奴にも負けない。絶望に塗れた幼い透が行き着いた、究極の結論であった。
透と剣崎と橘、そして東仙と七人の子供たち。それが『ホロコースト事件』の生存者たち。スラム街に住まう人は数百はいたはずなのに、たった十数分の『粛正』によってそこまで減ってしまった。自分の復讐のことしか考えなかった外道により、凄惨な事件が起きてしまったのだ。しかし、事実は捻じ曲げられ、美談として埼玉全土に広がってしまったのだ。
「――――それが、全ての顛末。そこにいる存在を徹底的に搾り取る。なんせ私をコケにした存在の子供ですから。それくらいは当然でしょうに。理解が遅い、変に自我を持ったガキはこれだから躾なければなりませんね」
未だ、グラトニーの腐った性根は健在であった。
心の古傷をこじ開けられ、さらにその傷に塩をこれでもかと塗り込まれた、下手したらそんな状況などまだましだ、生ぬるいと思えるほどに、透は壊れていた。
虚空に「ごめんなさい」とつぶやき続ける透。それはスラム街の同志に対してのものか、両親に対してのものか、それとも妹に対してのものか。瞳に光など宿っておらず、ただぼろぼろと涙を流し続けるのみ。
先ほど、仮とはいえ家族を一人殺した事実が、より傷をえぐる。自分には何も守れない、『最強』なんて夢のまた夢、身の丈を知り搾取され続けている状況が何より平穏であったことが、最悪の状況を作り上げている理由そのものであった。
少しでも歯向かう意思を持った瞬間に、大切なものが次々に消えていく。その絶望が、皆に分かるだろうか。それが今、たった十五歳の少女の身に降りかかっている、絶望のかたちであるのだ。
「私の当然なる『復讐』は、これからも無論ずっと続く。貴女が私に少しでも歯向かう意思を見せた瞬間に、そのレベルはどんどん上昇していく。死のうとするのは……お優しい貴女だからできませんよね? ここに存在する年端もいかない子供たちを自分が辛いから、たったそれだけの理由で投げ出しませんよねえ??」
グラトニーが、もう一人の子供の頬を乱暴に掴み、宙へ持ち上げる。実に苦しそうな表情をしていたものの、絶望の底に辿り着いていた透に、助けを求めることはしなかった。同じ痛みを知っているからこそ、精一杯の気遣いであった。
「だけどそれが甘ちゃんな部分なんですよ!! 結局は私のような絶対的強者に搾取され続ける!! それが一番平和な選択肢になりうるのですから!! 自分たちの身銭を切って、崇高な存在たる私に金銭の徹底的な奉仕を行っていれば、死ぬことは無いのですから!!」
高嗤うグラトニーに、何も言い返せず自分の行いを悔いるばかりの透。
歯向かうことは悪。そう考えていた透が目の当たりにしたのは。
「――――あああァァッぁぁああああああああッ!!」
繰り出される右拳。無論変身などしていないため、生身の肉体そのまま。対して相手はチーティングドライバーで変身している怪人体。普通なら、怪人体を生身の状態で傷つけることなど不可能。鋼鉄に拳を叩きこむような無謀。
しかし。そんなことは知らないといわんばかりに。
礼安が、グラトニーを全身全霊の限りを以って、殴り飛ばす光景であった。
頬を捉える、全力の拳。雷の魔力を纏った拳が、人間の反応速度を優に超えるスピードで、一発でありながら叩き込まれたのだ。その瞬間、グラトニーの手から子供たちは離れた。
誰もかれも、理解が出来なかった。グラトニーも、透も、子供達も。礼安ですら、意図してやったものではない。
ただ、眼前の畜生が、とにかく許せなかったのだ。礼安の無垢な正義感が、心からのお人よしさが、ただただ許せなかったのだ。
殴られた瞬間、ふいに子供から手を放し、雷の速度のまま鋼鉄の壁に叩きつけられたグラトニー。通常あり得ない現象が起こったために、そしてあり得ないほどのダメージに、慌てていたのだ。
そんなグラトニーを殴り飛ばした礼安の拳は、三か所ほどの解放骨折により多量の出血。しかしそんなことなどつゆ知らず。右腕がぐしゃぐしゃになりながらも、グラトニーに対しての怒りが膨れ上がっていた。
「――――何が『復讐』だよ。身勝手な自分が招いた結論に、勝手に怒っているだけなのに。自分の思い通りにならないからって、他人を殺害なんて……絶対に許せない!!」
エヴァから学んだ、『復讐』の理由。誰かの上に立ちたい、優越感のための『復讐』。きっと、グラトニーの根底にあるどす黒く淀んだ負の感情。
人間の感情たる『復讐心』をあの電車内で学んだ礼安であったが、いざ最悪かつ外道じみた人間の身勝手な心を見てしまうと、怒りが収まらなかったのだ。
自分が全ての理由であるはずなのに、自分を理由だと認めようとしない、駄々をこねる子供じみた言い訳。さらにその言い訳だけならまだしも、そこに大量の殺人教唆の罪。さらに大量殺人の後もその被害者に対しての、卑劣なほどの借金の水増し、そして要求。
自分が肥えることか多量の金に塗れることしか考えない、たちの悪い金目当ての政治家も、一瞬にして顔色を悪くするほどの、吐き気を催す『邪悪』そのものであった。
「天音ちゃんが……スラムに住んでいる人が、貴方に何をした!? ただ懸命に生きていただけなのに、そしてまっとうな仕事をしたはずなのに!! それを自分が少しでも否定された瞬間に、当人のいたって普通な日常を汚していい訳ないだろ!!」
その礼安の激昂は、自分の境遇にもあてはまるだろう。礼安は、それは「別にいい」と言ってしまうだろうが、彼女もまた自分以外の誰かが傷つく姿を見たくないために、排他的行為を受けた人物である。ただ、相手が自分を気に食わないために、多くの被害を被った。
透は、そんな礼安の怒りに、救われていた。それぞれのやったことに間違いはない、スラム街の人々も、両親も、明も。そう言われているようであったのだ。
間違っているのは、グラトニー自身。それはうっすら理解していたが、結局は自分の罪悪感に帰結してしまう。目の前で全てを奪われた、弱い自分が悪い、と。
だからこそ、目の前で自分の代わりに激怒する存在が、たまらなく輝いて見えたのだ。
「貴女みたいな……そんな甘っちょろいガキに何が理解できる!? 大人の世界というものはお前らが思うより何倍も複雑怪奇!! 私の『ビジネス』を邪魔する道理はないはずだ!!」
「――――何が……何が『ビジネス』だ!!」
透はそんなグラトニーの苦し紛れともいえる言い訳に、待ったをかけた。絶望のどん底にいた彼女が、限界ともいえる精神状態で少しでも異を唱えられるようになったのは、他でもない礼安の影響。弱弱しく立ち上がりながら、多くのことが脳裏に過りながら、透は礼安のもとへ歩き出したのだ。
「――――俺たちは、多くの被害を被ってきた。それはあくまでも家族を守るため。家族の安寧を保つため、今よりも酷くならないためだ。あの時、お前に両親を、明を目の前で見るも無残に殺されて。のうのうと生きているお前がとにかく許せなかったが……全ては残された子供たちや剣崎と橘のためだった」
しかし、結果は違う。己の私腹を肥やすためだけに借金は水増し、払えなくなったら暴力で従わせる。昨今のヤクザですら、そこまでのあくどい行為はやらないだろう。どこまでも外道な行いを甘んじて受け入れたのは、ひとえに子供たちのため。自分よりもいい人生を歩んでいってほしい、そんな親心からである。
「……結論は、実にシンプルだった。お前みたいなクソ野郎に、どれほど酷い行いをされようと、行き着く先はこうでしかなかった。自分の行いがゆえに、そうなったってことをお前みたいな自己中心的な奴は理解できないまま……俺らに打倒されるんだ」
礼安の隣に並び立つ、透。その手には、デバイスドライバー。
礼安は目線で気を配る様子を見せたものの、透は何も心配はいらない、と、黙ったまま頷いた。そのサインを静かに受け取った礼安は、使ったはずの『黄金の果実』ライセンスを右手に持ち、右手の解放骨折状態を一瞬で直した。臨戦態勢はバッチリである。
「――債務者が……我々債権者相手に歯向かってんじゃあねえぞこのドブカス野郎がァァァァァァッ!!」
ようやく露わになった、グラトニーの本当の顔。実に傲慢で、グラトニー≪強欲≫の名をそのまま体現したかのように歪む。もととなった『弁慶』の力を飲み込んでいくように、さらに変貌していく。
薙刀『岩融』状の武器や体の大まかな特徴はそのままに、背中には無数の武具が追加。鎧は邪魔だと言わんばかりに、上半身のもの全てを崩壊させている。顔と腹部に主な歪みが集中しており、全てを飲み込もうとするその異形はまさにブラックホールかのよう。歪な風の魔力を纏いながら、涎を垂らして礼安たちを食い物にしようとしていた。
『女なら身ぐるみ剥いで臓器売買≪モツサバキ≫か奴隷化≪ウリ≫よなあ!? 俺のために金をじゃんじゃん生み出せ!! それか子供≪ガキ≫孕むくらいしか能の無ェ劣等性別なんだからよお!!』
「――呆れたぜ。手前の私腹を肥やしていただけじゃあなく、徹底的な男尊女卑たぁな。堂々たる性差別なんざ、今の時代流行んねぇぞ」
「――透ちゃん、行ける?」
その礼安の問いに、黙って頷く透。それ以外に、何もいらなかったのだ。
お互いドライバーを下腹部に装着、数多の思いを背負った二人は、即座に起動させる。
『認証、アーサー王伝説!!』『認証、サイユウ珍道中、猿の巻!!』
「「変身!!」」
『『GAME START! Im a SUPER HERO!!』』
攻撃迫る中、二人同時に変身。装甲展開によって全ての攻撃を弾き去りながら、土煙の中から出でるは、装甲を纏った二人であった。