第三十三話

文字数 8,193文字

 グラトニーは、礼安に対しある提案をしていた。それは、『この天音家が負うはずだった責任を、痛みを以って思い知る』こと。そして既定の『責任』を背負いきれば、子供たちを解放するという。
 無論、幼子にそんなことをさせられないため、礼安はその痛みを請け負った。怪人体となったグラトニーが、一切の情け容赦なく、礼安を蹂躙していたのだ。
 顔面に何発も拳を叩きこみ、腹部には臓器はおろか骨も複雑骨折してしまいそうなほどの暴力を振るわれ。
 しかしそれでも、「痛い」の一言も漏らすことなく、執念で立ち上がり続ける礼安に苛立ち、殺すつもりで拳を振るおうとしていたのだ。
 しかし、それを透が即座に変身し、その拳を何とか受け止め、礼安を下がらせる。
「馬鹿野郎、何でこうなるまで黙って殴られ続けてんだよ!! 死んでもいいのかよ!!」
 透が礼安に対し怒りを露わにすると、彼女は血だらけの状態であっても苦しい表情を見せることなく、ただ笑って見せたのだ。
「だって……あの子たちは天音ちゃんの大切な『家族』だから。それなら……私が傷つくことで万事解決するなら。私は喜んで……天音ちゃんの家族の代わりに傷つけられるよ。私の痛みなんて、大したことじゃあないしさ」
 そのイカれた礼安の思考に、何も言い返すことが出来ずにいた。同じようにして、家族の皆を、身を挺して守り抜いた長男を目の当たりにしていたからだ。
 そんな透を目の当たりにして。グラトニーは嘲笑っていた。先ほどまで自分の暴力への欲を満たしていたばかりに、実に気分良い様子であった。
「いやはや、エントランスでは楽しんでいただけたようでなにより。そこな滝本家のご令嬢が宣ったようなことをあの子供は言い放ちましてねえ。もとは貴女が月に返すはずの借金を返せなかったことが全てですが……そんな目も当てられない醜態をお教えするわけにはいかず。いやはや、実に悲しき物語ですねえ」
「お前が……お前みたいなド畜生が全てやったことだろうが!! 金にしか目のない、意地汚い下種野郎が!!!!」
 そんな透の反抗的な態度に苛立ったグラトニーは、その場で捕らえられていた兄弟たちを殴りぬいたのだ。子供たちは頬に走る激痛に悶えながらも、力強く自分たちを守り続けてくれた姉を見習った影響か、一切泣かなかったのだ。
「実に不愉快です。債務者が債権者に逆らうのですか?」
「もとはお前が理不尽に水増ししていったことだろうが、このクソ野郎!!」
 透が立ち上がろうとしたものの、グラトニーは弟と妹たちを守るべくかばっていた赤の首を乱暴に持ち、透にわざと見せるようにして仁王立ち。
「あーあ、貴女が反抗的な態度をとったことで……再び『あの時』のようになってしまう『妹』が増えてしまう」
 その言葉を聞いてしまった瞬間、透は怒りを忘れ、青ざめ、へたり込んでしまう。
「や、止めてくれ……あ、ああああっ止めて下さい!! どうか、俺が悪かったからああぁぁァァッ!!」
 その豹変した態度に疑問を抱いた礼安は、何とか体を起こしながら問い掛ける。
「い、一体どういうこと……? 天音ちゃんの家族は天音ちゃん含めの八人なんだよね?」
 その礼安の言葉に、グラトニーは笑いをこらえることが出来ずに、紳士然とした態度はいずこへ、大きく下品に笑ったのだった。
「おやおや、この様子だとお仲間にも打ち明けていない様子! よろしい、では天音透がひた隠しにしていた、最悪の真実を打ち明けましょうねェ?? それが、彼女の知的欲求を満たすには十分な題材ですからァ!!」
「や、止めてくれええェェェェェッ!!」
 透の慟哭もむなしく、グラトニーは薄笑いの状態で、高らかに宣言した。
「天音透にはァ!! 見殺し同然に目の前で死んでいった両親のほかに、『天音 明≪アマネ アキラ≫』という本当の妹が存在したのです!!」

 『ホロコースト事件』が起こる、かなり前のこと。幼少期の透は、自身に出来た可愛らしい妹である明を、目に入れても痛くないといわんばかりにいたく可愛がっていた。その頃はまだスラム落ちしていなかったために、実に幸せそのもの、家庭は順風満帆。両親も、透も明も、その幸せがいつまでも続くものだと考えていた。
 しかしある時、父親が何者かによって嵌められた結果、家を失い、多額の貯金も失い。結果としてスラム落ちした。その犯人こそ、グラトニーそのもの。
 その嵌められた経緯は、実に自分勝手なものであった。
 グラトニーがまだ『教会』を信仰する以前のこと、新規ビジネスを立ち上げようと天音家の父に融資の相談を持ち掛けたのだ。その頃のグラトニーは成金、というには素寒貧で、おまけに他人を欠片も信用していない。自分が上に立ち、誰かを見下すことしか考えない三下であった。
 天音家の父は銀行マンであり、業界内でも敏腕の持ち主であった。互いに政党の利益の生まれる融資を何より望んでおり、次期支店長ともいわれた逸材であった。
 しかし、その融資を願う内容が、あまりにもひどかった。新規ビジネスの内容としては、今存在するスラムの人々を馬車馬の如く働かせ、社会貢献させるとのこと。しかも、その結果生まれるのはただのやりがいのみ。明確な賃金すら払う気のない守銭奴そのものであった。
 さらに人を人と考えていない異常思考の持ち主であり、それが人を奴隷化し自分の思うままの傀儡を作り上げる、そんな新たなビジネス……という名の新興宗教顔負けの洗脳行為を行おうとしていたのだ。
 対等な人間など存在しない、全て自分よりも下の人間しかいない。それほどの思考を持っていたのにも拘らず、自分では何のアクションも行わない、真性の屑であったのだ。
(今存在する社会のゴミ。それらに経験を積ませ、箔を付けさせる。その後成長していく彼らから『お礼』としてまた多額の金を貰う。そしてこのビジネスが成し遂げられた際には……貴方にも相応の謝礼を渡しましょう。そして私の力であなたをさらに有名にすることも……やぶさかではありませんよ)
 しかし、そのグラトニーの提案を、天音家の父は断ったのだ。
(人のことを皆、貴方の思い通りとなる傀儡と思わないでいただきたい。確かに利益の生まれる環境は望ましく、我が銀行としても誇りです。しかし、人のことをなんとも思っていないような外道に、貸す金などありません。お引き取り願います)
 その天音父の正論に、理不尽にも腹を立てたグラトニーは、捨て台詞としてありとあらゆる罵倒をぶつけた上に、呪詛のようなものをぶつけたのだ。
(いつか見ていろ、お前のような下種には、しかるべき報いを食らわせてやる!!)
 その時は聞く耳を持たなかった父であったが、数日後驚きのニュースが飛び込んできた。
 それは、天音家の父が異なる銀行から多額の金を着服した、との情報。
 どこに垂れ込んだのか、ただのガセネタを出版社にタレこみ、強制的にその座から引きずり落としにかかったのだ。その時からAIを用い、写真や情報を捏造したグラトニー。
 天音父を、秘かながら疎ましく思っていた存在の多くを巻き込んだ、虚偽に塗れた一大旋風であった。
 いくら虚偽の情報であったとしても、銀行としては金にまつわる疑惑の渦中にある人物を匿い続ける、リスクというものがあったのだ。結果、天音父は銀行から見捨てられ、これを勝機だと考えたグラトニーは、天音家の何から何まで、全てを奪ったのだ。

 そこから年月が経ち、スラム街で細々と暮らしていた天音家はおろか、そこに住む多くの人を巻き込んだ、歴史上最悪の虐殺事件の再来といわれるほどの事件、『ホロコースト事件』が起きた。
 それを起こした理由は、自身に恥をかかせた天音家を徹底的に潰すため。他は正直死のうともどうでもよかったのだ。だから体のいい理由として、最近噂として耳にしていた『レジスタンス』首謀の容疑をかけたのだ。物的証拠など一切なし、ただ復讐のために罪をでっち上げたのだ。
 父と母は、透と明を絶対に生かすためにも、逃がす選択肢を取った。いわれのない罪を被せられようとも、それでも子供を守り抜く、親としての使命を取ったのだ。
 透にとって、急な命のやり取りなど理解しがたかった。というよりは、分かるはずもないだろう。いきなり何者かによって不幸のどん底に叩き落され、さらにそのどん底の地盤すら砕け散りさらに落ちていく。その絶望は誰にでも理解できるものではないために、透の心は理解を拒んでいたのだ。
 しかし、そんなものは「甘え」だ、とも言わんばかりに、目の前で嬲り殺されていく両親。その時の叫びたるや、未だに透の脳裏に焼き付いている。痛覚が全力で使命を果たしているのと同時に、自分の娘たちを絶対に守り通す、そんな親としての使命を果たすべく目の前の現実を、身をもって教えている瞬間であった。
 肉が裂ける様子、鮮血が辺りに飛び散り、血だまり以外の場所の方が珍しく感じられる地獄そのもの。何としてでもこの絶望から遠ざかりたい、その考えは容易に打ち砕かれる。透と明はその教会関係者に捕らわれそうになったのだ。
 しかし。明は透を守ろうと大人たちの前に立ちはだかったのだ。まだ年端もいかない子供だっただろうに、胸には恐怖や絶望しか無かっただろうに。
(お姉ちゃんは……私が守るよ!!)
 自らを鼓舞するように、今なお増長していく恐怖心を抑え込むように。
 それは『原初の英雄』、つまるところ最強の存在である彼の虜であった明は、勇敢にも、そして無謀にも、姉を守り抜く選択肢を取ったのだ。
 結果、ほんの一瞬で明は殺害されてしまった。透の目の前で、マシンガンを無数に食らってしまい、文字通りの蜂の巣状態に。それ以来、トラウマが過ぎるようになってしまったのだ。
 自分が弱かったから、自分の両親は目の前で拷問、惨殺されてしまった。
 自分が弱かったから、何の罪も犯していないはずなのに平穏な暮らしを壊された。
 自分が弱かったから、あのグラトニーに歯向かえなかった。

 自分が弱かったから、自分が守るはずの妹が、目の前であっけなく殺された。

 グラトニーは、逃げる透をわざと逃がしていた。それはトラウマを呼び起こし、相手が死にゆくまで、徹底的に全てを奪ってやろうと考えたためである。
 逃げ果せた、あるいは逃がされた透は、家族への贖罪のため『最強』を志した。自分が弱かったのなら、自分が『最強』になればどんな奴にも負けない。絶望に塗れた幼い透が行き着いた、究極の結論であった。
 透と剣崎と橘、そして東仙と七人の子供たち。それが『ホロコースト事件』の生存者たち。スラム街に住まう人は数百はいたはずなのに、たった十数分の『粛正』によってそこまで減ってしまった。自分の復讐のことしか考えなかった外道により、凄惨な事件が起きてしまったのだ。しかし、事実は捻じ曲げられ、美談として埼玉全土に広がってしまったのだ。

「――――それが、全ての顛末。そこにいる存在を徹底的に搾り取る。なんせ私をコケにした存在の子供ですから。それくらいは当然でしょうに。理解が遅い、変に自我を持ったガキはこれだから躾なければなりませんね」
 未だ、グラトニーの腐った性根は健在であった。
 心の古傷をこじ開けられ、さらにその傷に塩をこれでもかと塗り込まれた、下手したらそんな状況などまだましだ、生ぬるいと思えるほどに、透は壊れていた。
 虚空に「ごめんなさい」とつぶやき続ける透。それはスラム街の同志に対してのものか、両親に対してのものか、それとも妹に対してのものか。瞳に光など宿っておらず、ただぼろぼろと涙を流し続けるのみ。
 先ほど、仮とはいえ家族を一人殺した事実が、より傷をえぐる。自分には何も守れない、『最強』なんて夢のまた夢、身の丈を知り搾取され続けている状況が何より平穏であったことが、最悪の状況を作り上げている理由そのものであった。
 少しでも歯向かう意思を持った瞬間に、大切なものが次々に消えていく。その絶望が、皆に分かるだろうか。それが今、たった十五歳の少女の身に降りかかっている、絶望のかたちであるのだ。
「私の当然なる『復讐』は、これからも無論ずっと続く。貴女が私に少しでも歯向かう意思を見せた瞬間に、そのレベルはどんどん上昇していく。死のうとするのは……お優しい貴女だからできませんよね? ここに存在する年端もいかない子供たちを自分が辛いから、たったそれだけの理由で投げ出しませんよねえ??」
 グラトニーが、もう一人の子供の頬を乱暴に掴み、宙へ持ち上げる。実に苦しそうな表情をしていたものの、絶望の底に辿り着いていた透に、助けを求めることはしなかった。同じ痛みを知っているからこそ、精一杯の気遣いであった。
「だけどそれが甘ちゃんな部分なんですよ!! 結局は私のような絶対的強者に搾取され続ける!! それが一番平和な選択肢になりうるのですから!! 自分たちの身銭を切って、崇高な存在たる私に金銭の徹底的な奉仕を行っていれば、死ぬことは無いのですから!!」
 高嗤うグラトニーに、何も言い返せず自分の行いを悔いるばかりの透。
 歯向かうことは悪。そう考えていた透が目の当たりにしたのは。
「――――あああァァッぁぁああああああああッ!!」
 繰り出される右拳。無論変身などしていないため、生身の肉体そのまま。対して相手はチーティングドライバーで変身している怪人体。普通なら、怪人体を生身の状態で傷つけることなど不可能。鋼鉄に拳を叩きこむような無謀。
 しかし。そんなことは知らないといわんばかりに。
礼安が、グラトニーを全身全霊の限りを以って、殴り飛ばす光景であった。

 頬を捉える、全力の拳。雷の魔力を纏った拳が、人間の反応速度を優に超えるスピードで、一発でありながら叩き込まれたのだ。その瞬間、グラトニーの手から子供たちは離れた。
 誰もかれも、理解が出来なかった。グラトニーも、透も、子供達も。礼安ですら、意図してやったものではない。
 ただ、眼前の畜生が、とにかく許せなかったのだ。礼安の無垢な正義感が、心からのお人よしさが、ただただ許せなかったのだ。
 殴られた瞬間、ふいに子供から手を放し、雷の速度のまま鋼鉄の壁に叩きつけられたグラトニー。通常あり得ない現象が起こったために、そしてあり得ないほどのダメージに、慌てていたのだ。
 そんなグラトニーを殴り飛ばした礼安の拳は、三か所ほどの解放骨折により多量の出血。しかしそんなことなどつゆ知らず。右腕がぐしゃぐしゃになりながらも、グラトニーに対しての怒りが膨れ上がっていた。
「――――何が『復讐』だよ。身勝手な自分が招いた結論に、勝手に怒っているだけなのに。自分の思い通りにならないからって、他人を殺害なんて……絶対に許せない!!」
 エヴァから学んだ、『復讐』の理由。誰かの上に立ちたい、優越感のための『復讐』。きっと、グラトニーの根底にあるどす黒く淀んだ負の感情。
 人間の感情たる『復讐心』をあの電車内で学んだ礼安であったが、いざ最悪かつ外道じみた人間の身勝手な心を見てしまうと、怒りが収まらなかったのだ。
 自分が全ての理由であるはずなのに、自分を理由だと認めようとしない、駄々をこねる子供じみた言い訳。さらにその言い訳だけならまだしも、そこに大量の殺人教唆の罪。さらに大量殺人の後もその被害者に対しての、卑劣なほどの借金の水増し、そして要求。
 自分が肥えることか多量の金に塗れることしか考えない、たちの悪い金目当ての政治家も、一瞬にして顔色を悪くするほどの、吐き気を催す『邪悪』そのものであった。
「天音ちゃんが……スラムに住んでいる人が、貴方に何をした!? ただ懸命に生きていただけなのに、そしてまっとうな仕事をしたはずなのに!! それを自分が少しでも否定された瞬間に、当人のいたって普通な日常を汚していい訳ないだろ!!」
 その礼安の激昂は、自分の境遇にもあてはまるだろう。礼安は、それは「別にいい」と言ってしまうだろうが、彼女もまた自分以外の誰かが傷つく姿を見たくないために、排他的行為を受けた人物である。ただ、相手が自分を気に食わないために、多くの被害を被った。
 透は、そんな礼安の怒りに、救われていた。それぞれのやったことに間違いはない、スラム街の人々も、両親も、明も。そう言われているようであったのだ。
 間違っているのは、グラトニー自身。それはうっすら理解していたが、結局は自分の罪悪感に帰結してしまう。目の前で全てを奪われた、弱い自分が悪い、と。
 だからこそ、目の前で自分の代わりに激怒する存在が、たまらなく輝いて見えたのだ。
「貴女みたいな……そんな甘っちょろいガキに何が理解できる!? 大人の世界というものはお前らが思うより何倍も複雑怪奇!! 私の『ビジネス』を邪魔する道理はないはずだ!!」
「――――何が……何が『ビジネス』だ!!」
 透はそんなグラトニーの苦し紛れともいえる言い訳に、待ったをかけた。絶望のどん底にいた彼女が、限界ともいえる精神状態で少しでも異を唱えられるようになったのは、他でもない礼安の影響。弱弱しく立ち上がりながら、多くのことが脳裏に過りながら、透は礼安のもとへ歩き出したのだ。
「――――俺たちは、多くの被害を被ってきた。それはあくまでも家族を守るため。家族の安寧を保つため、今よりも酷くならないためだ。あの時、お前に両親を、明を目の前で見るも無残に殺されて。のうのうと生きているお前がとにかく許せなかったが……全ては残された子供たちや剣崎と橘のためだった」
 しかし、結果は違う。己の私腹を肥やすためだけに借金は水増し、払えなくなったら暴力で従わせる。昨今のヤクザですら、そこまでのあくどい行為はやらないだろう。どこまでも外道な行いを甘んじて受け入れたのは、ひとえに子供たちのため。自分よりもいい人生を歩んでいってほしい、そんな親心からである。
「……結論は、実にシンプルだった。お前みたいなクソ野郎に、どれほど酷い行いをされようと、行き着く先はこうでしかなかった。自分の行いがゆえに、そうなったってことをお前みたいな自己中心的な奴は理解できないまま……俺らに打倒されるんだ」
 礼安の隣に並び立つ、透。その手には、デバイスドライバー。
 礼安は目線で気を配る様子を見せたものの、透は何も心配はいらない、と、黙ったまま頷いた。そのサインを静かに受け取った礼安は、使ったはずの『黄金の果実』ライセンスを右手に持ち、右手の解放骨折状態を一瞬で直した。臨戦態勢はバッチリである。
「――債務者が……我々債権者相手に歯向かってんじゃあねえぞこのドブカス野郎がァァァァァァッ!!」
 ようやく露わになった、グラトニーの本当の顔。実に傲慢で、グラトニー≪強欲≫の名をそのまま体現したかのように歪む。もととなった『弁慶』の力を飲み込んでいくように、さらに変貌していく。
 薙刀『岩融』状の武器や体の大まかな特徴はそのままに、背中には無数の武具が追加。鎧は邪魔だと言わんばかりに、上半身のもの全てを崩壊させている。顔と腹部に主な歪みが集中しており、全てを飲み込もうとするその異形はまさにブラックホールかのよう。歪な風の魔力を纏いながら、涎を垂らして礼安たちを食い物にしようとしていた。
『女なら身ぐるみ剥いで臓器売買≪モツサバキ≫か奴隷化≪ウリ≫よなあ!? 俺のために金をじゃんじゃん生み出せ!! それか子供≪ガキ≫孕むくらいしか能の無ェ劣等性別なんだからよお!!』
「――呆れたぜ。手前の私腹を肥やしていただけじゃあなく、徹底的な男尊女卑たぁな。堂々たる性差別なんざ、今の時代流行んねぇぞ」
「――透ちゃん、行ける?」
 その礼安の問いに、黙って頷く透。それ以外に、何もいらなかったのだ。
 お互いドライバーを下腹部に装着、数多の思いを背負った二人は、即座に起動させる。
『認証、アーサー王伝説!!』『認証、サイユウ珍道中、猿の巻!!』
「「変身!!」」
『『GAME START! Im a SUPER HERO!!』』
 攻撃迫る中、二人同時に変身。装甲展開によって全ての攻撃を弾き去りながら、土煙の中から出でるは、装甲を纏った二人であった。
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登場人物紹介

瀧本 礼安≪タキモト ライア≫

「誰かの『助けて』って声が聞こえたなら、そこに現れるのが私! 私たちが来たからにはもう大丈夫、安心していいよ!」

性別……女子

年齢……十五歳

年次……英雄学園入学前→『英雄≪ヒーロー≫』科・一年一組

血液型……AB型

髪型……水色セミロング

因子……『アーサー王伝説』よりアーサー・ペンドラゴン

欲の根源……『赤の他人も友達も、総じて守るため


 自他ともに認める、究極のお人よし。

 過去自分が受けた災難を他人に経験してほしくないために、困っている人に迷わず手を差し伸べることのできる、揺ぎ無い正義感の持ち主。学園から支給されたデバイスドライバーをほぼ初見で扱った、イレギュラー的存在でもある。

 それには多少なり理由があり、現トレジャーハンターでもある父親が元々英雄で、幼いころから触れていた点にある。

 彼女の中にある因子は、『アーサー王』。

 アーサー王自体が持つ高いポテンシャルと、礼安の持つ天性のバトルセンスによって、強さが上位のものとなる。使用武器は様々であり、その場に応じた多種多様な武器を持つ。

 彼女が戦う理由は、『赤の他人も友達も、総じて守るため』。

 お肉とゲームが大好き。それでいて栄養が大体一部に行くのと、動きやすい引き締まった体形をしているため、少なからず疎ましく思う人間はいる。本人曰く、『太らない体質』だそう。


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エヴァ・クリストフ

強い意志がある限り、『武器の匠』として仕事をするだけさ

性別……女子

年齢……十六歳

年次……『武器≪ウエポン≫』科・二年一組

血液型……AB型

髪型……金髪ロング

因子……刀鍛冶師・『村正

欲の根源……『???』


 この世界における、あらゆる武器のメンテナンスや製造が可能な『武器の匠』≪ウエポンズ・マスタリー≫。

 両親から継承し、若くしてプロ英雄たちの武器の面倒を見ている。そのため多くのプロ英雄たちは彼女に頭が上がらない。

 しかし同時にかなりの変態。この世に遍く存在する武器たちや、英雄の中でも女子や女性をこよなく愛しており(無論一般人含む)、所謂レズビアン。

 そのため、男がいるか、あるいは新たな扉を開きたくない女性は、こぞって彼女から距離をとる。本人はそろそろ変態気質を治そうとしているものの、一向に治る気配はない。何なら礼安たちの影響でもっと酷くなった。

 過去のトラウマから、男性と銃が大の苦手。彼女から語ってくれるときは、もう少し先になりそう。

 普段は非戦闘員であるが、親から受け継いだ『鍛冶屋の小槌』を使役し、辺りの無機物や有機物を武器として扱うことが可能。そのため、並の英雄よりも戦える。

 実はかなり頭脳指数が高く、作戦立案もできるほど。眉目秀麗さも合わせ、初見時の印象は普通ならとてもいい。普通なら。作中の女性キャラの中でも、屈指の『ナイスバディ』であり、主要キャラの中で一番『デカい』。僅差で次点は礼安。

 武器科でありながら、自分の開発した『デュアルムラマサ・Mark3』を用いて変身することが可能。厳密には英雄ではないため、変身時の掛け声が唯一異なる。

 アメリカンな大盛り料理、バーベキューが大好き。元々アメリカ出身のため、そういった豪快な食文化に慣れた結果。しかしそれよりも大好きなものは女子、女性を食べること。食人ではない。


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真来 院≪シンラ カコイ≫

「王の御前よ、道を開けなさい!!

性別……女子

年齢……十五歳

年次……英雄学園入学前→『英雄≪ヒーロー≫』科・一年一組

血液型……O型

髪型……クリムゾンレッドのショート

因子……『ギルガメッシュ叙事詩』よりギルガメッシュ王

欲の根源……『己の誇り(礼安や、礼安の好きな場所)を護るため


 礼安とは腐れ縁のようなもの――と言いながら、早十五年。長い間礼安の側に居続ける、礼安にとって大事な存在。

 日本を代表する真来財閥の長女で、次期当主として家を背負う人間でもある。お嬢様言葉が崩れたようなラフな口調をよくしている。まあだいたい礼安のせい。

 礼安をとりわけ大事に思っており、少々過保護な面が垣間見える。しかし律するときはきっちり決めるため、周りからの人望は礼安同様厚い。本人はお人よしではない、と語っているものの、礼安ほどではないにしてもお人よしであり、おせっかい焼きである。見ず知らずの人間に対してもかなりのおせっかい焼きであるが、礼安が関わるとお母さんのようになる。

 彼女の中にある因子は、『ギルガメッシュ』。

 まだ力を制御しきれはしないものの、入学前の生徒としては異例。弓を主に使い、トリッキーな戦いを得意とする。

 彼女が戦う理由は、『己の誇り(礼安や、礼安の好きな場所)を護るため』

 実は、礼安と院は幼馴染ではなく、家族関係にある。礼安と同様、亡くなった母親に対して尊敬の念を抱いている。今は礼安の精神の安寧を保つため、父である信一郎と共に礼安のメンタルケアを行っている。

 大分スレンダー体型であるため、礼安の『一部分』を時たま羨ましく思うときがある。礼安はそんなありのままの院を「可愛い!」と語るが、院はそんな礼安を見て「私の礼安は私なんかよりももっと可愛い!!」と親バカ(?)っぷりをいかんなく発揮する。

 甘いものが好きで、礼安とそこ辺りの好みが合わないことが悲しいらしい。


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天音 透≪アマネ トオル≫

「俺が、最強だ!!

性別……女子

年齢……十五歳

年次……英雄学園入試主席入学→『英雄≪ヒーロー≫』科・一年一組

血液型……AB型

髪型……黒ベースに黄色のメッシュの入ったショート

因子……『西遊記』より孫悟空

欲の根源……『特になし』→『自分で自分を守れない、弱い奴を従えて誰も傷つかない世を創る


 英雄学園の一般入試を勉学方面、実技方面両方でほぼ満点をたたき出し、主席として新入生生徒代表である生徒。入学前時点での強さは、礼安と同格であった。

 しかし、礼安と院両人が神奈川支部との一件を経て、圧倒的な強さを得た上に、学園長の実の娘であることが発覚してから、『恵まれた存在』として両人を敵視していた。

 埼玉県内のスラム街出身であり、自力で生きる術を身に着けているため、家事能力や自分より下の年齢の子供の世話はお手の物。実際、血縁関係こそないものの、『ホロコースト事件』により両親を失った子供たち数名を疑似的な家族として匿って世話していた。

 埼玉支部(特にそこの支部長である、コードネーム・グラトニー)とは並々ならぬ因縁があり、元々はある程度恵まれた家庭であった天音家を、グラトニー自身の逆恨みによって崩壊させられたため、最初は殺意混じりに敵対していた。

 『勝気少女』編で礼安やエヴァから『英雄』としての心構えを説かれ、グラトニーへの復讐をすることは変わらなかったが、生きて罪を償わせる選択を取った。その際、敵対視していた礼安と完全に和解し、協力し合って埼玉の平和を勝ち取った。

 主要キャラ内で最もスレンダーであり、圧倒的モデル体型。貧困生活を送っていたため、贅肉などは無く、一番『小さい』。一人称も『俺』。弟妹達を食って行かせるため、厳しい世を若い中で渡り歩いてきたため、肝はかなり据わっている。

 側近である『剣崎奈央≪ケンザキ ナオ≫』と『橘 立花≪タチバナ リッカ≫』とは、同じスラムで育った幼馴染。二人が武器科に移った後も、弟妹たちと共に食事したり、遊んだりしているらしい。

 埼玉での一件が片付いた後から、礼安に対しては尊敬の念とほんのちょっぴり好意的な目を向けている。

 院と同様甘いものが好き。埼玉支部との一件後、二人でスイーツ巡りをしたり、可愛いものを集めたりしているらしい。


※設定アイコンはイメージです

丙良 慎介≪ヘイラ シンスケ≫

「英雄の時間≪ヒーロータイム≫と、洒落こもうか」

性別……男子

年齢……十六歳

年次……英雄学園入試主席入学→『英雄≪ヒーロー≫』科・二年一組

血液型……AB型

髪型……ダークブラウンのベリーショート

因子……『ギリシャ神話』よりヘラクレス

欲の根源……『???


 英雄学園東京本校にて、座学実技共に好成績を収めた、そんな一握りの存在が持てる『仮免許』を持つ、英雄学園の中でもかなりのエリート。

 一般人からの認知度も、英雄の中での知名度も高く、さらに立ち居振る舞いに嫌な点が見つからない、好青年の極み。そのため、両性から人気がある。決め台詞内の『英雄の時間≪ヒーロータイム≫』は、今は亡き丙良の先輩の決め台詞であった。

 かつての一年生時代に、入学前の生徒が見学していた丙良の先輩との実習授業内において、神奈川支部の襲撃が発生。その時点の未熟な力ではヘリオをはじめとした面々には敵わず、丙良は深い傷を負った。さらに丙良が庇われた結果、丙良の先輩とその入学前の志望生徒二人が目の前で皆死亡。

 首席で入学したから、と言って世の中は甘くない、さらに自分が敵わない存在などごまんといることに辟易した丙良は、ふさぎ込んでしまった。誰かと深く関わることで、その誰かが亡くなった際の精神ダメージを、もろに食らうことを恐れた結果、後輩や先輩、同級生において、深く関わる存在は実に少なくなってしまった。現時点において、彼と同級生で深い関係にあるのは、エヴァと信玄(『大うつけ者』編時点)のみ。

 しかし、神奈川支部との一件の中で、狂気的なほどに勇敢な礼安、そしてその礼安のお目付け役である院との出会いで、保守的な考えが一部改まっていく。『大うつけ者』編時点において、後輩内において深い関係を築き上げたのは礼安、院、透の三人となった。

 彼の中にある因子は、『ヘラクレス』。主要キャラ内で、最も防御力が高いため、より堅実かつトリッキーな戦いを好む。礼安とは能力的に相性が悪いと思われがちだが、『砂鉄』を操る能力を用いれば電気と土は共存できる。

 好物はピザ。特に安定と値段重視のマルゲリータ。

 礼安たちの『微笑ましいやり取り』に、一切介入しないようにしている。


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瀧本 信一郎≪タキモト シンイチロウ≫

「只今より、怪人○○の処刑を執行する」

性別……男子

年齢……五十歳

年次(?)……『原初の英雄』→私財を投じ『英雄学園東京本校』設立、同タイミングで学園長就任

血液型……AB型

髪型……紫色のロングを後ろで雑に束ねた雑ポニーテール

因子……『???

欲の根源……『???


 世に『英雄≪ヒーロー≫』の概念を生みだした張本人であり、世界を股にかけ自分の気に入った変なもの……もとい聖遺物を収集するトレジャーハンターでもあり、英雄学園東京本校学園長をはじめとして、世界中に様々な分校を作り名誉学園長となった、日本を代表する『原初の英雄』。

 現役時代、その圧倒的強さから『処刑人≪スィーパー≫』とまで語られる男である。

 しかし、今はその尖った異名などどこへやら、子煩悩かつ常時柔らかな笑みを絶やさない、柔和な人物に。五十歳とは思えないほどにしわが存在せず、全てを知らない人が彼を見たら二十代と空見してしまうほど。

 学園生徒と分け隔てなく接しているものの、実の娘である礼安と院に関しては目に見えてデレデレ。尋常でないほどの学内通貨をお小遣いとして支給している。週一のペースで。

 今も、来たるべく災厄の可能性を鑑みて、修行は怠らないようにしているものの、現役時代よりは戦力ダウン。本人はそれを酷く恥じている様子である。

 その理由が、何より礼安と院の母であり、信一郎の妻を亡くしたことに起因している。もう大切な存在を亡くしてしまわないように、いざというタイミングで自分も動けるようにしているのだ。

 他の英雄と異なり、デバイスドライバーの祖たる『デバイスドライバー・シン』を用いて変身する。デバイスドライバーと比べるといわゆるプロトタイプに位置するモデルだが、実際の出力量はデバイスドライバーの百倍ほど。力の暴走などのリスクを完全に取り払ったがゆえに、ニュータイプでありながらパワーダウンしている。『シン』は現状、信一郎以外に扱える者は完全に存在しない。

 今まで、数多くの事件を単独で解決してきたのだが、日本中を震撼させた『とある事件』は何者かと共に戦い勝利したらしいが、その人物は不明。

 ちなみに、それほどの功績を残しておきながら、生徒たちにはまあまあなレベルでイジられている。特に、一昔前の学園ドラマの熱血教師を夢見るがゆえに、時代錯誤とも思えるシーンを実現させたいと、本人は試行錯誤している。しかし生徒たちは「そんなの今のご時世ありえねー」と白眼視。透もその一人である。しかしそのイジリを本人も仕方ないと容認しているため、特に問題はない。


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