第34話「猫カフェで両親に挨拶。」

文字数 994文字

 彼女に肩を叩かれて我が家の猫カフェに入ると、僕に気づいた両親がこちらにやって来た。
あら。あなたが彼女を連れてくるなんて珍しいわね。
 母が冷やかすように微笑みながら言った。僕は顔が熱くなり目を逸らした。
息子さんとお付き合いさせていただいております。よろしくお願いします。
 彼女は元気よく言って両親にお辞儀した。
うちの息子は頼りないだろうけど、よろしくね。
 母と彼女は目を合わせて笑い合った。すぐに僕をからかうところは2人とも同じだ。それから彼女らの笑顔も似ているような気がする。
好きな席に座っていいわよ。
 店内には僕らと同年代くらいのカップル、2人組の若い女性、それから幼稚園児くらいの男の子を連れた母親がいた。僕らは空いている角の席に座った。毎日見ている風景だが、客として来てみると店内は違って見えた。
この店のルールは言わなくても大丈夫よね。


飲み物は何にする?

 母は僕らにメニュー表を手渡しながら言った。
ブラックコーヒーにしようかな。
私はカフェオレでお願いします。
かしこまりました。

 母は仰々しく冷やかすように言うと、振り返って厨房の方に向かった。

 しばらく店内を見回していると、一匹の茶トラ猫が彼女の膝に乗った。彼女は幸せそうな顔で猫を撫で、僕はその様子に見惚れていた。

やっぱり素敵なお店ね。

ご両親も元気そうで安心したわ。

そういえば昔は遊びに来てたんだよね。
10歳まではね。
 彼女は儚い表情で優しく猫を撫で続けた。
僕が2階にいる間、君が同じ家の1階にいたなんて不思議な気持ちだな。
 母が僕らの飲み物を持ってこちらにやって来た。
お待たせしました。
 母は飲み物をテーブルに置いた。母は空になったお盆を抱えながら、彼女の膝に乗った茶トラ猫の方に目をやった。
その子はオスの猫でね、女の子にしか甘えないのよ。
そうなんですか?
 彼女は僕の膝に猫を乗せてみたが、嫌がるようにすぐ彼女の膝に戻った。
ほらね。

やっぱり男の子だからスケベなのよ。

 母はクスリと笑って猫を軽く撫でた。
嫉妬してる?
 彼女はからかうように僕の目を見た。2人の共通点、からかう所。
嫉妬なんてしてないよ。
 僕がよそを向くと、母と彼女は再び顔を合わせて笑った。やはり2人とも似ている笑顔だった。彼女は膝の上でくつろぐ猫を撫でながら母に言った。
実は昔、こちらのお店に来てたんです。
 母は微笑みながら少し間を開けた。
大きくなったわね。
え?
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登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

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