第21話「2ヶ月ぶりのバス停」

文字数 784文字

 11月になり肌寒い季節がやってくると、僕は自転車通学の際に手袋を装着するようになった。

 とある火曜日、登校してすぐに廊下で彼女と顔を合わせた。

おはよう。

今日の放課後、一緒に帰りましょう?

 およそ2か月ぶりになる。
そうしようか。
 そして放課後。僕らは並んでバス停の方に歩いていると、彼女が思い出したように僕の顔を見て聞いた。
そういえば、あなた進路は決まったの?
ある程度はね。

心理学部のある大学を目指そうと思ってるんだ。

どうして心理学なの?
なんとなくだよ。
そうなんだ。でも心理学ってあなたらしい気がするわ。


心理カウンセラーになるの?

そこまでは決めてない。先になってみないと分からないよ。
そっか。
 彼女は微笑みながら足元の方に顔を向けた。
私はね、大学で社会福祉を専攻をしようと思うの。
どうして社会福祉なの?
“なんとなくよ”
福祉の仕事に就くの?
"先になってみないと分からないわ"
 彼女はからかうように僕の真似をして目を合わせた。僕はなんだか懐かしい気持ちになり、お互い同じように笑った。


 僕が目指している大学は2つ隣の駅なので、実家から通学する予定だ。彼女が目指す大学は12個離れた駅にあり、一人暮らしをする予定らしい。

一人暮らしなら色々と気を付けてね。
ありがとう。でも受かったらの話よ。
 彼女は小さく笑った。
私のことを心配してくれてるのね。
 顔が熱くなった。
それは、まあ。
ありがとう。
 そういって彼女は僕の頬を小突く。このやり取りも懐かしい。
でも私に何かあったら、あなたが助けに来てくれるんでしょう?
 彼女はニヤリと笑いながら僕の顔を覗き込んだ。
えっと、それは、もちろん助けに行くよ。

10個離れた駅だから、少しだけ時間が掛かるかもしれないけど。

そんな細かいところはいいのよ。
 彼女はまたクスリと笑った。

 それから僕達は試験に向けて勉強に集中し、一緒に帰ることはなくなった。

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登場人物紹介

“不完全”な僕。世界から色が消え、ただ時が過ぎるのを待っている。

”完全”なクラスメイトの女の子。僕とは真逆の存在。

僕の母。父と2人で猫カフェを経営している。

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