第1話「世界から意味が消えた日」
文字数 1,080文字
"人は不完全だからこそ美しい"
子どもの頃にそんな言葉をどこかで聞いた。今になってみると、その意味も分かるような気がする。
僕の家には13匹の猫がいる。というのも、僕の両親は動物保護施設から猫を引き取り、2階建てである我が家の1階部分で猫カフェを経営しているのだ。両親2人で13匹の猫を世話するのは大変なので、検査や書類など手が回らない時は別の女性が手伝ってくれている。
そんな家庭なので営業時間外にはいつも彼らと遊んでいた。幸せな日々だった。ある日、10歳になった僕は母に尋ねてみた。
この猫たちって、ペットショップで買ったの?
それから数日後、閉店後の1階で両親が話している声が聞こえた。2人は動物保護施設のことについて話していた。難しそうな内容だったが、1つだけ理解できたことがある。
“殺処分”
人のせいで動物が殺されている。
僕は絶望した。涙が止まらなかった。そして泣いている僕に気が付いた両親が慌てて駆け寄ってきた。
こうして僕の世界から色がなくなった。この世の全てに意味はないんだと思うようになった。そう考えないと自分を保てなかったからだ。
その後も意味のない時が流れた。ただ学校に行き、ただ先生の話を聞いて、決められた給食を食べたりして家に帰った。友達もいない僕は帰宅してもすることはなかった。人のいない公園に出かけてベンチに腰かけ、ただ空を眺めて過ごした。家の猫カフェから勝手に持ち出したエサを足元に置き、近寄ってきた野良猫を撫でたりした。猫を撫でながら「ごめんね。」と言うのが癖になっていた。
僕は教師に勧められた普通の高校に入り、普通に進級していった。相変わらず家に帰ってもすることがないので、学校で言われた通りの勉強はしていた。高校2年生に上がる時、文系か理系かを選択しなければならなかったが、僕は何となく文系にした。「楽そうだから」といったありきたりな理由だ。いつも通り意味のない時が流れ、2年目の高校生活は過ぎていった。そして僕は彼女と出会う。