第35話

文字数 909文字

甘く、幸せな時間はあっという間に過ぎて行きました。

「名残惜しいけど、明日も早いし…
そろそろ寝ようか。」
「うん。」

おかみさんが私用の布団を用意してくれましたが、紗和さんと抱き合って眠るので、
布団は必要無かったですね。

「今日は久し振りに良い夢が見れそう!」
「うん。僕も。」
「おやすみなさい。昴さん。」
「おやすみ。紗和さん。」

紗和さんはゆっくり目を閉じました。
しばらくすると、規則正しい寝息を立てました。
私も瞼が重くなって来ましたが、
しばらく彼女の寝顔を見ていようと思いました。

「(可愛いな…)」

戦争が激しくなって来て、
ゆっくり眠れる事が中々無いのでしょう。
私もこんなに穏やかな気持ちで眠れるのは、何年振りでしょう…。

今日は、戦争と言う現実を忘れる事が出来る程、幸せな時間を過ごす事が出来ました。

「(幸せだ…)」

私も目を閉じました。
…こんな日々を毎日過ごしたい。
その為に、私はまた明日から戦います。



朝になりました。

「おはよう!」
「ん…おはよ…」

紗和さんの声で目が覚めました。

「よく眠れた?」
「うん…」
「そっか、良かった!」

布団から起き上がり、寝巻きから普段着に着替えました。

「私、これからお母さんと朝食作ってくるね!」
「……」

まだ半分程寝ぼけている私は、
紗和さんを後ろから抱き締めました。

「すっ、昴さん!?」
「……」
「……えいっ!」

紗和さんはくるっとこちらを向き、
私に口付けをしました。

「!!!!!」

一瞬にして目が覚めました。
これは起床時のラッパより効果があります。

「ふふ、目ぇ覚めた?」
「う、うん…!」



「昴くん、ごめんなさい…。」

朝食の時、おかみさんが私に謝罪しました。

「紗和には昴くんがいるって知りながら、私…。」
「おかみさん、僕こそすみません。
部屋の壁壊しちゃって。」
「そんな部屋の壁1つや2つ気にする事ないわ!!昴、もっと言ったれ!!」
「浩二くんの言う通りやわ…。」
「……おかみさん、何か事情があったんじゃないんですか?」
「昴くん…!」
「お前、ほんまにお人好し…
いやま、そこが昴のええ所なんやけど…。」

あの優しいおかみさんが、私と紗和さんの事を知りながら、お見合いの話を進めるとは思えなかったのです。

「実は…」
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