第52話

文字数 973文字

紗和目線の物語⑤

昴さんから来た手紙は、1枚1枚本の様にして保管しています。
何時でも読み返せる様に...。

「...来ないなぁ...」

ここ数ヶ月、昴さんからの手紙が来ません。
諦めずに何度も何度も投函しますが、
お返事がありません。
忙しのか、戦争が激しくなって、
郵便もちゃんと機能していないのか...
それとも...
私はすばるくん人形をぎゅっと抱き締めます。

「昴さんの身に、何かあったとかは、
ないよね...?」

すばるくん人形に語りかけます。
三宮は空襲が多くて、その度に防空壕に逃げるのですが、その時いつも昴さんからの手紙と、このすばるくん人形を持って逃げています。
昴くん人形を抱き締めていると、
昴さんに抱き締められている気がして、
手紙を読んでいると、昴さんの声が聞こえる気がするからです。
手紙は、一言一句暗記してしまったぐらい、何度も何度も読み返しました。



「紗和ー手紙やでー。」
「!!」

ある日、母から2通の手紙を渡されました。

「(昴さん!!?)」

...と思って宛先を見ると、浩二くんと

「え、すずちゃん!!?」

東京で絵の勉強をしていた頃の友達、
すずちゃんからも手紙が来ていました。
昴さんからではないものの、
どちらも私にとってとてもとても大切な人。
心から嬉しかったです。


どちらから読もうか凄く悩みましたが、
浩二くんの手紙から先に読む事にしました。


『紗和ちゃんへ

紗和ちゃん、お元気ですか?
おばちゃんも、お元気にしていますか?
早速ですが、再来週辺りに進と一緒に
三宮に帰省する予定です。
本当は昴と莉子ちゃんとも一緒に帰省出来たらと思ったのですが、
任務の都合上、どうしても叶いませんでした。

久し振りに紗和ちゃんとおばちゃんに会うのを、心から楽しみにしています。

浩二』


「...あれ?」

浩二くんからの手紙から、もう1枚紙が入っていました。

「!!」

私はその紙を見て、目頭が熱くなりました。


『大好きな紗和さんへ

なかなかお返事を書けなくてごめんなさい。
手紙、全部届いています。僕の宝です。
勿論、1番の宝は紗和さんです。
早く紗和さんに会いたいな。

昴』


「昴さん...!!!」

忙しい中、書いてくれた事が本当に嬉しくて、私は涙を流しました。
その手紙を、他の手紙と同じ様に大切に保管しました。

「(浩二くん、ありがとう。)」

浩二くんからの思いがけない贈り物に、
私は心から感謝しました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み