第53話

文字数 837文字

紗和目線の物語⑥

次はすずちゃんからの手紙に目を通しました。
東京から三宮に帰る時、手紙のやり取りの約束をしたものの、2、3数通やり取りをして、
それからやり取りは出来ずにいました。

「(ん?“今西”?)」

さっきはきちんと見ていなかったのですが、すずちゃんの苗字が違う事に気が付きました。


『伊藤紗和様

お久し振りです。
最近急に寒くなって来ましたね。

早速本題に入らせて頂きます。
私、この春に結婚して、今は兵庫に住んでいます。三宮との距離は少しありますが、
久し振りに紗和ちゃんに会いたいなと思っています。
良かったら家に遊びに来ませんか?
紗和ちゃんにお話したい事もあるので。
住所は封筒に書いてある通りです。

今西すず(旧姓山尾)』


「すずちゃん、結婚したんや!!
おめでとう!!」

友人からの結婚報告にうきうきしながら
封筒に書かれている住所を確認しました。

「あれ...これって...」

もしかして、昴さんの実家の近く...?



夕飯時、私は母に手紙の事を伝えました。

「丁度いいわ。紗和。あんた疎開し。」
「え」
「最近毎日の様に空襲警報が鳴るやん。
昴くんが実家にいつ来ても良いって言ってたし、すずちゃんも近くに住んでるなら過ごしやすいやろ。」
「でも...お母さんは?」
「私はずっとここにいる。
自分の務めもあるし、お父さんがいつ帰って来るか分からへんし。」
「.........」

『生きて欲しい。何をしてでも。
夢を叶える為に。』

昴さんの言葉が頭に浮かびます。
この時、生きる為には多少なら手段を選ばないと決めたのでした。

「わかった。私、昴さんの実家に行く。」

夕食を終えてから、私は浩二くん、すずちゃん、田中家に手紙を書きました。

「(浩二くんに、暫く田中家にお世話になる事を伝えておかなくちゃ。)」



最低限の荷物を持って、私は昴さんの実家へ向かいました。

「うわぁ...」

思っていたよりずっと広いお家でした。
私の実家の倍はあるのではないかと。
広いお庭、とても手入れされています。
昴さんはここで育ったのですね...!。
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