第2話 邂逅

文字数 1,219文字

高額な報酬が必要だがどんな危険な依頼も引き受けてくれるという奴がいるらしい。「どんな依頼」と言えど断られたことがあるらしいが……。
誰もその姿を見たことはない。しかし確実に依頼はこなす。

依頼の申し込みについてはいくつか条件がある。
・依頼の追加は出来るが完了まで変更はできない
・決して姿を暴いてはいけない
・代金は先払い、郊外の飲み屋の搬入口に金と一緒に依頼の概要を書いた紙を置く
その中で姿を暴こうとしたものは殺されるそうだ。
それゆえに「鬼蜘蛛」と呼ばれる、と。


その飲み屋の搬入口で黒い外套を纏う背の高い男、真木秀人はその男を待っていた。

店内の騒ぎとは裏腹に搬入口には静寂が漂っていた。ここらは帝都から外れ、森が広がっているため軍の警備が手薄なことから少々治安が悪くなってしまった。
とはいえ痴話喧嘩からの乱闘騒ぎが起こる程度なので軍としてはこの地域はあまり介入しないことにしている。


ザリッという音に気づき音の方へ顔を向けるとすぐそばに人が立っていた。
あまりに突然に現れた人間にハッと息を呑んだ。が、すぐに「こいつか」と察した。「こいつが、鬼蜘蛛か」
郵便局員の制服に外套を羽織り、辺りも暗く帽子を目深に被って顔は見えない。
秀人が目の前の人に気を取られているとその郵便局員は置いておいた依頼書と金の入った鞄を黙々と確認し始めていた。

依頼書を眺めて動かなくなった郵便局員とそれをじっと見つめる秀人の間に生ぬるい風が吹き抜ける。全身の神経を尖らせて相手の一挙手一投足に注意を向けていた。次に何が起こるか、何をされるかわからない不安が「鬼蜘蛛」から漂い、それに自分が対応出来るかわからない緊張感が秀人にはあった。

張り詰めた空気を途切らせるように先に口を開いたのは「鬼蜘蛛」の方だった。
「私兵は了承します。が、後者のこれはどうしましょうかね」
少し高い青年のような声がゆっくりと告げる。
「『息子を鍛えてほしい』と言われても、私にはそういった経験はありませんから……そうですね」

「貴方のご子息が死んでも良いなら引き受けましょう」

穏やかな口調とは裏腹に言葉には感情がなかった。これに了承しなければ受けてはくれないのだろう。
「加減はしてくれ」
「善処します」という男に
「それに……」
と続ける秀人はどこか遠くを見つめるような目で言った
「きっとアレは殺せないだろう」


「私に殺せないものはありませんよ?」
「殺せないさ、人間ではないのだから」
「畜生か何かですか?」
「妖怪だ」
「妖怪ですか?」

「妖怪、“鬼蜘蛛”だ」



「家に伝わる妖怪だ。信じられないだろうが見ればわかる」
「普通の者ではダメなんだ。絶対に口外しない、且つ、戦術実践と歴戦の者でなければならない」
「はぁ……にわかに信じられませんが、報酬はいただいてますしやりますよ」
少し高い青年の声から軽薄そうな男の声に変わっていた。

「よろしくお願いしますね真木秀人さん」

「あぁ俺のことは好きに呼んでください。」
「『鬼蜘蛛』以外で」
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