第21話 帝都観光奇譚②

文字数 1,544文字

「いつも服は沖津さんが採寸して、それを作ってもらってますよね?買いに行ったところ見たことないんですけど、店わかるんですか?」
「いや、だが前に忠勝に聞いたことがある。中央区に帝都で1番大きな服屋があって軍の者は皆そこへ行くんだと。そろそろ見えてくるはずだが……」

2人は服を買うべく目当ての店へ足を運んでいる。平日だというのに店屋が立ち並ぶこの辺りは道いっぱいに人がいて、お互いなるべく離れないように歩かなければはぐれてしまう。そんな中で秀貴は以前から抱いていた疑問を投げかける。
「家に来る前はどうしていたんだ?」
「その辺の服屋で買ってましたね。とは言っても着るものはほとんど密輸した制服ばかりですけど」
秀貴は自分が今よりずっと小さい時を思い返すと補佐官は郵便局員の制服や清掃員の制服などがほとんどだった。
「普通の服屋なんて行くんだな」
「世間一般向けの服を着ていたら目立ちませんからね。制服は目立ちますから、用途で使い分けてます」

話をしていると2人には視界の端いっぱいに広がる大きな建物が現れる。帝都イチと言われる大きさの噂もあながち嘘ではないだろう。
紳士服売り場を一周し、その中で適当に見繕うことにした。秀貴がどれが良いかと聞くと「貴方が選んだ物ならなんでも着ますよ。まあ強いていうなら動きやすいものがいいですね」という返事に頭を抱える。
なんでもいいと言われて慣れない服選びに難航していると陳列棚の整理をしていた店員が見かねて2人に近づいてくる。何か探しているのかと聞かれ希望を答えるといくつか紹介してくれた。その中で帝都人より少し背の高い補佐官でも丈の合う物を購入することにした。
そして服より重要な帽子は悩みに悩んで秀貴が気にいるデザインを選んだ。その様子を口には出さないが嬉しそうに後ろで補佐官は見ていた。

「お兄さんと一緒にお買い物なんて仲が良いんですね」
会計をしている店員がふとそんなことを口にした。
「すみません少しお2人を見ていたら微笑ましくって」
「いえ、気にしないでください。仲は……良いと僕も思います」

「俺達兄弟だと思われてたんですか?」
補佐官のその反応は秀貴には想像通りだったようで、「顔を見ていなければそう見えるだろう」。
「へぇ〜兄弟か。兄弟か……貴方と兄弟って嬉しいですね。顔は確かに全然似てませんけど」
「顔が似てなくても血が違ってもこれだけ共に生活すれば家族だろう」
「そうなんですかね」
家族、きょうだい、補佐官の中で暗い影を落としていたところに光が当てられ強制的に意識が持っていかれているようだった。しかし秀貴には補佐官は家族であることが当たり前のことだったのでその噛み締める様子には気づくことなく次の提案をし始めた。
「服屋で手袋を見なかったな。いつも手袋をしてるだろう?必要ないか?」
その問いかけに我に帰った補佐官はいつもの調子で答える。
「あぁ必要ありませんよ、これは特別製なので。市販の物だと見た目が厳つかったり繊維が飛んだり水が染みたり、色々と使い勝手が悪いんですよ」
「仕事用ではなく普段着用だぞ?」
「これじゃないと落ち着かないんですよね〜昔からの癖なので」
補佐官は料理をする時以外手袋を外したところを見たことがなかった。それも片手だけ外しているとかそんな限られたもので風呂上がりでもなんでも手袋をつけている。
秀貴は何となく聞き辛くて今まで聞けずにいたが気にしない様子の補佐官は「手って1番使うから目立つでしょう?怪我の跡とか見られて記憶に残ったら困るんですよね〜指紋は焼いているので外しても多少は大丈夫だとは思うんですけどやっぱり跡がね」と言う。
そこまで徹底しているのかと秀貴は感嘆のため息を漏らすと補佐官は自重気味に「これが“俺の普通”ですからね〜」と笑った。
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