第3話 推理的瑕疵あり?
文字数 2,039文字
※東京創元社の隔月刊雑誌「ミステリーズ! vol.100」に問題編が、「ミステリーズ! vol.101」に解答編が掲載された犯人当て小説『心理的瑕疵あり』(法月綸太郎)について、その内容に踏み込んでいます。ネタバレ注意ということでよろしくお願いします。
以下、ブランクを数行入れておきます。
今回は完敗も完敗、かすりもしない大外れでした。
解決編を読んでみて、「分かるか~、そんなもん!」と壁に投げつけたい気分になったくだりが二、三箇所ありましたが、とてもよくできた犯人当て小説だったと関心もしました。
では何をテーマに語るのかといいますと、解答編を読んだ上で、素直にもしくは意地悪くいちゃもんを付けるとしたら、どういうことが言えるかをやってみようという、推理作家にとっては嫌な企画です(汗)。
とはいえそれだけではアンフェアな気がするので、まず、私が締め切り間際に送った推理をかいつまんで書いてみます。再度断っておきますが、今回、私の推理は大外れです。しかも全然詰め切れていないのに期限に合わせて無理矢理まとめた推理なので、強引にもほどがあります。その点をお含み置きの上、ご笑覧いただければちょっとは気が楽になります。
<外れ推理の概要>
犯人が現場を下見し、現場近くに防犯カメラがあることをステッカーで把握していたと仮定する。センサータイプの夜間灯が己の侵入に合わせて反応するのを、犯人はどう感じるか。夜間灯が点る度に数秒間撮影されると考えるのではないか。
その上で、「入るときは背中だからいいが、出るときはまずい。顔を隠しつつ、視野を確保できる物はないか」と考え、エアコンのフィルターの利用を思い付く。フィルターを顔の前に掲げれば、撮影されても個人の特定につながらないと信じて実行した。
翻って三名の容疑者は防犯カメラの存在を知らなかった。上記条件から外れるため、三名は犯人ではない。
では他に誰がいるか。被害者の住所を知り得る立場にあり、事前に被害者の住所を訪ねてもおかしくない人物。それは被害者の元妻、柚木峰代であろう。よりを戻したがっていた被害者は住所をすすんで教えたはずだし、合鍵も喜んで渡すに違いない。犯人は柚木峰代。
……とまあこんな具合でした。作中で明確に容疑者とされた三人を除外するために、先に仮定を決め付け、理屈を構築しているという無茶苦茶ぶりです。
さて、解答編。詳細な正解推理は雑誌を読んでいただくこととして、ロジックを大まかに抜き出して書くなら、
1.防犯カメラ映像から容疑者達は現場を下見していない → 2.犯人は元から被害者宅を知っていたはず → 3.犯人は被害者の部屋の前の(自殺したはずの)住人である
こんな具合になるかと思います。ここまでは多少強引ではあるものの、あり得べき推理になっていると私は感じました。というのも、部屋の鍵が施錠されていた事実を説明するには、前の住人が犯人というのが一番しっくりくるから。
ただし、文句を付けるのもまずはここから。
・前の住人が自殺したことになっているからといって、錠を付け替えないなんてことがあるのか。ましてや本文を読むと貸主は前の住人に渡した鍵を回収できていなかった節が窺える。普通は替えるのではないか。
次に疑問に感じたのは、自殺者の身元確認です。
・自殺未遂者が、担ぎ込まれた病院内で飛び降り自殺を果たした場合、こんなにもいい加減な身元確認しかしないのだろうか。死んだ男は借金苦だったと分かっているのだから、警察もある程度は事件性を疑い、突っ込んで調べようとするのでは。
もう一点。本作の最大の謎と言えるでしょう、エアコンのフィルターを犯人が持ち去った理由。
解答編によれば真実は――エアコンが前に住んでいたときのままだと知った犯人は、内部に自身の指紋や毛髪、皮脂などが残留しているのは危険だと考え、持ち去った――とのことですが。
・犯人は現場に一時間五十分ほど滞在した。現場に入るなりすぐにエアコンの危険性に気付いたなら、浴槽か流しに湯を張ってフィルターを沈め、洗剤をたっぷり投入して放置しておけば、指紋や汚れは落ちて証拠能力もなくなるのではないのか。※現場の部屋に風呂や流し台が付いていたかどうかは未確認
最後に一番納得できなかったことを。
警察は容疑者の顔写真を持って、アパートの古くからの住人や、その周辺の家々に「三人のうちの誰か一人でも見掛けませんでしたか?」と聞いて回らなかったのか。聞いていたら数名から「あれこの人、自殺した**さんにそっくり」と証言が出ていたはずと思うのですが。
以上、後出しじゃんけんで好き放題に書きましたが、犯人当てを真面目に楽しんでいるが故の愛と悔しさのさせる業ということでお許しを。何より楽しみにしている企画ですから、長く続けてもらいたいものです。
では。
以下、ブランクを数行入れておきます。
今回は完敗も完敗、かすりもしない大外れでした。
解決編を読んでみて、「分かるか~、そんなもん!」と壁に投げつけたい気分になったくだりが二、三箇所ありましたが、とてもよくできた犯人当て小説だったと関心もしました。
では何をテーマに語るのかといいますと、解答編を読んだ上で、素直にもしくは意地悪くいちゃもんを付けるとしたら、どういうことが言えるかをやってみようという、推理作家にとっては嫌な企画です(汗)。
とはいえそれだけではアンフェアな気がするので、まず、私が締め切り間際に送った推理をかいつまんで書いてみます。再度断っておきますが、今回、私の推理は大外れです。しかも全然詰め切れていないのに期限に合わせて無理矢理まとめた推理なので、強引にもほどがあります。その点をお含み置きの上、ご笑覧いただければちょっとは気が楽になります。
<外れ推理の概要>
犯人が現場を下見し、現場近くに防犯カメラがあることをステッカーで把握していたと仮定する。センサータイプの夜間灯が己の侵入に合わせて反応するのを、犯人はどう感じるか。夜間灯が点る度に数秒間撮影されると考えるのではないか。
その上で、「入るときは背中だからいいが、出るときはまずい。顔を隠しつつ、視野を確保できる物はないか」と考え、エアコンのフィルターの利用を思い付く。フィルターを顔の前に掲げれば、撮影されても個人の特定につながらないと信じて実行した。
翻って三名の容疑者は防犯カメラの存在を知らなかった。上記条件から外れるため、三名は犯人ではない。
では他に誰がいるか。被害者の住所を知り得る立場にあり、事前に被害者の住所を訪ねてもおかしくない人物。それは被害者の元妻、柚木峰代であろう。よりを戻したがっていた被害者は住所をすすんで教えたはずだし、合鍵も喜んで渡すに違いない。犯人は柚木峰代。
……とまあこんな具合でした。作中で明確に容疑者とされた三人を除外するために、先に仮定を決め付け、理屈を構築しているという無茶苦茶ぶりです。
さて、解答編。詳細な正解推理は雑誌を読んでいただくこととして、ロジックを大まかに抜き出して書くなら、
1.防犯カメラ映像から容疑者達は現場を下見していない → 2.犯人は元から被害者宅を知っていたはず → 3.犯人は被害者の部屋の前の(自殺したはずの)住人である
こんな具合になるかと思います。ここまでは多少強引ではあるものの、あり得べき推理になっていると私は感じました。というのも、部屋の鍵が施錠されていた事実を説明するには、前の住人が犯人というのが一番しっくりくるから。
ただし、文句を付けるのもまずはここから。
・前の住人が自殺したことになっているからといって、錠を付け替えないなんてことがあるのか。ましてや本文を読むと貸主は前の住人に渡した鍵を回収できていなかった節が窺える。普通は替えるのではないか。
次に疑問に感じたのは、自殺者の身元確認です。
・自殺未遂者が、担ぎ込まれた病院内で飛び降り自殺を果たした場合、こんなにもいい加減な身元確認しかしないのだろうか。死んだ男は借金苦だったと分かっているのだから、警察もある程度は事件性を疑い、突っ込んで調べようとするのでは。
もう一点。本作の最大の謎と言えるでしょう、エアコンのフィルターを犯人が持ち去った理由。
解答編によれば真実は――エアコンが前に住んでいたときのままだと知った犯人は、内部に自身の指紋や毛髪、皮脂などが残留しているのは危険だと考え、持ち去った――とのことですが。
・犯人は現場に一時間五十分ほど滞在した。現場に入るなりすぐにエアコンの危険性に気付いたなら、浴槽か流しに湯を張ってフィルターを沈め、洗剤をたっぷり投入して放置しておけば、指紋や汚れは落ちて証拠能力もなくなるのではないのか。※現場の部屋に風呂や流し台が付いていたかどうかは未確認
最後に一番納得できなかったことを。
警察は容疑者の顔写真を持って、アパートの古くからの住人や、その周辺の家々に「三人のうちの誰か一人でも見掛けませんでしたか?」と聞いて回らなかったのか。聞いていたら数名から「あれこの人、自殺した**さんにそっくり」と証言が出ていたはずと思うのですが。
以上、後出しじゃんけんで好き放題に書きましたが、犯人当てを真面目に楽しんでいるが故の愛と悔しさのさせる業ということでお許しを。何より楽しみにしている企画ですから、長く続けてもらいたいものです。
では。