第13話 ゴッドファーザーな話

文字数 2,235文字

 漫画「キャッツ・アイ」(北条司 集英社ジャンプコミックス他)をご存知の方は多いと思います。この作品の主役は誰かと問われたら、答は来生三姉妹の次女・瞳か、瞳とその恋人で刑事の内海俊夫の二人、あるいは来生三姉妹揃って主役という見方をする向きもあるかもしれません。
 その三姉妹の長女は泪ですが、この泪という漢字、人の名前には使えないことを知っているのは、どのくらいおられるのでしょうか。――私は知りませんでした(汗)。
 興味を持ったので調べてみると、名付けに使える漢字に制限が設けられたのは、昭和二十三年一月施行の法律からだそうで、これ以降に生まれた人は現在に至るまで、泪の字を下の名前に持つことはない、はず。そして人名文字として追加されない限り、今後もこの状態が続く。
 ならば「キャッツ・アイ」に泪という人物が登場せたのは作り手側のミスなのか。
 断定する前に、ちょっと立ち止まって考えてみる。名前に泪という字を使った人物が存在しうる状況はあります。その人物が昭和二十二年十二月三十一日以前生まれであれば、名前に泪が入っていても役所は受け付けるはずです。
 「キャッツ・アイ」の漫画誌での連載開始は一九八一年で、昭和で言うと五十六年になります。つまり、大まかに計算して三十四歳であれば「キャッツ・アイ」の物語世界において、泪は矛盾なく存在できることになる。
 では来生泪の年齢は?と思ってこれまた検索頼みで調べてみたのですが、どうやらはっきりした設定は出ていない模様です。三姉妹の初登場時の年齢で分かっているのは、次女の瞳が二十一~二十三歳、三女の愛が高校一年生とのこと。
 泪が三十四歳と仮定すると、次女や三女とやや離れているかなーと感じますが、一方で、あのキャラクターデザインを見ると、どうでしょう。私感では、二十代後半から四十代前半の間なら何らおかしくない印象を受けました。人によっては、いやいや五十代でもありでしょという方もいるかもしれませんが、泥棒稼業をこなすことを考慮し、若干厳しくなるとして四十代前半としておきます。まあ年齢の上限については本題とは無関係ですし。
 かような訳で、来生泪三十四歳説をここに唱えます。


 と、漫画の登場人物の名前について、あれこれ言ってきたのはもちろんミステリと関係があります。
 上に記したような考察に対しては、「作り話の登場人物の名前が日本の法律に則していないからと言って目くじらを立てる必要はないんじゃない?」という意見の方がおられることと思います。
 かくいう私も基本的には賛同してもよいと思っています。ただし、少なくともミステリのジャンルでは、目くじらを立てるべきだろうとも思っている訳で。
 何故かというと、登場人物の名前が手掛かりや伏線になり得るから。
 簡単な例を挙げると……令和元年、主人公の探偵を尋ねた依頼者が北条泪と名乗り、二十歳の大学生だと自己紹介した。主人公は依頼者が名前か年齢のいずれかを偽っていると考える。外見から七十歳オーバーとはさすがに思えないから、偽名だと判断。ネットチューバーのように活動ネームを名乗っただけというケースも考えられるので、これだけでは善し悪しを決め付けられない。運転免許証か何か身分証となる物を見せて欲しいと求める。すると依頼者は免許証を出してきた。そこにも「北条泪」とあったので、いよいよこれは悪質だと主人公は考える……と、このような展開が、登場人物名は法に則っていなくてもよいとしてしまうと、成り立たなくなります。
 単純に作り手として、これはもったいないと感じる。ミステリとしての仕掛けを狭めることのないよう、少なくともミステリのジャンルでは登場人物名に拘っていくべきだと思う次第です。


 さて、今回このような文章を書こうと思ったのには、きっかけがあります。
 ここではないよその小説投稿サイトで、とある作品を読み始めると、序盤も序盤で登場人物Aの下の名前に、人名には使えないとされている漢字が使われていました。
 このことを作者にお伝えすべきかどうかを考え始めた結果、迷っていまして。
 現状、小説投稿サイトで作品の短所やミス等を指摘する行為はNGとしているところが多いようです。今言及している作品があるサイトでも同じです。ただ、その作品の作者様は誤字の指摘を受け入れていますので、登場人物名について指摘するのも多分、問題ないと想像します。
 だったら何を迷うのかというと、このキャラクターAの名前が実は伏線だったという場合があるから。
 Aは、二十歳になる主人公B(多分人間)の幼馴染みとして登場しているので、常識的に考えればAも人間で、二十歳でしょう。
 これが物語終盤に差し掛かって、たとえば「実はAは人外で、明治初期から魂だけ生き続ける霊であり、名前はその伏線だったのだ!」なんていう展開が待っているとしたら、私が序盤で指摘するのはネタバレになってしまいます。この作品、そういう展開があってもおかしくない出だしですし。※当該サイトでは、読者の指摘は、作者の意向とは関係なしにいきなり公開状態になる仕様
 終わりまで読んで確認すればいいと思われるかもしれません。が、くだんの作品は連載中で、先はまだまだ長そうなのです。それに結構な長編だと、読み続けるには名前が気になって集中力が途切れそう。(^^;

 そんなこんなで、他の方ならどうするのか意見が窺えたらなと期待を込めつつ、結びとさせていただきます。
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