第14話 やめてよ、優ちゃん

文字数 2,032文字

 両手を背中に回し、ブラを外す。形の良いお椀型の乳房と見慣れたパンケーキ色の乳首が顔を出した。最後にバックレースのショーツを下げる。今夜のためにお手入れの行き届いたヘア。手抜きはない。三十路を越えて大人の女としては成熟した体だと思う。
 そこそこ自信はあるつもりだ。いや、ヤツに振られるまではあった。でも今はすっかり落ち込んでいる。
 わたしは脱いだショーツを持参したポーチに仕舞おうとして何気なくふと見ると、クロッチ部分が白く汚れている。エレベーターでのキス、それから玄関先でのアレ。自分でも濡れたことがわかるほどだった。
 手に取ってその汚れをじっと見つめる。あの西日の当たる部屋で、わたしは修二のパンツと自分のパンツの汚れ方を見比べたり、その匂いを嗅いだりしていた。あの時、パンツからはしょっぱく乾いた尿の匂いがした。あれ以来、そんな変態的な行為はしたことがなかった。今、恐る恐る自分の脱いだ下着をそっと鼻に当てがってみる。悪臭のはずが、なぜだろう。なぜか安心する匂いだ。
「ねえ、何してるの?」
 ハッとして振り向くと修二がワイングラスを両手に持ち、にやにやしながら立っていた。
「ねえ、優ちゃん、そんな癖があるの?」
 一瞬で頬が紅潮するのがわかった。
「わかるよ。自分の匂い、俺も嗅ぎたくなることあるから」
「そ、そんなんじゃないわ」
 でも言い訳はできない。とんでもないところを見られてしまった。
「気にしなくていいよ。ねえ、それ俺にも嗅がせて」
「ダメに決まってるでしょ! バカ」
 わたしは手に持ったショーツを慌てて丸めてポーチに押し込んだ。ふと修二の下半身が目に飛び込む。
「ちょっと、修二、何よそれ!」
 わたしは横を向いたままソレを指差して言った。
「そりゃそうでしょ。こんな美人といっしょにお風呂に入るんだから。元気にならないと逆に失礼だよ」
「う、うまいこと言うわね」
 パンツのことは忘れよう。事故だ。
「ねえ、それ何?」
「スパークリングワイン。安物だけどね。あとでお風呂に浸かりながら乾杯しようと思って」
「いいわね。でもそのお洒落なワイングラスとあんたの興奮したモノはどう考えても不釣合いよ」
 修二は笑っている。もうパンツの話題には触れなかった。ホッとする。
 そしてわたしたちはバスルームに入った。修二はワイングラスを出窓の縁にそっと置いた。わたしはバスタブに手を浸けて湯加減を見る。その間も修二はわたしの体をじっと見ている。
「ねえ、そんなにジロジロ見ないでよ。もうそんなに若くないんだからさ」
「そんなことない。とってもきれいだ」
「あ、ありがとう。たぶん修二にそう言ってもらえるのが一番嬉しいかも。でもどうせなら十年前に見てもらいたかったな」
 そう十年前ならあの時の彼女と同じぐらい。下着と言い、わたしはやはり心のどこかで彼女と、二十七年前の思い出の中の彼女と張り合っているのかもしれない。
「湯加減どう?」
「え、ああ、ちょうどいいわ」 
「よかった。入浴剤、入れようか?」
「ええ、お願い。わたしは先にシャワー使わせてもらうわね」
「使い方わかる?」
「ええたぶん」 
 ちょっと複雑な水栓の湯温設定を四十度に合わせ、止水レバーをシャワーに切り替えた。その途端にザーッとシャワーから温かいお湯が床に降り注ぐ。水圧は家のものとは比べ物にならない。
 シャワーヘッドには拡散機能からストレート機能に切り替えるレバーが付いている。これはお湯の勢いでマッサージできるタイプのやつだ。わたしは手にしたシャワーヘッドをストレートに切り替えて修二の方へ向けた。
 驚く修二。そして興奮した下半身目掛けて勢いよく熱いお湯を掛けてやった。さっきのパンツの仕返しだ。
「痛っ! やめてよ、優ちゃん」
「あはは」
「なんで笑うのさ」
「だって、その言い方、五才の時と変わってないから」
「よし、じゃあこうしてやる」
 修二はわたしの手からシャワーを奪い取ってわたしの胸に向けた。
「痛い!」
「ごめん。強すぎた」
 シャワーに切り替えて再びわたしに向けた。胸から腰、腰から下腹部へ。
「あぁ、あったかいわ」
 思わず声が出る。
「洗ってあげるよ。向こう向いて」
 わたしは素直に従う。修二はわたしの背後に立ち、シャワーで温かいお湯を掛けながらもう一方の手でやさしくわたしを洗った。胸も腰もおなかも、そしてお尻から股の間まで。背後から回した修二の長く細い指と手の平がピチャピチャと音を立ててわたしを隈なく洗う。
 修二はわたしのお尻から手を挿し入れて一番敏感な部分をやさしく擦り、すぐにその指がわたしの中にぬるりと入って来た。
「すごく濡れてるね」
「うん……」 
 わたしも右手を後ろに回し、腰に当たる塊をやさしく握る。
「ねえ、今度はわたしが洗ってあげる。四つん這いになってみて。(あの時みたいに……)」
「うん」
 修二はお尻をこちらに向けてその場で四つん這いになった。
                                  続く

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み