第22話 お母さんは息子と寝やしないわ

文字数 1,696文字

「ごめんよ、ヒロ姉ちゃん」
 修二はいい年をしてもう泣きそうな顔をしている。さっき二人だけの時に見せた男の顔とはぜんぜん違う。まるで子供だ。確かに放っておけないな、と思った。母性本能をとことんくすぐる。これはこれで逆に罪深い。
「ちょっと修二、わたしさっきここ来るまでに、今度生まれる子供は修二の子じゃないって聞いたけど、え? 何? 上のお子さんもそうなの? 二人ともあなたの子じゃないって、それホントなの? だとしたらどうしようもないおバカさんじゃない」
「うるせえよ、優子!」
「まあ、わたしには随分横柄な口の聞き方ね」
 ヒロ姉さんにはまったく頭が上がらないくせに、と言いたかったが、かわいそうなのでやめた。するとあろうことかとんでもないことを言う。
「素っ裸で両手両足おっぴろげて何もかも丸見えで言うなって」
 そうだった。わたしは依然として拘束されたままだ。急激に、ものすごく恥ずかしい。
「おっと、つい話しに夢中になって。気になってはいたんだけど。プレイ中だったわ。ゴメンすぐ外すね。でも続きはまたあとで」
 ヒロ姉さんはニヤニヤしながら手際よくベルトを外した。やっと体が軽くなった。
「少し冷えて来たから三人で風呂入らないか?」
 修二が言った。いい提案だ。修二にしては気が利いている。空調は整っているとはいえずっと全裸だと少し肌寒い。それにさっきのあの贅沢なお風呂ならもう一度入りたかった。
「いいわね。沸いてるの?」
「ああ、追い炊きで温度キープしてるから。ヒロ姉ちゃんも行こうよ」
「そうね、行きましょうか。お風呂で込み入った話もいいわ。それに三人で入るなんてちょっとドキドキするじゃない」
「薬入りのワインは無しで」
「あはは」
 わたしたちは笑いながらバスルームに向かった。

 
 お風呂はちょうど良い湯加減に保たれていた。
 わたしは修二に先に入るように促し、入ったところを見計らって、ヒロ姉さんより早く、修二の横に並んで入った。ヒロ姉さんは唇を尖がらせて拗ね顔になったが、すぐ、にこりと笑って私たちの向かい側に浸かった。わたしは心の中でペロリと舌を出す。
 修二の体と再び密着していた。三人の足が絡む。明るい照明の下、ヒロ姉さんのマネキン人形みたいなデルタゾーンがわたしの目を惹く。わたしの中の淫靡な炎は、まだチロチロと燃えている。でもヒロ姉さんはそんな気分を打ち消すように、わたしたちをじっと見ながら口を開いた。
「ああ、温かいわ。えっと、まあ三人ともこんな格好でお話するようなことじゃないんだけどね、ここならもっと腹を割って話もできるでしょ。で、さっきの続きね、わたしね、この子にすぐDNA鑑定しろって言ったのよ。ただオロオロしてるだけだったから」
「それで検査結果は?」
「間違いなく修坊の子供じゃないってわかったわ」
「ひどい女ね。それでもうこちらには来ないって言ってたのね」
「ああ。だから俺ももうあっちには未練もない。今離婚協議中さ。間もなく結論が出る」
「でも修二、あっちで家買ったって言ってなかった? ローンとか残っているんじゃないの?」
「確かに。離婚成立しても半分は払わなくちゃならない」
「ややこしそうなお話ね」
「聞いて、優子ちゃん。それ、わたしがきれいさっぱりと肩代わりしてあげるって言ったの。離婚の費用も含めてね」
「ええ? ヒロ姉さんが? ちなみにおいくらぐらい?」
「まあ修二の負担は半分で二千万もあれば十分でしょ」
「大金じゃない! 修二があなたの下僕になってもおかしくないわねえ。でもなんでヒロ姉さんが?」
「そこまでしてあげるのかってこと? だってわたしも修坊に負けず劣らずお人好しなのよ。それにね、これは恩返しのつもり」
「やっぱりヒロ姉さん、修二のことすごく愛しているのね」
「そうかもね。乳飲み子の頃からわたしずっと修二の面倒看てきたのよ。だからそれぐらいすると思わない?」
「それってもうお母さんね」
「あはは、確かに戸籍上もそうなっているけど、でも、普通、お母さんは息子と寝やしないわ」
 わたしは思わず噴出しそうになった。
                                 続く
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