4、学習内容契約

文字数 2,870文字

 五大家(ごだいけ)の事や、花家(はないえ)のことが書いてありそうな題名の本を、棚から引き出す。取り()えず、出した本は、いつも勉強に使用している机の上に乗せていく。一通り探し終わり、机の上を見た感想を呟いてみる。

「以外と多いな……まぁ、いっか」

 机とセットの椅子に座って、一番上に乗せてある本を手に取る。目次を確認し、調べたいことが書いてある(ページ)まで(めく)る。
 あった……花家についてだ。イラスト付きの分かり(やす)い説明のお陰か、内容がスルスルと頭に入ってきた……理解したとは言っていないが。

 花家(はないえ)は基本的に派生しており、五大家に属している花家が多い。しかし、五大家の庇護下から出て、家の花を(もと)にした家を創った花家もある。現在は、後者の方が花家と呼ばれている。

 ……なるほど? って事は、現在進行形の花家間での争いとやらは、五大家に属していない花家同士が、戦争しているってことか。無所属だと、何か悪いことがあるのか? 考えてみたら、すぐにデメリットを思いついた。
 ()ず、五大家レベルの家が攻撃してきたら死ぬ。でも、五大家のどれか一つに所属していれば、守って貰えて、攻撃してきた家に仕返しをすることも可能になる。という事は……現在の花家同士の戦争の場合、五大家配下に入れば、敵の花家は手出し出来なくなる。
 配下に入っていない場合は、どちらかが絶家になるか全滅する迄、戦うことになるって訳だ。もう一つ可能性があるとすれば、戦いの途中に五大家のどれか一家の配下に入って、相手を消すって方法か……タイミング良く行けば、可能だな。

 庇護下に居ない単独の花家からすれば、争いに巻き込まれていない状態で五大家の配下に入れれば、万々歳。争いに巻き込まれたら貧乏くじ……とすると、(れい)露草家(つゆくさけ)の場合は、ギリギリセーフ……なのか? いや、知り合いの花家は助からなかったって言っていたし……でも、連れて行かれた火陽家での扱いが悪くなければ、結果オーライ?

 そういえば、最近習ったな……花家を含む、他家を配下に入れる手順。お互いに承認して、契約? 縛りを作って、領地に入ったら縛りが消える……みたいなやつ。なんか青帆(はるほ)が、これは絶対に覚えておけ──とか言ってたっけ? この間のテストにあったかも、答え書けてなかったから、覚えてないや。
 何処かに書いていないだろうかと、(ページ)をパラパラと(めく)る。ふと、契約という題名の頁を見つけたので手を止め、書いてある内容を読んでんみた。

 1、約束を守らせるには、契約が必要である。

 2、契約により、力の強い者が弱い者を縛ることが出来る。

 3、契約は、力の強い者が弱い者の命を握ることで成立する。

 4、契約期間には上限があり、期日を過ぎると、お互いに何らかの負荷がかかる。負荷の強さは、お互いの力の差で決まる。最悪の場合、死に至ることもある。

 5、契約継続期間は、力の強い者が決めることが出来る。しかし、契約自体、縛る側に負荷がかかるので、長ければ長いほど負荷がかかる。逆に、短い期間であれば負荷は少ない。この際、縛られる側に生じる負荷は無い。

 6、契約を一方的に破棄した場合、重度の負荷がかかる。命を握っているので、弱い者が自ら破棄した場合、強い者に重度の負荷がかかり、弱い者の死亡 は(まぬが)れない。強い者が破棄した場合も、同じである。契約内容から逸れた時に、自動的に破棄と見做(みな)される。

 7、契約の解除、無効化には、契約を結んだ際に決めた契約事項を、クリアする事が必須である。契約事項の設定をクリア出来ずに、契約期間が終わった場合は……4の通りである。設定をクリアせずに、契約を破棄した場合は……6の通りである。
 注意、この説明で用いた「力」が指すものは、蕾花能力(らいかのうりょく)の事である。

 蕾花能力とは、花、自然などを自在に操る能力の総称だ。花家なら、〇〇家の〇〇に入る花に関する能力を持っていて、水園家(うち)でいうと、氷雪家(ひょうせつけ)や、青雫気配(あおしずくけ)雨水家(うすいけ)などの自然家に分類される家の者も、それぞれの家名に関する能力を持っている。

 しかし、他人の蕾花能力を知っている人は限られている。蕾花能力は、自分の命を守る最終手段のような物の為、人の上に立つ偉い立場の人しか知らないのだ。そのため、僕は家族の能力を知らない。
 はっきり言うと、家長以外は自分以外の能力内容を知らないのだ。家長でも、自分の家の者以外の能力は知らない。つまり、水園家全員の蕾花能力の内容を知っているのは、父上だけなのである。

 ざっくり読んでみたけど……ちょっとよく解らない。強い者が勝つって事で、まとめで良いのか?
 ちゃんと理解する為に、何度か読み直すうちに理解した。授業中に青帆(はるほ)が言っている事を、殆ど聞いていなかった為、契約が、どんなものかを理解した瞬間、驚きと恐怖が入り混じった感情に、押し潰されそうになった。

 蕾花能力(らいかのうりょく)の強弱については定義不明だが、契約は能力が強い方に主導権が発生するようだ。しかも契約には、お互いの命をかけなければならない。お互いに信頼できる相手とじゃなければ、こんな契約なんて結びたくない!

 (れい)は、この事を知っていて、父上と契約を結んだのか……自分の家族と家を護る為に、自らの命を賭ける……それが、家長の務めなのだろうか。自分には、到底真似出来そうにない。この務めを果たせる器を持っている父上と兄上は、凄いのだと改めて尊敬した。既に家長の(れい)や、深雪(みゆき)のことも、心の底から凄いと思った。

 昔から2人は、自分には無いものを持っている気がしていた。その正体は()れだったのだと、()に落ちる。

 自分の命に変えても護りたいのものなんて、今の僕には無い。父上にとっての水園家の家族みたいな、何があっても護り、どんな状況でも一番に考え、何をしても愛を持って接する……いつか、そんな存在が自分にも出来るのだろうか?

 ふと、頭に一抹(いちまつ)の不安がよぎった。(れい)は、近所の花家も水園家(うち)に救出して貰う予定だったと言っていた。父上が、(れい)露草家(つゆくさけ)と近所の花家、二つと契約を結んでいた場合、火陽家に連れ去られた花家との契約はどうなるのだろう?

 この本の通りなら、契約内容をクリアをしない限り、父上に負荷がかかり続けることになる。それに、契約継続期間の上限を過ぎても、契約内容をクリア出来なかった場合は父上に重度の負荷がかかって、火陽家に連れ去られた花家の者は、恐らく死ぬ。五大家の一つと無所属の花家……力の差は、言うまでも無い。

 仮に、契約を破棄した場合でも、結果は同じになる。そうなると、契約内容を何としてでも成立させる必要がある。父上は、家族を大切にしている。契約を結んだ時点で相手を家族だと認識している筈だ。それに……父上は、家族を絶対に護ろうとするだろう。

 一つの可能性として、父上が(れい)と契約を結び、(れい)が、その花家と契約を結んでいたとしても……(れい)露草家(つゆくさけ)は、無所属の花家の中では、上位に入るレベルの力があるから、結論は同じ……か。ちょっと待って? まさか……!

 僕は気づいてしまったのだ。母上が火陽家(ひようけ)に行く……いや、行かなければならない理由に。
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