20、守れない自分
文字数 5,132文字
「は……?」
釣られて深雪 達も空を見上げた。ツタに包まれた土の中には、爆発する物体が含まれている。そんな物が、あんなに沢山……水園家領 に降ってくるのか?
不味い、非常に不味い。着弾まで、あと何秒だ? 防御は有効か? 数多くの不安要素を検討している時間など無い。とにかく手を尽くさねば。頭は、水園家の家族を護らなければ! という必死な気持ちに支配されていく。迷っている場合では無い、急げ、まだ間に合う。
乱暴にイヤリングを耳からむしり取って、両手で握り込み、蕾花の溢れ出ている力を半球状にするイメージを籠 めた。全身から力が抜けていく感覚と共に激しい頭痛がするが、イメージを崩さないよう、更に集中する。耳鳴りが激しく、意識が揺らいできた。蕾花力の青い光が失せた頃、やっと体から抜き取られていく感覚がなくなった。
関節はズキズキと痛み、直後、目眩に襲われて倒れ込んだ。そして私は、視界に映った空を見て息を吐いた。半球体の水の結界が、ボヤけた空を映していた……どうやら成功したようだ。
蕾花力を使い過ぎたのか、体は不調を訴えているが、一人で水園領を護る結界を張れたことに、喜びと安堵 を覚えていた。しかし、そんな気持ちは、事態の変化に抹消 された。
草球のツタが次々に解け、バラバラと中の土が水の結界に落ちて水を濁していくのだ。数秒と持たずに水の結界は破れ、球体の金属らしき物が降って来た。私の足下で爆ぜた物と同じ物だろう。私を吹き飛ばした金属球が爆ぜた場所には、直径約二メートルの窪みが出来ている。
蕾花力は殆ど残っていない。回復するまで、最低でも三日はかかるだろう。空を埋め尽くす量の球から、水園家領を護る術は無かった。この場に居るものだけを攻撃から護る事しか出来ないと判断したのか、深雪は澪 に駆け寄りながら、淡雪 に命じた。
「淡雪! 流水を護れ!」
淡雪と深雪が盾を展開させた瞬間、目が眩 む程の光が、視界を支配した。
明るく青い空に、強く輝く星が、空の中から飛び出して落ちていくー。光に包まれる一瞬前に見た景色は、恐ろしさと、美しさに溢れていた。
耳を劈 く爆発音が重なり合って、聴くに耐えない耳障りなメロディーを奏でている。これは、破壊の音だ。まだ昼前な時間帯で、領民は外で活動している筈。なのに……こんなのが、人に直撃したら……。
空を埋め尽くさんばかりの量があったのだ。一つや二つくらい、間違いなく人に当たるだろう。家や畑などは、崩壊するに決まっている。家の中に居たとしても、軽傷で済む保証は無い。
誰だ……何処の家なんだ、こんなことをするのは……弱い者いじめじゃないか、水園家は最下位で無害だ。こんな……こんなことをしたって、何も良いことなんか無いだろう? 私は、自分の無力さと、こんな仕打ちをした家の奴に、胸の底から怒りが沸き上がっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どのくらいの時間が経ったのだろうか。いつの間にか音が消えていた。
「そろそろ、大丈夫ですかね……」
淡雪は、そう呟いて、かまくらを溶かした。
青い空から降り注ぐ陽光は普段と変わらず、私を優しく包んだ。変わったのは、柔らかな光に照らされた景色だけだった。あちこちから煙が立っていて、地面は窪みだらけ……だというのに、不思議と人の声は聞こえなかった。
不気味なくらい静かで、目の前の惨状は、私以外、誰も知らないような、ここには自分しか居なくて、自分だけが生き残ってしまったというような不安に、体が竦 んだ。
「流水……良かった……とは言えないけど、大丈夫?」
「深雪、澪……」
静寂に呑み込まれて、消えてしまいそうな心細さを感じていた私に、心地よくて安心感のある、落ち着いた深雪の声が届いた。深雪の背後で、忙しなく辺りを見回している澪もいる。
落ち着きを取り戻した私は、状況把握をする為に、丘の天辺 に登って領全体を見渡した。
簡潔に表現すると、崩壊。
見える畑の緑は荒れ、舗装路 は、でこぼこになっている。建ち並んでいたはずの家々も、屋根が落ちたり、壁が無くなっていたりと、ボロボロになっていた。人らしき影は見当たらず、瓦礫 の上に出現する泡が、時々見当たるくらいだった。あまりにも酷い惨状に私の心は掻き乱され、正気を失いかけたまま、独り言を吐き出した。
「……雫、雫に……どうにかしなきゃ……!」
その泡には見覚えがあった。青雫家 の特出能力……治癒水 の使用後に、発生して居るのを見たことがあるのだ。そう、あれは母上救出の時、兄上の怪我を雫が蕾花力で癒していた時に出ていた泡だった。
とある一箇所の泡を目指し、飛ぼうとして地面に突っ伏した。蕾花力を切らしていた事を思い出して急いで立ち上がり、一気に加速して丘を駆け下りた。泡が出ていた場所に辿り着くと、偶然にも雫が居た。
頭と腹部、脚から血が滲 んでいたが、本人の様子は普段と変わらず、私に気がつくと、怪我人を丁寧に寝かせてから立ち上がり、呆れたような溜息をついた。
「はぁ……水様、無茶しないで下さいよね。青水河 の結界を一人で張るなんて、無謀 にも程があります。深雪さんも一緒だった筈ですよね? 氷壁 の結界の方が、今回の件には向いていましたよ?」
「ご……すまない。咄嗟 というか……その、慌てて……判断を間違えた……」
こんな非常事態でも、普段と変わらない雰囲気の雫に安堵感を覚えつつ、反省する。
「まぁ、こんなの初めてですし……それより、報告です。花家 の者は、大抵が軽傷で済んだようなんですが……無名家の被害が多く報告されています。出来る限り手当していますが、雨水家と青雫家だけでは、正直回りきれないかと……」
命令を仰ぐような言い方に、雫が私に言わせたいことを汲み取る。
「分かった。動ける花家に、怪我人を運ぶように言っておこう。場所はー水の塔 でいいか?」
「はい、お願いします。総員、水の塔に集合。運ばれた怪我人の重度順に手当だ。雨水家の者で蕾花力に余裕のある者は、慈雨 を使用し、領全体の修復と回復を試みよ。以上、行動開始」
どうやら、当たりのようで安心した。雫は、この間と同じ様に眼鏡を通じて、其々 の場所に指示を出したようだ。一応言っておこうと思い、私は雫に今後の行動予定を伝える。
「雫、私は一旦水の塔に戻り、待機する。今回の攻撃は、完全な宣戦布告だ。何処の家がやったのか調べる」
「了解です。私は、まだ蕾花力があるので、連れて行って差し上げますよ……執務室で宜しいですか?」
分かっていますよ、とでも言いたげな表情で、私に手を差し伸べてくる雫。蕾花力が尽きているので、仕方無しに、私は雫の手をとるのだった。
雫に運んで貰いつつ、各花家 に連絡を取った。雫の連絡水玉を応用して、各家に有る水鏡に繋いで貰ったのだ。一通りの花家に、怪我人を水の塔に運ぶように伝えると、快 く承諾 してくれた。数分間空を飛んで、水の塔 に着くと、既に庭は怪我人で埋め尽くされていた。
手当てに駆け回る青雫家や雨水家の人が、忙 しなく行き交っており、そこかしこから蕾花力を感じる。雫は、傷に一回治癒水 の水玉を被せれば、放置してても傷を治すことが出来るが、青雫家全員がそういう訳ではないようで、治療中の怪我人の側を、中々離れる事が出来ない者も居るようだった。
雫に運ばれながら庭を見下ろして、様々な怪我を負った民を、目に収めた。取り敢えず置いたというような状態の怪我人達は、酷い有り様だった。怪我人の中に、蕾花 の枯れた死体も混ざって居るようだったが、運ばれて来た時には息があったのかもしれない。右側の下半身がごっそり無くなっているあの人は、金属が近くで弾けたのだろう。あの威力が人体に直撃したら、跡形も無くなる。
護れなかった家族達……頭は、その姿で埋まっていった。そんな庭の景色を見え難 くしようと思ったのか、雫が私を引き寄せた。気遣 わなくてても大丈夫だ。と雫から離れると、雫はスピードを上げて、私を執務室の窓から部屋に放り込んだ。
「最後だけ乱暴だな……」
「なんとでも言ってください。私は未だ仕事があるので、ひと段落したら戻りますね」
行ってらっしゃいと手を振ってみるが、雫は、それを見るなり不機嫌そうに口を歪め、窓枠から飛び立っていった。私の従者役と、青雫家 の家長を兼任 するのは大変だろうに、よく頑張っているよなぁ雫は。雫への、ちょっとした不満を褒め言葉に変えて、自分も頑張らなければいけないな、と思う。
既に失ってしまったものは沢山ある……しかし、また護れなかったなどと、後悔や自責に浸って居る場合では無い。下手をしたら、既に五大家同士の争いが始まって居るのかもしれないのだ。
まずは、あの攻撃の仕掛けを理解する必要があると思い、自室の書物を漁ってみるが、目ぼしいものが見つからなかったので、父上の部屋……前執務室へ行き、棚の書物を物色 した。
「やはり、あの金属球は金城家の物か……」
父上の部屋にあった書物には、金属球の仕組みや構造についてが記されていた。金城家 には、五大家其々 に特効な爆弾が有るらしく、水園家には、水に反応して爆発する火薬を使った爆弾で、攻撃するようだ。
成る程……水で攻撃して金属人形が爆発したのは、この爆弾が仕込まれていたからか。青水河 への攻撃も金城家の仕業だとすると、金属人形が土を操れたのは何故か、という疑問が生じる。金城家と豊土家 は、グル? ……しかし、父上の日記によると、水園家と交流があった五大家は、緑木家 と火陽家 のみだったと記されていた。豊土家や金城家が、水園家を詳しく知っているのは不自然だ。
今日降って来たのは、一見すると草玉だった……そうか、ツタだ。植物を操れるのは緑木家だ。緑木家が、金城家と豊土家に情報をリークしたのなら、あの襲撃は可能になる。
父上が緑木家当主と、どのような関係だったかは詳しく書かれていなかったが、家に有る書物の大半が緑木家から譲り受けた物だ、とは書いてあった。割と初期の頃は友好関係にあったのだろう。
ふと、蕾花力を感じて、ある一冊の本を手に取った。黒革のカバーは、青と緑、赤に琥珀の宝石や、金で彩られている……水園家 に有る本にしては、豪華な本だ。銀で縁取られた表紙の角には其々の宝石がはまっており、中心には大きな青い宝石が輝いていた。
「……この五個の宝石……ひょっとして、五大家の各象徴? 何故中心が水園家なんだ?」
違和感を覚えながら本を開くと、中身の鮮やかさに圧倒された。美しい色彩で五大家が表現されており、五つの家が生まれた経緯について記されているようだった。
「創生の、女神? 魔法の……なんだ? 髪? いや、体か? ……花を、持って、髪から……自然が……うん、読めない」
難しい昔の文字で書かれている歴史は、知識のない自分には、解読不可能だった。所々理解出来る単語と挿絵で、なんとか理解しようと試みたが、結局のところ全ての理解には及ばなかった。
花と、沢山の文字で埋め尽くされたページや、何かの手順らしきものが記されたページなど、様々なことが書かれているようだった。どれも、五大家や花家に関することだと言うことだけは、挿絵からなんとなく読み取れた。
「なんか、凄い本なんだな……」
本の内容が理解できなかった為か、本に対する興味が薄れた私は、その一言で片付けて、他の書物を手に取った。その後も色々と、手当たり次第に棚から本を取り出しては読破していった。
「やっぱりここに居ましたか……水様、一通りの手当が終了しました……何してるんですか?」
「……雫、お帰り、お疲れ様。見てくれ、凄い本を見つけたんだ」
と、出しっ放しの本の山から、黒革宝石の本を雫に渡す。
「これは、珍しいですね。このような本が、水園家に有るとは……歴史書物じゃないですかね? 大抵は五大家トップに有る筈なんですが……」
「そうだな……私達には過ぎた代物 だ」
「ところで、こんな時間になるまで本を読んでたんですか?」
雫に指摘されて辺りを見回すと、部屋は薄暗くなっており、窓の外は、すっかり暗くなっていた。呆れたような溜息を吐いた雫が、続けて言う。
「はあ、全く……私に言われないと何もしないんですから、困りものですよ……明日も忙しいんですから、さっさと食事に風呂、済ませちゃって下さいね」
「ああ、分かった」
私は出した本を全て棚に戻し、父上の部屋を後にした。五大家トップにある筈の歴史書物……真中に飾られた水園家の象徴である青い宝石……まさか……いや、そんなことは……考えすぎだな。考えついた一つの可能性を、烏滸 がましいと否定して、自室へと戻るのだった。
釣られて
不味い、非常に不味い。着弾まで、あと何秒だ? 防御は有効か? 数多くの不安要素を検討している時間など無い。とにかく手を尽くさねば。頭は、水園家の家族を護らなければ! という必死な気持ちに支配されていく。迷っている場合では無い、急げ、まだ間に合う。
乱暴にイヤリングを耳からむしり取って、両手で握り込み、蕾花の溢れ出ている力を半球状にするイメージを
関節はズキズキと痛み、直後、目眩に襲われて倒れ込んだ。そして私は、視界に映った空を見て息を吐いた。半球体の水の結界が、ボヤけた空を映していた……どうやら成功したようだ。
蕾花力を使い過ぎたのか、体は不調を訴えているが、一人で水園領を護る結界を張れたことに、喜びと
草球のツタが次々に解け、バラバラと中の土が水の結界に落ちて水を濁していくのだ。数秒と持たずに水の結界は破れ、球体の金属らしき物が降って来た。私の足下で爆ぜた物と同じ物だろう。私を吹き飛ばした金属球が爆ぜた場所には、直径約二メートルの窪みが出来ている。
蕾花力は殆ど残っていない。回復するまで、最低でも三日はかかるだろう。空を埋め尽くす量の球から、水園家領を護る術は無かった。この場に居るものだけを攻撃から護る事しか出来ないと判断したのか、深雪は
「淡雪! 流水を護れ!」
淡雪と深雪が盾を展開させた瞬間、目が
明るく青い空に、強く輝く星が、空の中から飛び出して落ちていくー。光に包まれる一瞬前に見た景色は、恐ろしさと、美しさに溢れていた。
耳を
空を埋め尽くさんばかりの量があったのだ。一つや二つくらい、間違いなく人に当たるだろう。家や畑などは、崩壊するに決まっている。家の中に居たとしても、軽傷で済む保証は無い。
誰だ……何処の家なんだ、こんなことをするのは……弱い者いじめじゃないか、水園家は最下位で無害だ。こんな……こんなことをしたって、何も良いことなんか無いだろう? 私は、自分の無力さと、こんな仕打ちをした家の奴に、胸の底から怒りが沸き上がっていた。
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どのくらいの時間が経ったのだろうか。いつの間にか音が消えていた。
「そろそろ、大丈夫ですかね……」
淡雪は、そう呟いて、かまくらを溶かした。
青い空から降り注ぐ陽光は普段と変わらず、私を優しく包んだ。変わったのは、柔らかな光に照らされた景色だけだった。あちこちから煙が立っていて、地面は窪みだらけ……だというのに、不思議と人の声は聞こえなかった。
不気味なくらい静かで、目の前の惨状は、私以外、誰も知らないような、ここには自分しか居なくて、自分だけが生き残ってしまったというような不安に、体が
「流水……良かった……とは言えないけど、大丈夫?」
「深雪、澪……」
静寂に呑み込まれて、消えてしまいそうな心細さを感じていた私に、心地よくて安心感のある、落ち着いた深雪の声が届いた。深雪の背後で、忙しなく辺りを見回している澪もいる。
落ち着きを取り戻した私は、状況把握をする為に、丘の
簡潔に表現すると、崩壊。
見える畑の緑は荒れ、
「……雫、雫に……どうにかしなきゃ……!」
その泡には見覚えがあった。
とある一箇所の泡を目指し、飛ぼうとして地面に突っ伏した。蕾花力を切らしていた事を思い出して急いで立ち上がり、一気に加速して丘を駆け下りた。泡が出ていた場所に辿り着くと、偶然にも雫が居た。
頭と腹部、脚から血が
「はぁ……水様、無茶しないで下さいよね。
「ご……すまない。
こんな非常事態でも、普段と変わらない雰囲気の雫に安堵感を覚えつつ、反省する。
「まぁ、こんなの初めてですし……それより、報告です。
命令を仰ぐような言い方に、雫が私に言わせたいことを汲み取る。
「分かった。動ける花家に、怪我人を運ぶように言っておこう。場所はー
「はい、お願いします。総員、水の塔に集合。運ばれた怪我人の重度順に手当だ。雨水家の者で蕾花力に余裕のある者は、
どうやら、当たりのようで安心した。雫は、この間と同じ様に眼鏡を通じて、
「雫、私は一旦水の塔に戻り、待機する。今回の攻撃は、完全な宣戦布告だ。何処の家がやったのか調べる」
「了解です。私は、まだ蕾花力があるので、連れて行って差し上げますよ……執務室で宜しいですか?」
分かっていますよ、とでも言いたげな表情で、私に手を差し伸べてくる雫。蕾花力が尽きているので、仕方無しに、私は雫の手をとるのだった。
雫に運んで貰いつつ、各
手当てに駆け回る青雫家や雨水家の人が、
雫に運ばれながら庭を見下ろして、様々な怪我を負った民を、目に収めた。取り敢えず置いたというような状態の怪我人達は、酷い有り様だった。怪我人の中に、
護れなかった家族達……頭は、その姿で埋まっていった。そんな庭の景色を見え
「最後だけ乱暴だな……」
「なんとでも言ってください。私は未だ仕事があるので、ひと段落したら戻りますね」
行ってらっしゃいと手を振ってみるが、雫は、それを見るなり不機嫌そうに口を歪め、窓枠から飛び立っていった。私の従者役と、
既に失ってしまったものは沢山ある……しかし、また護れなかったなどと、後悔や自責に浸って居る場合では無い。下手をしたら、既に五大家同士の争いが始まって居るのかもしれないのだ。
まずは、あの攻撃の仕掛けを理解する必要があると思い、自室の書物を漁ってみるが、目ぼしいものが見つからなかったので、父上の部屋……前執務室へ行き、棚の書物を
「やはり、あの金属球は金城家の物か……」
父上の部屋にあった書物には、金属球の仕組みや構造についてが記されていた。
成る程……水で攻撃して金属人形が爆発したのは、この爆弾が仕込まれていたからか。
今日降って来たのは、一見すると草玉だった……そうか、ツタだ。植物を操れるのは緑木家だ。緑木家が、金城家と豊土家に情報をリークしたのなら、あの襲撃は可能になる。
父上が緑木家当主と、どのような関係だったかは詳しく書かれていなかったが、家に有る書物の大半が緑木家から譲り受けた物だ、とは書いてあった。割と初期の頃は友好関係にあったのだろう。
ふと、蕾花力を感じて、ある一冊の本を手に取った。黒革のカバーは、青と緑、赤に琥珀の宝石や、金で彩られている……
「……この五個の宝石……ひょっとして、五大家の各象徴? 何故中心が水園家なんだ?」
違和感を覚えながら本を開くと、中身の鮮やかさに圧倒された。美しい色彩で五大家が表現されており、五つの家が生まれた経緯について記されているようだった。
「創生の、女神? 魔法の……なんだ? 髪? いや、体か? ……花を、持って、髪から……自然が……うん、読めない」
難しい昔の文字で書かれている歴史は、知識のない自分には、解読不可能だった。所々理解出来る単語と挿絵で、なんとか理解しようと試みたが、結局のところ全ての理解には及ばなかった。
花と、沢山の文字で埋め尽くされたページや、何かの手順らしきものが記されたページなど、様々なことが書かれているようだった。どれも、五大家や花家に関することだと言うことだけは、挿絵からなんとなく読み取れた。
「なんか、凄い本なんだな……」
本の内容が理解できなかった為か、本に対する興味が薄れた私は、その一言で片付けて、他の書物を手に取った。その後も色々と、手当たり次第に棚から本を取り出しては読破していった。
「やっぱりここに居ましたか……水様、一通りの手当が終了しました……何してるんですか?」
「……雫、お帰り、お疲れ様。見てくれ、凄い本を見つけたんだ」
と、出しっ放しの本の山から、黒革宝石の本を雫に渡す。
「これは、珍しいですね。このような本が、水園家に有るとは……歴史書物じゃないですかね? 大抵は五大家トップに有る筈なんですが……」
「そうだな……私達には過ぎた
「ところで、こんな時間になるまで本を読んでたんですか?」
雫に指摘されて辺りを見回すと、部屋は薄暗くなっており、窓の外は、すっかり暗くなっていた。呆れたような溜息を吐いた雫が、続けて言う。
「はあ、全く……私に言われないと何もしないんですから、困りものですよ……明日も忙しいんですから、さっさと食事に風呂、済ませちゃって下さいね」
「ああ、分かった」
私は出した本を全て棚に戻し、父上の部屋を後にした。五大家トップにある筈の歴史書物……真中に飾られた水園家の象徴である青い宝石……まさか……いや、そんなことは……考えすぎだな。考えついた一つの可能性を、