24、虹と雫と
文字数 3,289文字
「
「
「
「既に五回も使用している……
「……問題ありません。交代で降らせておりますので、一人一人の負担は少ないかと」
「分かった、許可する。それと、食堂にメイド達が料理を運んでくれた。外の怪我人達に与えくれと頼んでおいた。雫達は休め、夕食、ゆっくり食べろよ。あと、そっちに行くから、ちょっと待ってくれ」
雫の顔が映る水鏡に足を踏み入れ、水鏡の水深を超え、吸い込まれるように沈んでいった。水に濡れた感覚は無いが、体の力を抜かれるような引力に引っ張られた後、視界が開けた。辿り着いた庭の池から、私は蕾花を使って浮き上がり、地面に降り立った。水鏡を通さずに見る雫の顔には、疲労の色が
「やっぱ凄いですね、水様の
「水が無いと使えないんだ。風呂に入った筈の人が、いきなり消えたら怪しまれるだろ。手札はなるべく残しておきたいんだ。それと雫、顔色が悪いぞ? ちゃんと休憩したほうが……」
「大丈夫ですよ? それに、私は……っぐ……」
夕日に当たっているというのに、雫の顔色は
「雫! ……大丈夫か?」
「
作り笑いで
「大丈夫じゃ無いだろ。私が手当てしてやるから、大人しくして……」
「自分で出来ますって! やって貰って、水様が失敗でもしたら、どう責任取ってくれるんですか、治癒水を使えばちょちょいの……ゔ、ぐ……ゴホッ!」
私から逃げて蕾花能力を使おうとした雫は、再び
「蕾花の使いすぎだ。休憩取らずに働いただろ」
私は、無理やり立ち上がろうとした雫を支えるため、手を差し出すが、雫は私の手を取らずに顔をおさえ、痛みを堪えるような表情で立ち上がった。
「ぐ……ゲッほ……眼鏡の通信、切るわけにはいかないので……それだけは、使いっ放しでした。休憩は取ってましたよ……ちゃんと」
「……そうか……雫の能力を、私が使えれば良いのだが……」
唸る私を他所に、雫は
「……じゃあ、今教えますよ」
視線を戻し、真剣な瞳で私を見据える雫は、
「蕾花能力は、イメージが全てです。とにかくイメージ、傷を塞ぐイメージをして水を出すんです……やってみて下さい。てか、この出血は何処に傷が出来たのかとか、判らないんですけどね」
「……分かった、やってみる」
イメージ、か……イメージ……眼球か
蕾花力を雫に流し入れていくイメージで水玉を出現させ、とにかく塞ぐ繋ぐ戻す、をイメージして集中すると、水玉が淡い青緑の光を帯びだした。水玉の中から、外へと気泡が立つ。水玉を抜けた気泡は、シャボン玉のようになって、
「えと、これでいいのか?」
雫は、
「凄いですね……
嬉々として眼鏡を外し、顔を突き出してくる雫に
「うわっ! ……な、何したんですか水様? 目が……」
と、不思議そうに左眼を手で隠し、右眼をぱちぱちとさせる雫。
「えっ、すまない、なんかマズったか?」
「いえ……そうじゃありません、ただ……傷を治すどころか、視力まで回復しているんですよ……」
「え……よかったじゃないか?」
真剣な表情で、更に近づいてくる雫は、瞳を輝かせて頼んできた。
「水様、左眼も、お願いします……!」
「あ、うん……分かった」
お願いされた通りに左眼も治してやると、雫の視力は両目とも完全に回復したらしい。眼鏡を握り締めて喜びを味わっている雫に、忘れていたことを伝える。
「……雫、私、水園家にいる蕾花能力者の能力を、全て使えるようになりたいんだが……可能、だろうか?」
「可能ですとも! 水様は凄いですよ! 私が何度やっても治せなかった視力を、一回で治したんですから! 雨水家の特出能力も、氷雪家の特出能力もマスター出来ると思います! あ、すみません、つい熱くなりました。仕事、戻りますね」
雫は、キラキラとした
「……あ、私も行く。手伝う……能力、使えるようになったから、役に立つ筈だ」
「勿論です。ただ、それだけでは、水様のクソでか蕾花には向いていないので、慈雨も会得しましょうね」
「……あぁ、あぁ! もちろん!」
私は、雫を休ませるという本来の目的も忘れ、
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慈雨、雨雲など、雨水家の特出能力をあっという間に会得した私は、雫から教えてもらった治癒水と慈雨を同時に使用する事を考えた。常人なら、慈雨は単体でしか使えないらしいが、蕾花力が強大な私なら出来るだろうと思い、やってみることにした。結果的に、
オレンジに染まった空に、
「水様……私達が要らなくなるような威力を一回で出せるのなら、もっと早くに会得しておいて欲しかったです」
「えっと、すまない……」
「水様が色々な特出能力を使えるようになれば、青水河の結界も強力になりますし……次は氷雪家の特出能力ですね、明日教えて貰いましょう」
「ああ、そうだな。明日、か……」
緑木家の脅威は和らいだが、他の家からの攻撃が無くなる訳ではないのだ。
もう迷ったりなんかしない。緑木の糞爺のような奴が、五大家のトップなんだ。あんな奴に、水園家を壊されるなんて絶対に嫌だ……何があっても護りきる、一つも溢れ落とさないように、全てを……今度こそ。
段々と夕闇に染まってゆく空と、消えてゆく虹に、私は決意を新たにしたのだった。