第149話 相国寺 寝所(7)抵抗⑦

文字数 629文字

 身を硬くしている仙千代に、
信長の怒声も足も飛んでこなかった。
 正座のままの仙千代が寝所の薄闇に主を探すと、
信長こそ不貞腐れたように、

 「七面倒は止めじゃ。飽いた」

 と仙千代の枕に首を乗せ、
背を向けて横たわった。

 今一度、両手を床についた後、
退室しようという仙千代に、

 「勝手をするな。務めを果たせ」

 と腕を伸ばして褥に入れた。

 「お怒りなのでは……」

 「やかましいのだ、
万千代といい、仙千代といい。
千代と名の付く奴にろくな者は居らん」

 万千代とは長秀の幼名だった。

 信長が抱きすくめるので、

 「上様の枕が、あれに」

 と気にしてみせると、

 「仙の枕は儂の腕じゃ」

 と言った。

 しかし、それは揶揄(からか)いで、
仙千代が枕を拾って戻すと信長は逆らわず、

 「久しぶりに仙の泣き顔を見た。
以前はいつであったかな」

 と言うが早いか、
あっという間に寝息をたてて眠りに入った。

 戦場でもなければ大隊を連れての行動は、
所詮、常日頃は不可能ではあるが、
機動を好む信長とはいえ、
年若い小姓のみを伴にして出掛けるという無謀を、
以降、仙千代は見ることがなかった。

 しかしこの諍いの後、数日は、
信長は不機嫌を装って、
仙千代を遠ざける真似をして、
それでいながら、
他の者に仙千代の動向を尋ねるという風で、
信長と仙千代の間に何があったのか、
親しい小姓仲間は面白がって興味を示した。

 「上様は吉法師であられるままだということだ、
根の根は未だに」

 仙千代の答えに相手は首を傾げるのみだった。
 


 

 


 

 

 
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