第238話 越前国(9)秀吉の早馬

文字数 669文字

 秀政、仙千代、及び二人の近習達で、
書状を片っ端から片付けた翌日、
加賀に留まっていた羽柴秀吉から急便が遣された。

 加賀の奥の一揆軍は信長が帰還に向かうと知って、
一挙に攻勢に転じ、
消したはずの導火線に新たな火を点け、
猛火をあげた。
 
 明智光秀が一色義道助太刀で丹後へ発ち、
他の武将達も帰国の途についており、
戦後処理で単軍となっていた羽柴秀吉は
危機に晒された。
 となれば援軍要請があって然るべきで、
信長のもとへ早馬が寄越された際は、
信長本隊であれ、
柴田勝家であれ、
一軍を派遣せねばならぬと画策していたところ、
秀吉の報らせは、

 「講和に向かうとなった後にも
刃を向ける不心得者に罰を与えし天恵の好機にて、
(しか)と鎮圧してみせる所存」

 と、そこに怯心(びょうしん)は微塵もうかがえず、
意気軒高に勇ましく結ばれていた。

 「知略で鳴らす羽柴軍といえど、
知らぬ土地での一戦は
不利に過ぎるのではありませぬか、
ここは北陸道に二年居座り、
戦い抜いた柴田殿の力を今一度仰ぎ、
軍を差し向ける他ございません」

 と仙千代が戦況を鑑みて、
まずは常套手段を述べた。
 本来この役目は上席の菅谷長頼、
もしくは堀秀政だが、
長頼は信忠軍に使者で出て、
入れ替わりに当地へ入った秀政は到着して間もなく、
仙千代が口火を切るべき立場にあった。

 「で、あるな。
やはり柴田だ。
遣いを差し向けよ、加賀へ向かえと」

 北の国々の一向宗の鎮圧は成り、
柴田勝家はじめ、
織田家諸将が賜った北陸とはいえ、
信長本隊を減じることは
帰路の安全を思えば難しく、
このような場合、
北陸の主となった勝家が秀吉を援護するのは当然だった。

 
 
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