第12話

文字数 503文字


 リリーの言うとおりであれば、ここは知る者とてない海の真っただ中。小さなサンゴ礁の一角で、しかも洞窟の中だ。
 死んだ気になって泳いで、たとえ一時はリリーの目を逃れて洞窟から脱出しても、その先がいけない。僕の力だけでは、サンゴ礁を離れることさえできないじゃないか。
 これはまずい…。
 ところが状況は、まったく予想を外れた方向へ走り出した。このとき洞窟の中に、ある声が突然大きく響いたのだ。
「これは何だ? お前たちの愛の巣か?」
 話し手の姿を求めて、僕とリリーはキョロキョロと見まわした。
 誰の声だろう?
 それどころか、あまりに耳慣れたその話しぶりに『そんなんじゃないよ』と僕はとっさに言い返そうとしたぐらいだ。  
 でも僕の口からは、どんな言葉も出てこなかった。僕はそれほど驚いていたのだろう。
 僕の目玉は、きっとゴルフボールのように大きくなっていたに違いない。
「コバルト!」
 そばの水面が突然ザザッと泡立ち、水が割れたかと思うと、その姿が見えた。
 そこには、もちろんコバルトがいた。すねた子供みたいな顔をして、僕を見てニヤリと笑っているんだ。
 見たところコバルトに異常はなく、負傷しているようにも見えない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み