第3話 二人の未来

文字数 999文字

 京橋の居酒屋はどこの店も込んでいるので商店街を外れた路地を二人で歩いていた。
 雨は止んだが生ぬるい風がビルの間を通り抜けていく。
 少し人通りが少なくなった裏通りでとある店を見つけ、階段で二階へ上がり店員に席はあるかを聞いたら運良く待たずに済んだ。
 テーブルに案内されたところは区切りがたくさんあって店の中は思っていたより賑やかだった。

 時間の経過とともに二人は少し酔いが回ってきた。
 気分が良くなってきたところで誠は話を切り出した。
「桃子、次の金曜日に俺のバイクでサウナまで迎えに来てくれないか?」
「どうして?」
「ちょっと接待なんだ。夜の9時過ぎには終わるからアウトサイドの駐車場まで。頼むよ」
「いいよ。わかった」
 桃子は少し何か引っかかるところはあったが迎えに行くことにした。誠の愛車を久しぶりに運転してみたかったのも確かだ。旗を立てて走る暴走族のうるさいバイクよりよっぽど誠のCBRを飛ばすと音も良いし気持ちいい。
 
「もし、俺がいなかったら桃子はどんな人生を生きていたと思う?」
 誰もが一度はパートナーに聞いてみたいセリフを誠は桃子に素直に尋ねた。
「わからないけど、あまり変わらないような気がする」
「そうなんだ」
「自分を闇の世界から救ってくれる人をみつけて生きていくわ」
 桃子の投げやりとも言える予想外の言葉だった。
「他人任せにしたらダメだよ。俺が言えた義理じゃないけど、桃子は頭がいいし大学にも通える。好きな人を見つけて自分らしく生きたら幸せになれるよ」
 単なる地元の不良からヤクザの世界に流れ込んだ誠も桃子のように自分の道を探していた。
 ビールを流し込み、少し考えてから
「事が済んだら足を洗おうかなぁ。どう思う?」
 桃子に尋ねた。
「ついていくわ。えっ......事って何?」
「い、いや、何でもない」
 誠は枝豆を口に放り込み、桃子はそれを見つめながら酎ハイレモンを飲み干した。
「明日、何する?」
 なんでこんな美人が俺のそばに居るのかと考えると不思議なものを感じた。
 桃子を失いたくはないなと誠は二人の未来のことを考え始めた。
「昼からどこかへ行こうか?」
「そうね」

 次の日の朝、誠は銃の試し打ちも終え、決行の日を待つだけだったが、全く落ち着かなかった。ひとりで抱え込むことが苦手な誠はすべてを桃子に話すべきか悩んだが、知らない方が身のためだと黙っておくことにした。

 さあ、二人でどこかいこう。



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登場人物紹介

西山航。主人公。サラリーマン。

内縁の妻の桜見春奈。

田崎浩一。警察官。航の幼馴染で親友。

スーパーマーケット井田の親父。井田正人。

スーパーマーケット井田の奥さん。井田優子。

平野誠。暴力団、渡辺組の組員。

刑事の鳴海。

山本組の向井悟。

山本組の組長の山本。少し謎の人物。

渡辺組組長の渡辺。

渡辺組の近藤。

坂口。山本組の組員。山本の部下。

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