どんな女の子にも優しいだけ

文字数 1,326文字

「由衣ちゃんとは、どうなっているの?」
 今の流れならば、聞きやすい。しばらくの間、シュウは由衣ちゃんの話をしてくれなかったので、進捗状況が気になっていた。
「特に何もないよ」
「連絡は取り合っているんだよね?」
「まあ、うん」
「歯切れが悪いなあ。デートに誘うのはハードルが高いなら、アオちゃんを見においでって、言ったらどうよ」
「アオをダシにしたら、断りにくくて困らせそう」
「どうして、断られることが前提なの? どんな女の子でも、シュウに誘われたら喜ぶって」
「ヒナちゃんも?」
「勿論、嬉しい」
「そっか」
 シュウは、くすぐったそうに笑う。じれったいな。いつまでも遠慮していたら、由衣ちゃんを他の男に取られてしまうよ。


 バスターミナルに着く頃には、すっかり雨はやんだ。これならば、学校で様子見した方が良かっただろうか。でも、シュウと色々なお話が出来たし、よしとしましょう。
「ありがとう、助かった」
 お礼を述べると、シュウは畳んだばかりの傘を私に差し出す。意図が分からなくて、私はシュウの顔を見上げた。
「また、降るかもしれないから」
「大丈夫だって」
「いいから」
 シュウは、私に傘を握らせる。手を包み込まれて、さすがにドキッとした。
「じゃあね」
「ちょっと、待って」
 私の制止を振り切って、シュウは足早にバスターミナルから離れる。シュウが家に着くまで、雨が降りませんように。後ろ姿を見送ってから、渡された折り畳み傘に目を落とした。


 今日の体育はバレーボールで、ワンセット毎に交代しながら、隣のクラスと試合をする。対戦相手に現役のバレーボール部員が二人いたので、殆どボールに触れることなくゲームセットとなった。
 私はコートから出ると、壇上側の壁に寄り掛かって座る。屋外よりマシとはいえ、体育館内も蒸し暑い。大きな扇風機が二台フル稼働しているけど、あまり効果がなかった。
 半面のコートでは、男子がバスケットボールをしている。丁度、シュウがレイアップシュートを決めていた。勉強といい、スポーツといい、何事も器用にこなせる子だ。
「昨日、シュウと相合傘をしていたでしょ」
 ボーッと男子サイドを眺めていたら、夏南ちゃんに声を掛けられる。二年から同じクラスになった、ギャル系の子。
 夏南ちゃんがシュウを好きなことは、クラスの大半が知っている。恐らくは、シュウ当人も。
「親切心で入れてもらっただけで、ときめきイベントとは程遠いよ」
「ゆいぴはそう言うけど、超羨ましい」
「シュウは誰にでも優しいよ。他の子にも同じ対応をするって」
「いや、女の子に期待させるような真似はしないね」
 確かに、傘を貸してバイバイしそう。私は恋愛対象外だから、入れてくれたんだ。夏南ちゃんは緩くカールした毛先を指に巻き付けながら、意味深な目線を私に向ける。
「思ったんだけどさ、アンタ達って、距離間がバグっていない?」
「普通でしょ」
 友達同士としては、自然な接し方の筈。多分、シュウの方だって。
「ウチはノー眼中っぽいから告白しないけど、ゆいぴならば他の子が彼女になるより祝福出来る」
 夏南ちゃんは、あっけらかんとした口調で言った。見当違いだよ。私が取り繕うように笑ったところで、シュウがまたシュートを決めたようだった。
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登場人物紹介

比奈結子(ひな・ゆいこ)

ハキハキした性格の女子高生。

中学時代に失恋して以来、ナカナカ恋ができないでいる。

邦倉修士(くにくら・しゅうじ)

結子と同じクラスで、周りから仲良しコンビとして認定されている。

チャラいイケメンに見られがちだが、実は草食系男子。

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