【ブックガイド】人生は、断片的なものでできている

作者 mika

[創作論・評論]

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21件のファンレター

☆NEW!!☆ウィリアム・フォークナー『エミリーへの薔薇』 #ノーベル文学賞
皆さまに、ぜひとも読んでもらいたい! と思う作品をネタバレなしで紹介しています。
ノーベル文学賞って気になるけど、難しそう……そんな受賞作家の作品も3000字程度で解説。
現在、お題企画「戦争について考える」に参加中です。

表題は『断片的なものの社会学』(岸政彦)のオマージュです。
※表紙はAdobe StockからFranzi Drawsさまの作品を使用させていただきました。

ファンレター

ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』

mikaさんの活動報告と合わせて読んで、mikaさんがどういう意図でこの書評を書かれたかよくわかりました。
実はあのセンター試験の日の事件は、私もネットニュースで見て、衝撃を受けていました。
詳しい事情は部外者にはなかなかわかりませんが、学校生活や受験制度、また教師や親との関係が子供に大変なストレスを与えていることは間違いないですよね。『車輪の下』は受験生が読めば、「ああ、悩んだり苦しんだりしているのは自分だけじゃないんだ」と思えるでしょうし、親や教師たちが読めば、自分もまた、ハンスを追いつめていた大人たちと変わらないのではないか、と自らを省みることができますね。やっぱり文学というのはこの世の中に必要なものなんだ、と改めて思いました^^
『車輪の下』はよく中学や高校の課題図書になっていたりしますが、建前では「名作を読め」と生徒たちに勧めながら、でも学校制度や中等教育の現場では矛盾したことをしてしまっている…それが現実の姿なのかもしれないと思うと、やり切れない気持ちにもなります…。

mikaさんの他の書評、「コロナ禍の先へ:書評『Day to Day』『Story for you』」でも、「いじめの責任は誰にある?:書評 五十嵐律人『原因において自由な物語』」でも、常にティーンエイジャーに寄り添う視線が一貫していて心を打たれます。子供を追いつめるのも大人だけど、子供を救うのも大人なんですよね。以前mikaさんから、教会のお仕事でティーンエイジャーの子たちと課題曲に取り組んだ経験を教えていただきましたが、そこでmikaさんに接することができた少女たちのように、この書評が今の学校の中で苦しんでいる子供たちに届けばいいな、と思いました^^

返信(1)

南ノさん、お忙しい中でお読みいただきありがとうございます。南ノさんもあの事件、衝撃を受けられたのですね。受験のストレスで、いまも苦しんでいる最中の少年少女たちが全国にたくさんいるはずです。その追いつめられた心の矛先が、自分自身に向けば自傷や自死に、親に向かえば家庭内暴力に、見知らぬ他者に向かえば、今回のような事件に至るのではないか、と思います。

南ノさんのおっしゃる通り、「文学というのはこの世の中に必要なもの」だと、わたしも信じています。他者の気持ちに寄り添う、共感するというのは、言葉にするのは容易いですが、実践するのは難しいものです。文学作品を読むことで、自分ではない、他者の目を通して物事を見ることができます。その読書体験は、もう一人の自分の目(別人の視点)で、自分自身を見つめ直す手助けになってくれます。
まずは『車輪の下』をおすすめしましたが、一生懸命に受験勉強をして難関の中高・大学に合格する、という人生とはまったく違う生き方の子供たちの物語を読んでみるのも、良いのではないかと思います。たとえばアゴタ・クリストフの『悪童日記』では、戦時下で祖母の家に疎開してきた少年たちがたくましいです。二人は学校に行きたくなくて、大人をだますために、視覚障碍者と聴覚障害者のふりまでします。

『車輪の下』では、フライク親方がハンスにたびたび声をかけて、別の生き方、別の居場所を提示していたけれど、ハンス自身が職業差別意識でがんじがらめになっていて、自分で自分を追いつめてしまっていたように読み取れます。
わたしの知り合いで、医大の受験に失敗して、2浪、3浪してもあきらめきれない、というかたがいました。そのかたの場合、父親が医者なので、本人があきらめられない気持ちもよく分かり、ご家族も強くは言えないのかもしれません。最初にこうと決めた生き方をあきらめる、別の生き方を考えるというのは難しいものだ、と思います。

教会での子供アンサンブルの指導をした話、覚えていてくださってありがとうございます! 彼女たちのうち、遠くに引っ越して行った子と半年後くらいに会う機会がありました。そのとき、「新しい教会では馴染めたけど、新しい学校ではまだ馴染めない」と話してくれたことを覚えています。この言葉を聞いて、彼女にとってひとつだけでも、居場所と思えるところがあって良かった、とホッとしました。
学校や家庭が居心地良い場所であれば、それにこしたことはないですが、そうでなかったときに、自分を受け入れてくれる、安心できる場所がほかにあれば、と思います。地域の活動でも、児童館でも、スポーツや音楽のクラブでも、なんでも良いです。複数の居場所(コミュニティ)を持つことで、子供たちがもっと生きやすくなるのではないか、と思います。おっしゃる通り、「子供を追いつめるのも大人だけど、子供を救うのも大人」なんですよね。家庭と学校以外にも、どこかに居場所が必ずある、人生の選択肢はいろいろある、ということを伝えられたら、と思います。