【ブックガイド】人生は、断片的なものでできている

作者 mika

[創作論・評論]

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21件のファンレター

☆NEW!!☆ウィリアム・フォークナー『エミリーへの薔薇』 #ノーベル文学賞
皆さまに、ぜひとも読んでもらいたい! と思う作品をネタバレなしで紹介しています。
ノーベル文学賞って気になるけど、難しそう……そんな受賞作家の作品も3000字程度で解説。
現在、お題企画「戦争について考える」に参加中です。

表題は『断片的なものの社会学』(岸政彦)のオマージュです。
※表紙はAdobe StockからFranzi Drawsさまの作品を使用させていただきました。

ファンレター

ルパート・ブルック

mikaさん、こんばんは。

さっそくの投稿、しかも文学作品からの考察、流石です。
「イリアス」は確かに、最古の戦争文学ですね。先日通読したときは、「神」と「人間」との関係を考えながらだったのですが、戦争そのものとして読むのもいいと思いました。「オデュッセイア」を積読したままなので、その視点で、そろそろ進めなくては、と…。

そしてブルックの詩。考察のとおり、特に戦争遺族にとってはこうした言葉が本当に必要だったと思います。
mikaさんも触れられていますが、僕はどうしても日本のことを考えます。
日本でも、こうしたメッセージが、戦意発揚へとつながっていったのは同じでしょう。
渦中に入ってしまえば、そうせざるを得ない部分もあり、自分もその流れに乗るであろうことは想像に難くないですし。

自作で更に返答としたいと思います(自分で自分の首を絞めるの図)。
ありがとうございました。

返信(1)

村山さん、さっそくお読みいただきどうもありがとうございます!

おっしゃる通り、「「神」と「人間」との関係」というのは、『イリアス』における重要なテーマの一つだと思います。
2020年4月頃の読書会で、パンデミック文学(疫病による危機を描いた文学)について話題になりました。
その時、パンデミック文学の起源として名前があがったのが『イリアス』だったんです。
ギリシャ軍の陣営に疫病が発生する場面に注目すると、たしかにパンデミック文学とも言えると思いませんか?
この物語では、人間の不道徳な行動に対する神罰の象徴として疫病があります。
こうした倫理観は、まさに「神」と「人間」の関係を示しているように思えます。

余談ですが、障がいを持って生まれる人や重い病気になる人を「罪人」と考える倫理観は、聖書にもよく見られます。
古代社会の人々にとっては自明の理、共通の考え方だったのかもしれません。
そういった背景があるので、新約聖書でイエスが「罪人」とされる病人たちと共に食事をし、その病気を治癒したという奇跡譚は、単なる病気治癒以上の宗教的な意義深さ(「罪」のゆるし)があったのかもしれないな、と思います。

ルパート・ブルックの美しい詩は遺族の心を慰めた一方で、募兵詩としてこの戦争とその後の戦争に利用された事実があるので、評価が難しいなと思います。
ただ、イギリスは二度の大戦を二度とも勝利していますから、第二次世界大戦の敗戦後の日本ほどはっきりと、戦争文学=反戦文学とはならなかったのではないか、と感じました。(もちろん大戦後の世界的な潮流は「反戦」でしたが)
もしイギリスが敗戦国となっていたら、ブルックの詩は「戦争賛美」と非難されて、文学史における評価もより低いものとされたかもしれませんね。
もしそうだったら、ウェストミンスター寺院の石碑に彼の名前が刻まれることもなく、母校ラグビー校やスカイロス島に立派な記念碑が建てられることもなかっただろうな、と思いました。

村山さんがどんなアンサーをくださるのか、楽しみにしていますね!
日々、お忙しいと思いますので、無理せずですよ。
本当にこのたびは、かめさんと村山さんのお題企画に参加させてくださり、どうもありがとうございます!