奇譚草紙

[ファンタジー]

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50件のファンレター

奇譚――奇妙な味の短篇、あるいは変てこな短い物語を、ほろほろと書いてみようと思います。

※不定期連載です。

ファンレター

第8話 指

私は鈍くさいので咀嚼するのに時間がかかりました。南ノさんの意図とはずれているかもしれません、これは単なる私の妄想です。
この男性はずるいです。でも得てして意のままにならない異性というのは魅力的です。前半の「ヨットの白い帆に、一瞬鳥の影が映る」暗喩がずっとフックになりました。ずるいから別に好きな人がいても、主人公と同棲を始めてしまう。インテリで俗っぽさを捨てた雰囲気を纏いながらも、自分の価値を確認するために主人公をキープにしてしまうように思えました。“他者から求められている自分”を確認することで、自信を取り戻すのでしょうね。そこがずるい。
主人公は彼のぬくもりで安眠を知る。でも主人公は“気づいてしまった”。自分から切り出した別れ、そして咀嚼できない思いを抱えて睡眠障害の泥沼に入っていくのだとしても、わたしは主人公の生き方に共感します。これは自分を守るための戦い。鬼になるような悪夢に苛まれながら、懸命に生きた主人公の11年間が、意味が無いとは言わせない。
ラスト、白昼夢からすうっと冷めたかのような描写は、南ノさんの十八番ですね。途方に暮れながらも懐かしい、あの“迷子”の感覚……。南ノさんの作品は、時間が経ってからも様々な感慨が湧き起こってくる深みがあって、格別です。

返信(1)

佐久田さん、ありがとうございます!
佐久田さんが書いて下さった内容は、私が『源氏物語』の中のこのエピソードを読んで感じたこととまったく同じです。ちょっと『源氏』の方を紹介します。左馬頭という役職の青年貴族の恋愛経験談なのですが、この女性のことを、左馬頭は甲斐甲斐しく世話をしてくれる女だけど、容貌はイマイチだと思っているんです。だから、この女性は自分から別れるなんて言わないはずだと高を括って、他の女性たちとも付き合っています。そのことをこの女性になじられると、「こんなのは普通ですよ、あなたみたいにいちいち目くじら立てる性格はどうなんでしょうね」みたいなことを平気で言うんです。ある時、こういう不毛な遣り取りがあった後で、女性がふっと笑って、「わかりました、じゃあもう別れましょう」と言います。男はまさか女から別れを切り出すとは思わないから、焦ってぎゃあぎゃあ騒ぎ出すんですが、この時女が左馬頭の指を「噛む」んです。原文では「喰ふ」となっているのですが、本当に食いちぎるわけじゃなくて、「噛みつく」の意味なんです。ただ、「喰ふ」という言葉にはインパクトがありますよね!私の作中の「夢」はこの言葉からの妄想で、『源氏』の方には、こういう描写はないんです^^
話を『源氏』に戻すと、左馬頭は女性と別れた後、急に未練が出て、暫くしてまた彼女の家に行ったりするんですが、女性はもう二度と男には会わないんです。佐久田さんの仰る通り、女性にとっては「自分を守るための戦い」だったと思うんです。私はこの女性に共感しまくりで、「いっそ指を食いちぎってやればよかったのに」と思う気持ちもちょっとあって、それで作中の女性にあんな夢を見させてしまいました(笑)ちょっと過激な場面になってしまったのですが、どうぞ呆れないで下さいませ~(^^)
佐久田さんが書いて下さったコメント、心にしみました。ありがとうございます!(*^^*)