第3話 命

文字数 1,017文字

 人類は、遂に不老長寿を手に入れた。幹細胞の研究が進み、脳細胞を含めて全ての細胞の修復が可能になったのだ。

 ips細胞の発見から五十年を経た頃から、派生する数々の画期的な発明発見が相次ぎ、その成果によって、人類は遂に不老不死を手に入れる事が出来た。しかし、その道程は決して簡単なものではなかった。実用は再生医療から始まりそれなりの成果を上げては行った。だが、常に各種の壁が次々と立ちふさがったことも事実だ。
 DNAは細胞分裂ごとにその末端にあるテロメア配列を約50から100 bp ずつ短くし、ヒトではその長さが5-6 kbp の長さになると分裂出来なくなる。このことからテロメアは「命の回数券」などと呼ばれているのだ。
 そこからの道程は険しく、膨大な研究費を掛けなければならない事が目に見えて来た。とても、一国で賄える金額ではなかった。最初、西側先進国・数カ国が拠出して合同研究がスタートした。

 この研究を主導する者が、或いは世界を支配する事になるのではないかと言う懸念が広まって行く。
 当然、中国、ロシア、インドなどは独自研究に拘った。しかし、合同研究の方は徐々に参加国が増えて行き、研究の進み方に大きな開きが出て来た事により、彼らも加わる事になった。産業スパイもどきの手法で研究成果を盗み取ろうとする数々の試みも行われたのだが、結局断念せざるを得なかったのだ。

 研究が最終段階に入った頃、合同研究チームを国連から独立させ、生命に関する問題に付いて各国政府の政策に干渉し、指導し、違反する国には制裁を与える権限が与えられる事になった。
 そして、制裁の執行の為に、国連軍を指揮監督する権限まで与えられた。不老不死を得た人類は、一つの国際組織の下に集結し、明るい未来へと向かって行くかのように思われた。だが、そうは行かなかった。
 永遠の命を手に入れる為には、膨大な金が掛かる。大富豪達は競って研究に拠出したし、各国の政治家達も熱心に働いた。

  ある朝、CEOの独占インタビューがTV及びNetで一斉配信されていた。
「この技術が実用化されたら、人口爆発となって、食糧不足、環境破壊などの問題が噴出するのではないでしょうか?」
 CEOは笑顔になって答える。
「誰も死ななくなれば、生殖は必要なくなります。セックスは快楽のためにのみ残せば良いのです。人口が増えなければご指摘の問題は起こらない。私達統治者は、永遠にその職務を果たす覚悟です」
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